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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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年下のサンタたち

12/12/02 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:2件 クナリ 閲覧数:3291

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私の19歳のクリスマスの予定は、アルバイトで埋まっていた。
ケーキ店の店先で後輩のユミちゃんと、ケーキを売りまくっていた。

25日の昼過ぎ、やっと人が少し途切れた。
「ユミちゃんて今晩の予定とかあるの?」
「家族とですよ。もう高二なのに」
高校の三年間、私にはいつも隣にある人がいた。向うから告白されたのだけど、別れを切り出されたのもつい先月、向うからだった。
高校を出てから一人暮らしを始めたけれど、一人きりの部屋で温もりを持つ存在が自分しかいないことを意識すると、雪原に一人で放り出された様な気分になった。
そんな気分で迎えた、今年の聖夜だった。

「普通のケーキ、ないの」
唐突な声の主は、見知った顔の、すらりとした少年だった。
ユミちゃんの同級生で、名前をカケイ君といった。無愛想な表情にシルバー・グレイのマフラーが似合っている。月に数回このお店を訪れる、お得意様だった。
「ごめんね、クリスマスは普段の商品置いてないの」
「これって、売れ残ったら捨てるの?勿体ない」
「それ訊かないでよう」
どこかはしゃぎがちに言うユミちゃんに、私が続けた。
「品切れしちゃ申し訳ないからって多めに作るの。
閉店寸前に完売したら、それが一番いいんだけど」
「捨てんのってやっぱ嫌なもの?」
「勿論!」
作る処を間近で見ていると、ついケーキに感情移入してしまうので、これは本音だった。
その時、新たなお客さんがやって来た。応対してふと気付くと、カケイ君の姿が消えていた。長居を遠慮してくれたのだろう。

カケイ君とは、秋に町で遭遇したことがある。
屋外のスロープで、車いすのおばあさんが車輪を地面の穴にはまらせ、困っていた。
穴は結構大きく、私では車輪を出せなかった。
車いすがスロープを下らない様に支え、人を呼んだ。
その時、偶然居合わせたカケイ君が駆けつけてくれたのだった。
おかげで車いすは無事にスロープを下りた。
「ありがと、カケイ君」
「あのそれ、血じゃないの」
車いすが動かない様に、車輪に挟んだ指に切り傷が出来ていた。
「……車いすってストッパーとか付いてるじゃん」
「……そうね。笑っていいよ」
自分の迂闊さに赤面しつつ、指の傷をくわえた。
「笑わないよ。手も出さない様な奴より、ずっといい。お大事にね」
年下の癖に小癪だな、こいつめ、と思った。

シフトは夜の七時までだった。
職人さん達は、店長を残して帰宅した。閉店が近付きお客も減る。
ケーキは五つ残っていた。私達と店長が一つづつ買い取っても二つは廃棄になりそうだ。
が、力尽きたカイロを交換しようと、私が一度店頭を離れてまた戻ると、その間にケーキが売り切れていた。
「売れたの?」
驚きつつユミちゃんに訊いた。
「ばかが来て、一人で全部。そいつ、あっちに行きました。良かったらちょっと行って、一言かけてあげてください」
道の一方を指差して、ユミちゃんが言った。
「……知ってる人?」
「甘い物が苦手なのに、ケーキ屋に通う様なばかです。
そいつ、プレゼントあげたい人がいて、その人が何欲しいかあたしに訊いて、あたしが解んないって言ったらプレゼントは諦めて、その人が一番して欲しいことをしてあげて、自己満足してるような奴です」
涙ぐみかけているユミちゃんを見て、私はやっと気付いた。
そのお客が誰なのか。
「……すぐ戻る」
とにかく、お礼を言わなきゃいけない。私は駆け出した。
ケーキの箱を五つ抱えて歩くマフラー姿は、すぐに見つかり、声をかけた。
「何だよ。見つかったら、かっこ悪いじゃん」
「そんなこと、ない。ありがとう」
「これからこのケーキ友達に配るんだ。じゃ」
「あのさ。何か……何か、プレゼントするよ。ケーキ代埋め合わせられるくらいの、何か。
欲しい物ない?」
少年はちょっと考えて、
「いいよ。今、充分報われてる気がするし」
話しながら私の胸の中には、赤面している彼に対する、今までとは違う好意が芽生え始めていた。
「……ね、違ったらごめん。君がよくお店に来るのって、さ。
誰かに会うためだったり……する?」
言ってから、ユミちゃんの泣き顔が蘇り、しまったと思う。
「俺、まだあなたに好かれる様なことしてないから、怖くてその質問には答えられない」
と言って彼は背を向け、歩き出した。
その顔を振り向かせて、キスをしてやりたい衝動が私の中に沸いた。
何だかんだで自分はクリスマスに浮かれているのかもしれない、と思った。
踵を返して歩き出すと、間もなくお店の明かりが見えてくる。
ユミちゃんが小さく手を振ってくれていた。

アルバイトを終わらせてから自分の部屋へ帰ると、いやでも私はこれからどうしたらいいんだろう、と頭を抱えつつ、帰りに買った一人用のケーキをフォークでつついた。
19歳のクリスマスは、そんな日だった。




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このストーリーに関するコメント

13/01/07 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

19歳のクリスマス、アルバイトだけで過ぎてしまったことでしょうに、違っていましたね。

思い出に残る、甘酸っぱい恋の芽生えに読み手である年喰った私は、戸惑いながらも、想いを馳せました。――そうだった、こんな気持ちだったなあなんて、若い頃を思い出しています。
若さっていいです、当事者はそんなこと微塵も感じてないでしょうが……。純な恋心が懐かしく、余韻の残る作品でした。

13/01/08 クナリ

草藍さん>
ありがとうございます。
2000字で青春(?)を書くというのはちょっと挑戦でした。
なるべく登場人物が空転しないように気をつけたつもりですが、人間同士のやり取りをこの字数に納めるというのは難しいものですね。
このサイトのほかの恋愛系の作品に比べると、自分には甘酸っぱさが足りないなあと思いましたが(^^;)、楽しんでいただければうれしいです。



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