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セレビシエさん

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ある街の少年

17/08/11 コンテスト(テーマ):第112回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 セレビシエ 閲覧数:770

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ある街に小学生になったばかりの背の小さい少年がいました。少年には、毎日家事に追われてマラソン大会をしているお母さんと、毎日会社の偉い人にペコペコペコペコと頭を下げてお金を貰っているお父さんがいました。
つまり普通の家庭です。
お母さんもお父さんも、他に誰もいないくらい普通の名前でした。
家には真っ白い猫もいました。少年が公園で捨てられていた彼女を拾ってきたのです。
こんな感じで、何の大きなこともなく少年は小学生になりました。
少年は背が小さくて小さくて、女の子と同じくらいでした。おまけに体育がテンで駄目で、よく周りの男子たちにからかわれました。
その中でも特にギザギザでツンツンとした頭の男の子がよく少年にちょっかいを出していました。その男の子はクラスのやんちゃな男子たちを仕切っているボスでした。男の子は少年がまるでへなちょこなのに、いつもへらへらとしていて、それなのに何故か女の子とよく話しているので気に入りませんでした。
その男の子にはお母さんしかいませんでした。おまけに軽いような重いようなふんわりとした暴力を受けていました。そんな感じだったので男の子は小学校に上がる頃にはすっかりひねくれてしまって、周りのやつらがバカでバカで仕方がない気がしてきたのです。
つまり彼はどこにでもいるような人間でした。
男の子は少年の教科書を隠してみたり、子分を従えて可愛らしい暴力をしたりしました。まるでマシュマロみたいな柔らかさのそれは、悪意に満ちたものというよりはじゃれあいみたいな風に外から見たら思えるかもしれません。男の子は毎日のように少年にちょっかいを出しました。けれども少年がずうっとへらへらにこにことしていたので、まるでムキになってしまって少年に嫌がらせをするのが段々とエスカレートしていきました。二人が二年生に上がるちょっと前に、男の子は先生にこっぴどく叱られました。やりすぎだったのです。
それからはもうその男の子の立場は片足立ち分くらいしか無くなってしまって、子分達はすっかりどこかへ引っ込んでしまいました。おまけに悪い噂が男の子のお母さんのところにまでふわふわ飛んでいってしまったので、男の子はほんとに困ってしまってメソメソ泣くことが多くなりました。
男の子にとってそれは大変良いことでしたが、彼がそれに気付いたのは大人になってからでした。
そのかつての男の子は立派な職業に就き、今ではまた子分がたくさんいましたが、前みたいに威張ってはいませんでした。彼はきっと少年に会わなければこうはならなかったでしょう。
さて、彼がまだ男の子だった時間に話を戻します。
少年はさっき言った風だったので先生にも大変好かれていました。体育は駄目でしたが勉強は良く出来て小学校の学年が上がるにつれて少年は何かと頼られるようになりました。
あるとき誰かが中学受験をするからと必死になって勉強していましたが、これっぽっちも成績が上がらなかったのでノコノコと少年の元へやってきました。そして、どうにも求まりそうにもない場所のこの面積はどう求めるのかと聞きました。塾では先生が鬼の様な顔をするので怖くて質問が出来なかったのです。
少年はニコニコとしながら教えてやりました。すると教わった彼は少年の教え方が丁寧で丁寧で解りやすかったのですっかり理解出来て、またそれにくわえてめきめき自信も沸いてきたのでした。それから、少年はクラスで毎日のように頼られました。
3年生のときに少年はクラスの女の子から告白されました。その女の子は、少年のことがずっと好きだったと言うのです。少年は困ってしまって、いつものように笑っていると女の子はいきなりワンワンと泣き出しました。呆然としてそれを見ていた少年は暫くしてなるほど、と思い一つ賢くなりました。
4年生のときに飼っていた白いネコが死にました。少年がある日家に帰ると、お母さんが頭に重しでも乗っけているような感じで迎えたので、どうしたのかと訪ねると、そのことを伝えられたのです。見てみると真っ白い毛が力なく横たわり、動かなくなったそれがいました。少年はそれを触ってみました。冷たくてまるで公園の遊具みたいにヒンヤリとしたので不思議に感じました。
お母さんは少年に対して、
寂しいだろうけど、メソメソしてはいけない
と言いました。
その頃の少年にはそれがさっぱり理解できなくて思わず、
どうしてこれは寂しいことなの?
と言いました。
お母さんは、びっくりした様子でしたが、暫くして、
生きものの命は尊いのだから、死は悲しいことなんだよ。
と大変ゆっくり言いました。
それでも少年は納得がいかず、
毎日、僕が歩くだけでアリさんは死んでしまうよ。それも悲しいことなの?
と言いました。
お母さんはなんだかギョっとしてしまって、黙ってしまいました。けれどもじっくりじっくり考えてみて最後に、
愛するものの死は悲しいことだよ。
と言いました。
少年はやっぱりよくわからないと思いながらも、そこで黙りました。
それ以降、少年は不思議に思ったことを直ぐに口に出すのはやめることにしました。
6年生になる頃にはすっかり賢くなっていた少年は、道路にぽつんとたっている標識と同じぐらいには信頼されていたので先生ともお父さんともクラスメートともほとんどトラブルを起こしませんでした。
唯一、あの白いネコが死んだ日のお母さんとのやりとりだけが少年は気がかりでしたが、当のお母さんはそれをすっかり忘れていました。
さて、少しまだ風が冷たい様な季節に少年は中学生になりました。桜の花びらがあちこちへ飛んでいき、よくある学園ドラマのワンシーンみたいな雰囲気の日に入学式が行われて、皆揃っておんなじ服を着て、校長先生の話がつまらないのは小学校と変わらないんだなとか、顔の知らない子がいっぱいいるなとか、緊張したり嬉しかったりでドキドキして、まだ着なれていない制服のように、どこかカクカクした風にしていました。けれども少年はいつものようにニコニコとしていました。
少年が中学2年生の頃にお父さんは会社をクビになりました。もともと細い糸にぶらぶらぶら下がっているような状態でしたので不思議なことではありませんでした。少年も当然、そのことを解っていたのでなんとも思いませんでした。
ところが少年のお母さんがまるで役立たずになってしまいました。毎日メソメソして家事もしないお母さんにお父さんはだんだんと苛々してきて暴力を振るうようになりました。
なんとかお父さんが再就職をして生活も安定してくるとお母さんのほうも少しずつ、何事もなかったかのようになっていきました。
初めから何もなかったのです。
さて、お父さんもお母さんもすっかり仲がなおった頃少年は高校2年生でした。
もう少年とは呼べないような歳なので、ここからは青年と呼ぶことにします。
その頃すっかり余裕があった両親は青年の心配をしました。その心配というのは、息子は成績も良く自慢できるのだが、反抗的な態度を一度も取ったことがない。反抗期というものは誰しもが通る道だ。息子の反抗期はまだだろうか。というものでした。
傲慢な両親は何の責めれるところのない息子を半分自慢に思い、半分不気味に思いました。
実はこの半分には随分と偏りがありましたが、両親は傲慢でしたのでこれを認めようとしませんでした。
両親のこの不安を察知することがそのとき、青年には出来ませんでした。何故かと言うと、そのとき青年は読書に耽っていたからです。先人の考え方が如何に素晴らしいかを知り、その知恵や思考の型をどんどんと学んでいったのです。ですから家では図書館で借りた本をずっと読んでいました。
これは両親の不安の種をさらに成長させました。息子のいないときにお母さんが部屋を覗いてみたりすると、難しそうな本がたくさん散らかっているのです。その中で一番分厚いやつを少し手にとって読んでみましたが5分もたたずに閉じてしまいました。あまりにも自分達とはかけ離れてしまった青年に形容し難い気持ち悪さを覚えました。
ですが本を読むことを咎める訳にもいかず、両親は黙ったままでいました。それどころか思ってもいないのに青年を誉めたりもしました。青年はすっかり安心してしまって毎日読書に耽りました。
両親と、青年との距離はぐんぐん離れて行きました。実はその間にはなんの変化もありませんでしたが、少なくとも両親はそう思っていました。
青年は高校を卒業すると、地元の大学の文学部に入学しました。そこでも色んな本を読んでどんどん知識を蓄えていきました。
青年が大学生にもなると両親もなんだかすっかり青年の心配をするのにも疲れてしまって、結局、両者の間には何も起こりませんでした。
それよりも青年の働き先、つまるところ自分たちを支えてくれる柱になってもらえるかが重要でした。
そんな密やかな願いを抱きながら青年が大学へ行くのを支えてやっていると、ある日お母さんが死んでしまいました。
その日は良く晴れた休日の1日でした。
お母さんは街を歩いていたところをいきなり後ろから車が猛突進してきて、轢かれてしまったのです。車を運転していた人もそのまま勢いよく誰かの家の壁に激突して死んでしまいました。その男は覚せい剤をやっていたのだそうです。
こんな理不尽なようなことも無くはないのです。
さて、実はその暴走した車が青年のお母さんを撥ね飛ばすところを偶然に青年は見ていました。どこからかと言うと、隣で見ていました。青年とそのお母さんはその良く晴れた日に二人で買い物に出掛けていたのです。青年とお母さんとが並んで歩いていると後ろから車のエンジン音が物凄い勢いで迫ってきていることに青年は気付きました。どうやらお母さんは気付いていない様子で、教えてあげようにもどうにも間に合わないような気がしたので、青年は一人でいきなり道路の隅に飛びました。びっくりしたお母さんは青年の方を見ましたが、その瞬間、暴走した車がお母さんを撥ね飛ばしました。青年は突然の出来事に興奮しながらそれを見ていました。ギラギラと照り付ける太陽、それを受けるアスファルトの上に散らばった鮮やかな血の色を見て、青年は少しだけうっとりもしました。けれどもやはり、そんなに綺麗なものではないことが直ぐにわかってきて、携帯電話で救急車を呼びました。
それから毎日のように青年の元にニュースの取材がやってきました。そのときは熱中症で人が倒れたとか、そういう規模の小さな話題ばっかりでしたのでその事故は大いに注目を浴びました。極悪非道を尽くしてきたかのようにその車に乗っていた男は言われました。実を言うと青年の中では半分その車の男に感謝していました。お母さんはお金を稼がないし、家事くらいは青年にも出来たので、あまりお母さんの生きている理由がわからなかったのです。もちろん、十分に賢かった青年はそのことを口に出したりしませんでした。ニュースの取材には毎回同じ顔を張り付けて、絶望の淵に立たされたかわいそうな人間のような風にしました。それで、どんどんメディアの矛先はその男の元へと向けられて、いつのまにかその男の両親や、交際していたという女の人まで出てきて謝罪を要求されました。
そんな状況に青年はほんの少し同情しましたが、やはり自分とは関係の無いことなのであまり考えないようにしました。

それから先、あまり話すような大きなことはありませんでした。青年はそんな風にどんどん成長していき、やがておじいさんのときに死にました。

なんでもない普通の家庭の、よくある話をしましたが如何でしたでしょうか?
青年は賢く、けれども少しだけ他の人とはずれていたのかもしれません。
しかし、僕は彼が人間の中でも最も人間的だと思います。


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