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本宮晃樹さん

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地平線を越えろ

17/07/30 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 本宮晃樹 閲覧数:561

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 既知宇宙の最果てで〈マジックマッシュ〉は今日も繁盛していた。宇宙はあまりにも広く、人びとはあまりにも腰抜けだからだ。
〈マジックマッシュ〉は〈プロスペクター〉たちを相手にまずい安酒を出す憩いの場である。年季の入った太陽光発電システムを全方位に貼りつけ、空気はここ数世紀ほど二酸化炭素フィルターを通った再使用のみ、水は客が足した用を失敬してろ過したしろもの。まさに自給自足だ。
「おい、俺はこないだ事象の地平線を越えたぜ」全身毛むくじゃらの野卑な男が怒声を張り上げた。「嘘じゃねえぞ。なにがあったと思う? なあお前ら」
「黙ってろ大ぼら吹きめ。きさまなんざ地平線の数光年も前からすっかりビビっちまって、ママのおっぱい恋しさにとんずらこいたってのが真相なんだろ」野次ったのは見るからにニヒルそうな痩せぎすの男だ。
「なんだとこの!」毛むくじゃらが腕をまくった。
「お、やるか?」痩せっぽちもスツールからするりと降り立った。
「お客さんがた、頼むから外でやってくれんかね」とマスター。宇宙服を放り投げる。「真空中でくんずほぐれつの押し相撲。楽しそうじゃないか」
 二人は毒気を抜かれたようだ。ぶつくさ文句を垂れながらそれぞれの席へ戻っていく。途端に陽気な雰囲気が帰ってきて、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。

     *     *     *

急募! 宇宙の最果てへきたれ〈プロスペクター〉
 ビックバンはインフレーションと呼ばれる爆発的広がりを経てなされました。それは光速を超えていたため、百五十億光年より先からは光がいまだに届かず、われわれはその先に広がる茫漠たる宇宙を観測できません。
 ジョウント航法により事実上、観測可能な領域のどこにでも旅行できる昨今、もはや宇宙地図に加えられる場所はないように思えます。ところがそうではなく、事象の地平線があるのです。それはインフレーションにより取り残された宇宙の外縁領域であり、推定では六百億光年もの広がりを持つとされています。
 さああなたを未知の宇宙が待っています、ぜひとも〈プロスペクター〉に志願してください。
雇用主:スペース・ホライズン公社
契約条件:応相談(ジョウント船貸与可)
給与体系:完全歩合制
仕事内容:事象の地平線内部の調査

     *     *     *

 世の中には二種類の〈プロスペクター〉が存在する。前哨基地たる〈マジックマッシュ〉でだべっているやつと、まじめに仕事をして二度と帰ってこなかったやつだ。
「マスター、あんたむかしは〈プロスペクター〉だったらしいじゃねえか」毛むくじゃらはこないだの騒動をすっかり忘れている。「生きて帰ってきたのはあんただけだって話だぜ」
「聞かせろよ」痩せっぽちも首を突っ込んできた。
 彼は静かに皿を拭いている。「おもしろい話はできないと思うよ」
 二人組は腕を組んでそのおもしろくない話を待っている。マスターは観念した。
「真っ暗。それだけだよ」手酌で自分用の酒を注いだ。「地平線と既知宇宙の境界を示す黒い線がある。ままよと飛び込んだ先になにがあると思う? なんにもない。真の闇なのさ」
 二人はぶるりと身震いした。「そ、それで?」
「実は相棒と一緒にいったんだ。一人一隻でな。やつはあまりの光景に錯乱しちまった。支離滅裂なことを口走っててどうにもならなかった」
「……置いてったのか?」
 マスターはうつむいている。「ああ。置き去りにした」
「どうやって脱出したんだ?」
「ジョウント船は既知空間ならどこにでもジャンプできる。闇一色の地平線内でジョウント座標を正確に入力できたのはたぶん、奇跡だったんだろう。ぼく以外に帰ってきたやつがいないのもうなずける。事象の地平線は人間が探索すべき領域じゃない。ぼくたちは待つべきなんだ。光がのろのろと這い進んできて、いつかあそこを照らし出すときまで」
「へん!」毛むくじゃらがジョッキをテーブルに叩きつけた。「そんなの待ってられるかよ」
「俺たちはあのなかへいったことはない」痩せっぽちも加勢する。「あんまりダサいんで覚悟を決めるつもりだ。水先案内人がいれば助かるんだがね」
「ぼくはごめんだね。今度こそ死出の旅路になっちまう」
「マスター!」二人同時に叫んだ。続きは毛むくじゃらが担当した。「あんたの相棒がいまなおあの中でさまよってるんだぜ。そいつを助けにいこうや」
 痩せっぽちが聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、「ついでにスペース・ホライズンからがっぽりボーナスをせしめようや」
 マスターの脳裏に陽気な相棒の顔がよぎる。もう我慢できない。ボトルを放り投げた。「ええいくそ、どうなっても知らんぞ。ジョウント船は用意できてるんだろうな」
「もちろんでさ、キャプテン」二人はさっと敬礼した。
 地平線の黒い線が三人を待っている。


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このストーリーに関するコメント

17/08/07 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
『ぼくたちは待つべきなんだ。光がのろのろと這い進んできて、いつかあそこを照らし出すときまで』というセリフが好きです。観測の可否によって線引きされた宇宙の境界というものは冒険心をくすぐりますね。

17/08/09 本宮晃樹

トッテンさま
コメントありがとうございます!
いろいろツッコミどころ満載ですけれども、冒険心を少しでもくすぐれたのなら幸いです。
台詞も(これでも一応)気を遣ってるので、お褒めいただき幸甚であります。
ありがとうございました。

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