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みやさん

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時計のない旅に出る

17/07/30 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:4件 みや 閲覧数:824

時空モノガタリからの選評

宇宙への列車旅行というロマンティックなイメージを裏切る後半の展開が意外でした。宇宙への流罪とはなんとも怖ろしいですね。これは確かに一定の犯罪抑制効果はあるかもしれませんが、主人公のように本当に追い込まれた人間に対しては、やはり無意味なのかもしれません。宇宙の漆黒の闇の中、先の見えない恐怖に彼らは何を思うのでしょう。前半と後半の落差が印象的な作品でした。

時空モノガタリK

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その駅は銀色に光り輝いていた。まさしく近未来と呼ぶに相応しいスタイリッシュなその駅は、列車で宇宙旅行に行ける駅だ。

列車で宇宙旅行だなんて、遠い昔に古いアニメーションで見た記憶があった。レトロな列車で宇宙を旅する少年、と彼を見守り導く美しい女性ー
思い出すだけで中年の私も少年の頃に戻った様に胸が踊る。そんな夢物語が、今では現実のものとなっている。そのアニメーションの作者は未来が見えていたのだろうか?

宇宙旅行が現実のものとなったからと言って、全ての人達が行ける程にリーズナブルな価格ではない。富裕層の人達の為の娯楽であり、一般人では逆立ちしても行ける訳がない。もちろん私も今回が初めてだし、これから先も絶対に宇宙旅行の列車に乗る事はないだろう。

深夜遅くにひっそりと出発する私が乗る列車には、沢山の人達が乗っていた。宇宙に行けるというのに、皆んな虚ろな瞳をしている。私もその中の一人だろう。先頭の車両には行き先すら書かれていない。
ここから一番近い惑星はなんだったろうか?子供の頃に習った「すいきんちかもくどってんかいめい」を、まるで呪文の様に私は頭で反芻する。そもそも宇宙旅行などとは変な言い方だ。今いる場所でさえも宇宙から見たら宇宙なのだから…しかし雲の遥か上まで行かなければ宇宙に行った気分にならない気持ちも良く分かる。

駅のホームの時計が深夜2時7分を指し、発車のベルが鳴り響いた。深夜という事もありプラットホームで見送る人の姿は殆ど無かった。深夜でなくても誰も見送る人達などいないのだろうけれど。
私はプラットホームの時計を見つめていた。これで時計は見納めとなる。安物の腕時計では重力に耐えられずに壊れてしまうし、そもそも持ち込みを禁止されている。私たちの乗る列車の中にも時計は無かった。これからの私たちの宇宙旅行に時計は必要ないのだから…

宇宙に続く、遊園地のアトラクションのジェットコースターのそれよりもはるかに長い線路を私たちを乗せた宇宙旅行の列車は走り出した。あの古いアニメーションの主題歌が私の脳裏を駆け巡る。私たちを見守り導いてくれる美しい女性はもちろん乗車していない。
「誰がこんな事を考えたんだ…」
私の隣りに座っていた初老の男が嘆いていた。
「確かに趣味が悪いですね」
私は窓を流れる夜空を見つめながら嘆き哀しむ初老の男に答えた。
「趣味が悪い?そんな生易しいものじゃない!これは…これは人殺しだ!」
「…あなただって、人を殺したんでしょ?私だってそうだ。だからこの列車に乗っている」
「…それはそうだけれど、余りにも酷すぎる…流罪なんて…残酷すぎる…」

流罪ー
遥か昔では死罪に次いで重い刑罰であったが、今では死罪よりも重い刑罰となっている。
殺人などの凶悪な犯罪者に流罪を適応する事により政府は犯罪の抑制を図ろうとしていた。流罪と言っても島流しなどと言う生易しいものではない。現在の流罪は宇宙へと放り出されるのだ。
宇宙へ放り出されたらどうなるのか?大気圏突入により灰になるのか、ブラックホールに吸い込まれて塵となるのかー
そんな事は流罪になった者にしかわからなった。

経済不況や不景気の煽りを受けて私が勤めていた企業は倒産し、私は職を失った。職を失った私に妻と子供は愛想を尽かし家を出て行ってしまった。一人残された私は再就職に奔走したけれど、中年の私を雇ってくれる企業はどこも無く、金が底を尽きた私はコンビニエンスストアに強盗に入り、抵抗する定員を脅しの為に持っていたナイフで刺した。
殺すつもりはなかった。ただ少し、少しだけ金が必要だっただけなのに…流罪の為の宇宙列車の開発などに金を使わずに、職を失った私の様な人間に救いの手を差し伸べる制度を何故政府は作らないのか?これでは本末転倒。これからも流罪になる罪人は増え続けるだろう。

宇宙に続く線路はやがて終わり、列車は空を走り出した。操縦士はもちろんいない。自動走行装置もついていない。どこへ向かうかも推測不能な宇宙の旅が始まったのだ。隣りの初老の男は気が狂ったように泣き喚いている。
私はポケットから隠し持っていた時計をそっと取り出した。重力で針がクルクルと物凄い速さで動いていた。付き合い始めた頃に妻からプレゼントされた安物の時計。もう私には必要ない。時間の概念のない、時計のない旅が今始まろうとしている。


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このストーリーに関するコメント

17/07/31 あずみの白馬

拝読させていただきました。
希望に満ちた旅路から、絶望への旅路へストンと落とされる描写に言葉を失いました。
もう二度と戻れない場所に送られるのは、ある意味死刑よりも残酷ですね……

17/08/13 みや

あずみの白馬 様

コメントありがとうございます。
希望の一切ない旅に出る時、人は何を思うのでしょうね…

17/08/29 光石七

入賞おめでとうございます!
遅ればせながら拝読しました。
時計のない旅、希望が一切ない旅……。後半の展開に圧倒されました。
主人公は家族を愛する真面目な人なのでしょう。隠し持ってきた時計にいろんな思いがこもっているようで、胸を打たれました。
素晴らしかったです!

17/08/30 みや

光石七 様

コメントありがとうございます。
希望の無いストーリー展開でしたが、
評価を頂きとても嬉しく思っています。

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