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フィリピン哀歌

17/08/09 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:2件 64GB 閲覧数:594

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 家族でフィリピンのセブ島に旅行に行った時のことだ。6才の娘の手を引いて、夕方の市内を散策していたとき、娘とはぐれてしまい一晩中マンゴースクエアを探しまわったことがあった。今となってはいい思い出なのだが、当時は気が狂う直前まで追いつめられた。
 マンゴースクエアとはコロンと並ぶセブ島の繁華街である。
 道端に娘と同じ年頃の女の子と思える物乞いを見かけた。哀れと思い数ペソの小銭をかごに入れた時に、やおらその娘が立ち上がった。ありがとうと言うつもりなのだろうと思っていたが、いきなりズボンのポケットに手を入れてきた。もっとくれと言うことなのかと思って「No No No」と言ってやんわりと断ろうとしたが力が強い。するといつの間にか大声で叫ぶ7〜8人の子供に取り囲まれていて財布とパスポートをひったくられた。取り押さえてもパスワークが素早くて、誰が今持っているか分からない。こちらが殴るフリをすると、恐れて引き下がるということを繰り返した。スマホは盗れないとわかると一斉に逃げ出した。「まて!」と言い反射的に追いかけてしまった。
 あきらめて戻ると異国の土地で、娘の姿が消えていた。

 大失態だ。すぐにホテルに戻り、警察と日本大使館に電話をする。ゆとりがあるときは英語の訛りも楽しみの一つだが、『clean』がどう聞いても『キリン』に聞こえる。全てに苛立った。
 妻は娘を探しにホテルを飛び出して行った。あなたがついていてなんてこと!と叩かれた頬は忘れることができない。
 市役所に行ってからでなければポリスレポートをもらえないが、事情が複雑なので警察官に来てもらった。ストリートチルドレンの典型的な手口だと言う。ここには慢性的な貧困があり、さらに教育費が高いので、なるたけ優秀な子供に投資しようとする親が多い。その結果、優秀ではない子供は家にいられなくなりストリートで生きるようになるという。育てない子とは? 一体なんだ? ただの育児放棄ではないのか? しかも自分たちが老後に世話になるつもりで頑張って一人を育てているという。あまりに酷すぎる。韓国も似たような事を言うが『息子が帰ってこない』と絶望して自殺する老人で世界一の自殺大国になっていることを教えてやりたい。
「そうやって育てた子供があなた達の面倒を看ることはないですよ!」と声を大にして言いたい。なにもかもがくそったれだ! 自分が産んだ子供が道端で途方に暮れていてなぜ平気でいられるのだ! あんまりだろう?
 事情聴取が終わり捜索願が出された。警察も全力を尽くすと言ってくれた。しかし、あてになるかわからない。私はホテルで黙って待つことができないためマンゴースクエアに探しに行くことにした。妻は英語ができない。すぐにホテルに帰ってくるだろう。もうリゾートどころではない。なんとか娘を探さなければ!
 外は暗くなりクラブから大音量の音楽が路地に漏れている。23時を過ぎると怪しい人が溢れてくる。日本でいう渋谷のような場所で、女の子一人を探すのは雲をつかむようだった。夜でもストリートチルドレンたちは路上をうろついている。誰を見ても娘に見えてしまう。
 交差点で信号を待っていると必ずと言っていいほど買春を持ちかけられる。5000ペソだと言う女の子は15才くらいか?
「めちゃくちゃにしてください」と日本語で言う顔はただの子供だ。そうやって育てない子供をまだ作るつもりか!と怒鳴りたい。
それよりも娘だ「日本人の女の子を見なかったか?」と聞くと「見てない」と言われた。
「見つけてくれたらたくさんお礼をするよ」と言ったら「わかった」と言った。この時の売春少女の反応を見てこれだ!と思った。いくらかのお金で探してくれるなら安いものだ。私は片っ端に頼んで歩いた。熱帯の喧騒な夜はこうして始まり、そのまま明けた。

 次の日の早朝、子供を連れた女性がフロントに来ていると、ホテルから携帯に電話が入った。
来た!ホテルに急いで戻らなくてはと思って気が付いたが、あれだけ歩き回ったつもりでもホテルまでは1kmもない場所にいた。
 ホテルに駆け込み、フロントの様子を窺う。すると植え込みの影に二人連れが座っていた。
「別人だよ……」
この時の怒りに似た失望感を忘れることができない。私は涙ぐみこの国を呪った。
 連れられていた子供は中国の女の子だった。女性は金を払えと言うが払う金などない。
 ガラスの回転ドアが回り、妻が娘を連れてホテルに入って来た。我が目を疑うとはこのことだ。
「パパ!」貴い一瞬だった。言葉になっていない声をあげて娘の手を取った。誇らしげな妻が「すごいでしょう!母のカンよ!」と言った。
人が怖くて街はずれにいたらしい。私は娘の心を読み間違えていた。

この日以来、妻に頭が上がらない。
でも幸せだから許す。


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このストーリーに関するコメント

17/08/16 沓屋南実

2000字とは思えない、とぴっぴさんの作品を読むたびに感じます。
フィリピンの子どもの置かれた状況は、たびたびニュースや報道番組で知っていますが、捨てられた子どもがどんなにして生き延びていくか、その過酷さをまざまざと見せつけられました。
娘さんが見つかってよかった、それも日ごろ娘さんの行動をよくわかってる母親のカンという、すてきな終わり方でした。

17/08/17 64GB

いつもありがとうございます。このごろいいなと感じる本が『ひよっこ』NHKの脚本だったりします。幸い世界中に友人がいるのでお国事情に困りません。日本では全く知らないようなテーマで外国の事情を伝えつつ腕を磨きたいです。

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