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mokugyoさん

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旅する男ディン・ディディン ―ディン・ディディン旅行記を書く

17/07/30 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 mokugyo 閲覧数:585

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私はディン・ディディン。世界中を旅している者だ。旅では、主に歩く。喧噪の街中も、灼熱の砂漠も、極寒の大地も、きらめく海辺も、自分の足で歩いてみるのがいい。車や電車も飛行機も捨てがたいが、やはり「自由に歩く」という行為は人類に許されたぜいたくの一つだろう。健康にも良い。


私は大都会の街中を歩いていた。大通りには、ミュージカルを観終えた観客たちの群れがリズムカルに歩く。街の片隅、ひっそりとした裏通り、ゴミ箱の横に座るホームレスがこう言った。
「ようこそミュージカル劇場へ。俺はあの舞台に立ったこともあるんだ。しかしその栄光も束の間、何もかも失った俺はホームレスになった。どうだ、これこそエンターテイメント!」
そう言うホームレスの歯は欠けており、目は落ちくぼんでいた。


私は夜景を観に、大都市の湾岸へやってきた。湾岸にともるビルの明かりの数々は、それはそれは美しいものであった。多くの人がこの都市に生きていると実感する。そして、私は明かりのともったビルの一つに足を運んだ。この夜景を作ってくれた者に感謝を述べたかった為だ。深夜にも関わらず、オフィスには白色電球がともっている。目の下にくまをつくったサラリーマンがこう言った。
「ようこそ夜景の一部へ。俺たちは今日も18時間働いている。毎日毎日働いているが、一向に生活はよくならない。昨日も自殺者が出たが、まったく会社は変わらない。これが夜景の正体だ」
そう叫ぶサラリーマンの男の目はにごっていた。


私は木々が茂り、緑にあふれる山に来た。やまびこが響き、川のせせらぎが聞こえる。太陽の光がまぶしく山道を照らしている。山道を降りてきた登山者がこう言った。
「この山では何人も遭難している。夜は真っ暗になり何も見えない。悪い事は言わない、これより先に行かないほうがいい」
登山者は、山のことをよく知っている者だった為、指示通りに下山した。


私は、青い海に囲まれた孤島にやってきた。エメラルドに輝く海。トロピカルな果物が実り、軽快な音楽が聴こえてくる。浜辺で優雅に椅子に座り海を眺める私。太陽の光がテーブルのグァバジュースを鮮やかに照らしている。丸々と太った島民の女が私のもとに走って来てこう言った。
「この島に豪雨が近づいてます。津波が起きて、この島は沈んでしまうでしょう。早く逃げなさい」
女の言うとおり、私は島を脱出した。嵐がやってきて、木々をなぎ倒し、津波が海岸の椅子もテーブルもグァバジュースも飲み込んだ。


私は、はるか上空を飛行機に乗って飛んでいた。雲の向こう、遠くの空に飛行物体が見えた。パイロットにあの飛行物体は何か聞いた。
「あれはドローンだ。地上からは確認できない高さから正確にミサイルを落とす。これでテロ組織を一網打尽にできる優れものだ。科学は素晴らしいな」
そう言ってパイロットは微笑んだ。私が地上に戻った頃、上空のドローンからミサイルが発射され、地上のたくさんの人間を殺すのに成功したと聞いた。


私は深海に潜っていた。すごい水圧だ。珊瑚の群れや深海に住む奇妙な住人達の生態は、飽きることなく見ていられた。大富豪が乗る潜水艦が近づいてきて、私に警告した。
「私は深海の宝を探している。今現在はこのあたりを調査中だ。悪いが、他の場所でダイビングを楽しんでくれないか。金はやる」
大富豪の宝探しに興味があったので、ついて行きたかったのだが、拒否されてしまった。私は地上に戻った。


私は冥王星までやって来た。なかなか遠い距離だ。ふと振り返ると銀河系の星々。それはそれは見事な星のきらめきの数々であった。宇宙空間を孤独に漂っていると、調査機が近づいてきて私にこう言った。
「冥王星周辺ハ、我ガ国の領土デアル。イカナル者デモ、許可ナク立チ入ル事ヲ禁ズル」
人語をしゃべれるようになった調査機がはなった言葉に、宇宙遊泳まで律する人間の傲慢さを垣間見た。私は、地球に戻った。


私は、自分が旅した記録を文章にまとめた。私の旅行期を読んだ編集長はこう言った。
「ディン・ディディンよ。まずお前はペンネームが悪い。濁音が多い。そして、ディン・ディディンよ。お前の旅行記はまったく面白くない。お前はどこにも行っていない。どこにも行けない。お前が書く旅行記にはリアリティがなく、共感できる感情の振れ幅もなく、魅力的なキャラクターもいない。お前には何もない。どこにも行けない。こんなゴミを読ませやがって。お前はどこにも旅立てないクズ以下だ」
そう言って編集長は私の旅行記をビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。私は、小さく微笑んだ。

そして、私は今も旅を続けている。編集長の言葉を胸に、なぜ私が旅を続けるのか、自分に問いながら歩き続けている。


(終)


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