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つつい つつさん

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旅の記憶

17/07/30 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:779

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 嘘みたいにガタガタと揺れ、キーキーとものすごい音を立てながら進む列車に、僕はネジの二、三本もはずれてんじゃないかと心配になった。乗り合わせた人達は気にならないらしく何事もないように大人しく座っている。
 降り立った村はガイドブックにも載っていない、ただ果樹園が広がるだけの辺鄙な村だった。これまでリュック一つで外国のいろいろな町や観光地を巡ってきたけど、ふと、全く何の情報もないところに行ってみたくて、目的地の途中で駅を降りた。
 駅を出て村を歩くと、真っ昼間の太陽の光は強烈だった。しかし、意外にも快適だった。日本みたいにまとわりつくような熱気がなく、暑くても熱は歩く度に消えていくようだった。
 しばらく村の中を気のむくまま歩いた。自分の背丈より少し高い木々が綺麗に整頓され並んでいたけど、実を付ける時期ではなかったので、これに何の実が成るのか、僕にはわからなかった。同じ景色が続く中、前方に一際大きな木が立っていたので、そこまで歩くことにした。
 その大きな木までたどり着くと、その存在感は圧倒的で、村の守り神なんじゃないかと思うほどドッシリとしていた。僕は木陰で腰を下ろし少し休むことにした。通り抜ける風が心地よくて、自然とウトウトして眠ってしまった。
 キャッキャッと話す声が聞こえて目を覚ますと、遠巻きに浅黒い肌の子供達五、六人が様子を窺うように僕を見ていた。起きあがると子供達はびっくりしたように半歩後ろに下がった。僕は固まった体をほぐすようにゆっくりとノビをしながら子供達を見た。子供達は互いに顔を見合わせながら何か話していたが、立ち去ろうとはしなかった。やがて一人の少年が僕の方を見ておそるおそる指さした。どうやら、首から下げていた一眼レフのカメラに興味があるらしい。試しにカメラを持って構えてみると、子供達は、はしゃぎながら傍に駆け寄ってきた。キラキラした瞳を輝かせながら、しきりに話しかけてくる。カメラについていろいろ聞いているみたいだった。僕は返事をする代わりに子供達にカメラを向けてシャッターを切った。子供達は一瞬びっくりしたようだったけど、カメラを向ける度に嬉しそうにポーズを取った。

 ジリリリリ! ジリリリリ!
 枕元の目覚まし時計を手探りで止めると、僕は上体を起こし、目を開けた。だんだんと目が暗さに慣れてくると、そこには薄汚く散らかった部屋が広がっていた。 
 元々白だったはずのネズミ色のカーテン。小さなテーブルの上の食べかけの弁当にお茶のペットボトル。部屋の隅に崩れたように折り重なっている様々な雑誌。無造作に積まれた段ボール箱。
 Tシャツ、Tシャツ、くつした、スーパーの袋、長袖シャツ、ジャージ上、パンツ、コンビニの袋、ジーパン、Tしゃつ、ゴミ袋、ジャージ下、くつした、お菓子の空箱、くつした、帽子、ゴミ袋、ジーパン、1、5リットルのペットボトル、パンツ。
 小さくため息をつくと、自然に涙がこぼれ落ちていた。右手で涙をぬぐうと視線を壁側へ移した。そこには、笑顔でおどける子供達の写真が数枚貼られている。「おはよう」とつぶやくと、僕は台所で歯を磨いた。床に散らばった服を適当に拾い上げ着替えを済ませると、アパートを出て、仕事に向かった。
 外はもう暗く、会社帰りの人で溢れていた。駅前の牛丼屋に入ると、おそらく夕食であろう人達に混じって、朝食か昼食かわからない牛丼(並)を食べる。朝起きてすぐ牛丼はヘビーだったけど、それより安い食事は他に知らなかった。三駅電車に揺られると、職場のビルに入る。タイムカードを押すと、休憩も入れて今から一〇時間ここに拘束される。
 警備員で働く人は、五〇代、六〇代が多くて、僕みたいに二〇代で働く人間は稀だった。でも、僕が今まで怒られなかったのも、長く続いたのも、ここだけだった。することがあまりないので時給は安く、一人暮らしするのがやっとだったけど、転職する気は全くなかった。
 今日はモニターの監視ではなく、ビル内の巡回の当番だったので、僕は各階の部屋を慎重に、そしてなるべく何も触らないように隅々まで見て回る。別に仕事熱心なわけではない。そうでもしないと、時間が全く進まなかった。朝七時になり、仕事が終わると、駅前の弁当屋で300円の弁当とお茶を買ってアパートへと帰った。
 部屋に入ると、中は明るかった。だけど、それ以外の明るさはどこにも見あたらなかった。弁当を食べ終わり歯を磨くと、しばらく床に散らばった雑誌を適当に選んで気晴らしに読む。飽きたらベットに横になって寝る。そして、寝る前に壁に貼られた写真を眺めた。
 本当は外国なんて行ったことなかった。一眼レフのカメラなんて持っていなかった。雑誌に載っていた写真を切り抜いて壁に張り付けただけだった。
 なのに、写真を眺めるのを僕はやめられなかった。


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