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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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赤の誘惑

12/12/02 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:2389

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とにかくショートケーキだ。
俺の頭の中は、真っ赤なイチゴと真っ白な生クリームでデコレーションされていた。
出張で初めて訪れた町。海風が骨の芯まで凍みる。
18時だというのに日は暮れて真っ暗。いっそう風は冷たくなった。
仕事も片付いたことだし、コンビニでおでんを買って、ビジネスホテルで一人酒と独身オヤジらしい夜を過ごすつもりだった。

クリスマスソングが聞こえる。
四つ辻でぐるりを見回す。
路地の先電気店だろうか。LED電球のサンタクロースがいた。
Wonderful Christmas Time。そうだ。この曲。クリスマスソングと言えば、俺の耳によみがえるのはポールのこの曲だ。
おふくろが大好きで、子供の頃クリスマスのちょっと贅沢な晩飯の時には必ずかけていた。
唐揚げとポテトサラダにプチトマト、そしてイチゴのケーキ。
おふくろと俺、二人だけの家に丸いケーキは無理だった。ケーキといえば三角のショートケーキ。
クリスマスだけは俺の三角形は鋭角でなく広角、120度の開きを持つ。
「クリスマスだから特別よ」と母がケーキを2個買ってくれたのだ。

いかん。
頭の中がすっかりイチゴのケーキになってしまった。
組み合わせが変だが、コンビニでおでんとケーキも買おう。
俺はホテルの前のコンビニに急いだ。
「いらっしゃっせー」
やる気のない挨拶に迎えられ、店に入るとすぐ暖かい空気に包まれた。ほっとする。
さてケーキ、とスイーツの棚を覗く。
ない。
ショートケーキがない。
というかスイーツがほとんどない。大福とゴマ団子しかない。
「あのすいません。ショートケーキはないですか?」
「あ。今は入れてないっすね。来週は入るっすけど。クリスマス週間だから」
なんだ、クリスマス週間って。聞いたことないぞ。
どうする?このへんに店はここだけだ。頭の中は、すでにイチゴと生クリームでいっぱいだ。今更おでんだけではすまされない。
「このへんにケーキ屋さんはないですか?」
「さー。わかんねっす。オレ甘いもん食わねーんで」
君の嗜好はどうでもいい。俺は甘いものが食いたいんだ。
「ありあたっしたー」

さて、どうする。
駅前に行けば店もあったが、片道30分はかかる。
そうだ、さっきの電気店。隣にパン屋らしき窓が見えていた。ケーキもあるかもしれない。
俺は小走りで来た道を戻った。

パン屋の店内にケーキのショーケースはあった。ショートケーキも並んでいる。
ただ如何せん、店はもう閉まっていた。
腕時計を見る。19時前。いくらなんでも閉店が早い。
途方に暮れ、電球のサンタクロースと見つめ合う。LEDで目に優しい。地球にも優しい。しかしサンタはケーキ屋の場所を教えてくれない。
電気屋も閉まっている。このあたりは夜が早いのだろうか。
左手に、商店街らしい軒並みが見える。行こう。

肉屋、雑貨屋、文具店。どこも閉まっている。
道の先に赤い光が見える。開いてる店だ。
それだけで嬉しくなって駆け寄ると、それは赤提灯だった。居酒屋だ。
店はここで最後だ。この先は民家だけだ。
腹がぐぅと鳴る。
腹が鳴るなんて何年ぶりだろう。しかもこんなに食べたいのにケーキがないなんて。子供の頃、ケーキ屋のガラス窓越しに、まん丸なケーキを見つめた日を思い出す。
俺には縁がないのだろう。一生、ホールケーキを食べる機会はないのだ。

居酒屋ののれんをくぐる。
店内は賑やかだった。忘年会か。スーツ姿のオヤジの群れに事務員らしき女性が一人。
俺はカウンターに座り熱燗とおでんを注文した。

見るともなく宴会を眺める。
料理はほぼカラ、みんな顔が赤い。赤鼻の飲み会だ。
女性が一番奥の席に座っているのは、よほど社員から可愛がられる人材なのだろう。
「店長あれ、おねがいします」
男の声に、店内が暗くなる。厨房から花火が乗ったホールケーキが運ばれてきた。
宴席の中央にケーキが置かれ、男性が皆でハッピーバースデイと歌いだした。
女の子は目をまん丸にしている。サプライズか。やるじゃないか、オヤジども。
男たちに促され、女の子が花火を吹き消す。
拍手。俺も釣られて拍手する。

「お騒がせしてすみません」
と言いながら店主が料理を運んできた。
曖昧に微笑む。迷惑ではなかった。嬉しいサプライズに、俺の心もホンの少し暖かくなった。
「よかったら、コレどうぞ」
振り向くと、女の子が皿を差し出している。三角形のイチゴのケーキ。
「あぁ、すみません、ありがとうございます」
遠慮も忘れ、俺は皿を受け取った。
「あの」
戻ろうとした彼女を急いで呼び止める。
「誕生日、おめでとうございます」
ニッコリといい笑顔を見せてくれた。誕生日おめでとう。君も、キリストさんも。
ホテルに帰ったらおふくろに電話するか。少し早いがメリークリスマスと言いたい気分だ。


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