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田中あららさん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 仏ほっとけ、神かまうな

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二人が歩く前にしてのけたこと

17/08/08 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:930

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 優子は二卵性の双子を産んだ。男の子だった。

 息子たちが生まれてから、優子は常に寝不足だった。夜中だろうと明け方だろうと泣き声で起こされた。同時ならまだいいが、そうはいかない。一人の授乳を済ませてうとうとしていると、もう一人が泣き始める。いつもどちらかが起きているような日常の中、2時間続けて眠りたい…それが一番の願いだった。ちなみにその願いがかなったのは3歳になってからだ。
 二人は貪欲にミルクを飲み、盛大に排泄した。オムツ替えは頻繁だった。二人並んで寝ている時、相手にちょっかいを出すのは、大抵弟の方だった。
ここでは便宜上、兄、弟と記す。なんならAとBでも良いが同じことだ。どちらが兄かは単に戸籍上の扱いであり、優子はその手の区別をせずに接した。
 二人を手が届かない程度離して寝かせると、相手を探した。ずりずりと背中で近寄って行くこともあった。手で触れるところにいると安心なのか、やたら相手を探すのは弟の方だった。
 優子は泣いている子を抱き上げてあやす。そうするともう一人が泣き出す。結局二人を抱き上げることになる。一人だけをじっくり抱っこしたいという思いは憧れでしかなかった。

 息子たちは首の座るのが早く、首が座ったと思ったら寝返りを打った。寝返りが自由にできるようになったら、ハイハイを始めた。腕を伸ばして膝を立てるハイハイではない。腹をつけたまま肘で進む、ほふく前進だ。何も置いていない畳の上をほふく前進する二人の姿は、面白くもあり奇妙でもあったが、目を離せなくなった。どこに行ってしまうかわかったものじゃない。
 ほふく前進は生後4ヶ月あまりで始まり、6ヶ月にはつかまり立ちを始めた。つかまり立ちができるようになると、障子の手の届くところが破られた。障子の桟につかまって体制を確保し、二人で綺麗に破りとった。破りとるところがなくなると、次は桟を使って登ろうとしたが、うまくいかなかった。
 優子は、障子の最下段は破れたままでいいと思っていた。ところがある日、上の段も破れ始めていた。兄が四つん這いになり、弟が器用に桟を支えにして兄の背中にのぼり、上の障子を破いていたのだ。よくよく見ると常に弟が兄の上に乗り、弟は障子の桟に移ると、そのあと兄がつかまり立ちをして、桟を登り始めた。つまり、弟は兄の助けを得ながら桟を登っていたが、兄は弟の助けがなくても、桟を登ることができたのだ。二人の連携プレイとバランス感覚の良さをみて、優子は思わず「あっぱれ」と声に出して言った。障子など、また貼ればいい。彼らが障子を破いている間、圭子は他の家事ができた。危険だとは思わなかった。さぞ楽しいことだろうと目を細めたものだ。

 彼らの行動は優子の予想を超えていた。障子紙が全て破られ…文字通り上まで全て…これでひと段落と安心した途端、彼らは襖に取り掛かった。襖には一ヶ所、小さな引っ掻き傷のようなものがあった。彼らにはそれで十分だった。そこに小さな指を突っ込み、穴をひろげ、ビリビリと破いた。
 ところで障子の桟は、およそ10cm x 15cm くらいの格子状になっていたのだが、襖の中身は違った。彼らは、襖紙に関しては、その全体を破り取ることをせず、穴を広げて行った。彼らの背丈ほどの位置だった。直径30cmほどの襖紙が破り取られた中には細い木の枠が1本見えていたが、細かい格子状ではなかった。その1本が邪魔だったに違いないが、頭を入れるスペースはあった。
 兄が先に穴に頭を突っ込んだ。そして、ぐいぐいと体を押し込み、弟が兄の体を押した。兄は見事に襖の反対側に転がり出た。ケラケラと笑う二人。次は弟の番だった。今度は兄が弟の体を押した。弟が反対側に転がり出た。繰り返すうちに、当然穴は大きくなっていき、中の木の枠は壊れた。

 優子の母親が孫の顔を見に来た。家の様子を見た母親はびっくり仰天した。「こんなことをさせておいていいの?壊しちゃいけないものはいけないって教えないと!」と興奮して言った。
「そんな余裕はないのよ。ミルクを飲ませて離乳食を作って、オムツを替えて、昼寝はしないし、夜も起きるし、自分のトイレだっておんぶに抱っこして行くことがあるんだから。ご飯なんて、座って食べたことないわ」
「そうは言っても…」
「それにね、こうやって遊んでいるのを見ていると、面白いんだから。個性も見えるし、連携プレイのすばらしさったらないの」
 幸いにして、大きな怪我はなかったが、擦り傷切り傷はしょっちゅうだった。

 育児は大変だ。その時はこれが一生続くのかと思うほどへとへとだったのに、すぎてしまうと忘れる。成人した双子は別々の道を歩んでいるが、乳児期から夢中になって仲良く遊んだ記憶が、彼らの心の深くに潜んでいるのかもしれない。



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このストーリーに関するコメント

17/08/27 木野 道々草

こんにちは。双子の連係プレイに、笑いながら拝読しました。破れた障子を、物を壊したと見るか、目に見える二人の成長の証と見るかで随分違うと感じました。面白かった一方で、やはり双子の赤ちゃんを育てる優子さんの大変さも伝わってきました。お話はここで終わっていますが、その後園児や小学生になった二人と優子さんの続編も、読んでみたいなと思いました。

17/08/28 田中あらら

木野 道々草様
こんにちは。優子はこの先も子供の自由な行動を見つめていくわけですが、ある時しつけをするには遅すぎたと感じる瞬間に出会います。はい、これはほぼ事実に基づいたストーリーです。続編は反省文になりそうなので、当面書くことはできないと思いますが、暖かいコメントをいただき感謝感謝です。

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