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いちこさん

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11のたび

17/07/29 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:1件 いちこ 閲覧数:364

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あるところに、足袋を履いた猫がいた。
彼はマタタビが大好物だった。
あまりに好きすぎて、あるとき、彼は旅に出ようと考えた。
隣町の猫に、片開きの戸から出てきたおじいさんがとても上質なマタタビをくれたと聞いたことがあったからだ。
彼は、自分もそんなマタタビを得て、度々自慢してくる隣町の猫をを見返してやろうと思った。
いや、何やかんやと理由をつけても、結局はマタタビがほしいだけなのだが。

彼は歩いて歩いて歩き続けた。
その距離は、彼の執念の強さを表していた。
しかし生き物には悲しいことに限界がある。
いつしか彼はくたびれ果てて眠ってしまった。

目が覚めると、彼はおじいさんの膝の上だった。
おじいさんは長い白髪で、髭はなく、鎖帷子を着ていた。
その長い髪はびたびたに濡れていて、異様な雰囲気を醸し出していた。
彼は慌てて膝から飛び降り、距離をとった。
「怯えるでない。旅猫よ、何を求めているのだね?」
おじいさんはとても若々しい声でそう言った。
「にゃ」
彼は、お前に何故答えねばならない、と訴えた。
「前にも旅をする猫に会ったことがあってな。そいつはマタタビを求めておったな」
「にゃあ」
マタタビがほしい。彼は、小さい声で言った。
もしかしたら隣町の猫が会ったのはこのおじいさんかもしれないと思いながら。
「そうか。やはりマタタビがほしいのか。昔な、猫がマタタビを求めてやってきたことがある。その猫の努力に、我が師匠は感服しておった。そして猫に高価なマタタビを与えようとしたのだ」
なんて素敵な師匠だ、と彼はうっとりとした。
自分ももらえるだろうか。
「わたしはそれが許せなかった。ただでさえ師匠は片贔屓をして、わたしには何もくれなかったのに、猫にはものをやるなんて」
恨めしげな声を聞きながら、彼は雲行きが怪しいと思い始めていた。
「だからマタタビを取り上げてやったのだ!それが師匠にばれたらすごい怒りようで、破門されてこの有り様だ。何と理不尽なことか!」
彼はここまで聞いて、おじいさんがただ愚痴を言いたいだけだと判断した。
無駄な時間を費やしてしまったと腹を立てた彼は、おじいさんに向かい飛びかかった。
しかし、その爪は空を切り、おじいさんは歪んで消えた。
そこには崖石榴が落ちているだけだった。
近くの木の根本には、板碑が見えた。
おじいさんはこの世の者ならざるものだったようだ。

彼は落胆して、故郷に帰ることにした。
もうそれ以上探し歩く気力がなかったのだ。
来たときの3倍ほどの時間をかけてとぼとぼと帰った。

故郷はいつもと変わらない風景だった。
ねぐらに向かっていると、板庇の上から仲間の猫が声を掛けてきた。
「よう、帰ってきたんだな。随分疲れてないか?」
彼は口を開きかけてから、少し考えてしっぽを揺らした。
「聞いてくれよ。ものすごいマタタビをもらってさ、ちょっと興奮しすぎちまったんだ。おかげでへろへろさ」
「お前、例の伝説を確かめてきたのか! あれは本当だったんだな。すごいなぁ」
仲間の猫は感心したように何度も頷いていた。
その様子を見て、彼は、案外隣町の猫も自分と同じなのではないかと思い始めていた。
何しろ、猫というのは見栄を張りたい生き物なのだ。


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このストーリーに関するコメント

17/08/11 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
旅した者だけが語ることのできる旅の果ての話。それを確かめるための旅。そうやって旅は繰り返されるのかもしれません。もしかすると主人公の『彼』の辿り着いた先は、隣町の猫のそれとは違うかも知れませんが……見栄っ張りな彼らにはそれを確かめるすべはないのでしょう。

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