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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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スペアガール

17/07/23 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 miccho 閲覧数:823

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 行列の進みは遅い。この調子だとあと三十分はかかるだろう。
(どうせならディズニーランドか、せめて水族館がよかったな)
 私の恨み節に気づく様子もなく、森さん、明美ちゃん、めぐちゃんはこの動物園の主役との対面を待ちわびてはしゃいでいる。

「パンダって育児放棄するんだってさ」
 森さんが得意気に話し始めた。
「イクジホーキって?」
 これはめぐちゃん。いつもおバカなふりをしているけど、それはその方が可愛く見えることを知っているから。
「お母さんが子育てしないこと。パンダはよく双子を産むんだけど、お母さんは強い方にしかおっぱいをあげないんだって」
「なにそれ、ひどーい」
「弱い方は、強い方のスペアなんだって。大抵は生後何ヶ月かで弱い方は死んじゃうの」
 森さんは自慢のウンチクを披露できてご満悦だったが、私は胸の奥が苦しくなった。ドブ川の様に濁った感情が押し寄せる。
「森さんごめん。体調悪くなっちゃったみたいで…」
「えー、由佳ちゃん大丈夫?」
 言葉とは裏腹に、森さんはさほど心配している様子はない。
「邪魔しちゃ悪いから、私帰るね」
 言うが早いか、私は全速力で駆け出した。

(あーあ、森さんになんて言われるかなぁ。もう仲間外れかなぁ)
 走りながら明日の学校のことを思うと憂鬱になったけど、それ以上にパンダなんて見る気分になれなかった。

 私も、双子だから。

 双子と言っても二卵性双生児で、性格も能力も、何もかもが違っていた。
 兄の望は勉教もスポーツも良く出来て、友達も多い。
 小学校は、地元の教育大附属小学校を受験して、合格した。地元で「附属小」と言えば、それだけで優等生の証だ。
 一方出来の悪い私は、公立小学校に進学した。
「二人共附属小なんて、優秀ねぇ」
 家庭事情をよく把握していない近所のオバサン達からそう言われる度に
「妹の方は違うんです」
 と母が否定するのを、いつもやるせない気持ちで聞いていた。

 母はいつも、望の方ばかりを可愛がっている。
 望のサッカーの試合と、私のピアノの発表会が被ると、必ず望の方を優先させる。
 お弁当の卵焼きは望の好みに合わせて、いつも甘口だ。私はしょっぱいのが好きなのに。

「弱い方は、強い方のスペアなんだって」
 森さんの言葉がフラッシュバックする。
(お母さん、私は望のスペアなの?)
 気がつくと涙が溢れて、視界が滲んでいた。それでも私の足は止まらなかった。

 どこをどう歩いたのかも覚えていない。気がつけば私は全く知らない土地に来ていた。
 日曜日の昼間だと言うのに、人気がまるでない。寂れた公園ではカラスが不気味にゴミを漁っていた。
(早く帰らなきゃ)
 そう思った直後、後ろから声がした。
「お嬢さん、そこで何しているんだい」
 男が立っていた。ヒゲモジャの顔に、ボロボロの服。手には汚れたビニール袋をぶら下げている。
「おじさんと遊ぶかい」
 不気味な笑顔を浮かべて男が近づいてきた。
(逃げなきゃ!)
 身体が動かない。怖い。男が私の腕を掴もうと、手を伸ばしてきた。

「お母さん、助けて!」
 自分でもびっくりするくらい大声が出て、一瞬男が怯んだ。
 どうしてそう叫んだのか、分からない。お母さんが助けに来てくれるはずなんて無いのに。 
「そこで何をしている!」
 遠くの方で声がした。制服を着た男の人が走ってくる。
 男は一目散に逃げ出した。
「大丈夫だったかい」
 私は駆けつけてくれた警察のお兄さんに抱きついた。返事は出来なかった。涙が止まらなかった。

 三十分くらいだろうか。私が交番で待っていると、真っ青な顔の女の人がやって来た。
「由佳!」
 お母さんだった。いつもの外行きの化粧はしていなくて、そのせいか浦島太郎みたいに急に齢を取ったように見えた。
 また叱られるんだろうな、と思って、私は目を閉じた。
 ふ、と優しい香りがした。お母さんの香りだ。そして痛いくらいぎゅう、と力強く抱きしめられた。お母さんの身体は震えていた。
「怖かったでしょう。よく頑張ったね」
 恐る恐る目を開けると、お母さんは泣いていた。それを見て、私もまた泣いた。

 帰り道、お母さんと手を繋いで帰った。
「望はしっかりしているようでも男の子でしょう。わんぱくだし、時々抜けているから、お母さんも心配なのよ」
「でもたまには、私のピアノ、聴きに来て欲しい」
 ずっと思っていたことを口に出した。
「ん、分かった。寂しい思いさせてごめんね」
 お母さんは私の頭を優しく撫でてくれた。

「お母さん」
「なぁに?」
ー私は、望のスペアじゃないよね?
 出かかった言葉を飲み込んだ。
「ううん、何でもない」
 お母さんはにこっと微笑んだ。
「明日の朝は、卵焼きにしようか。由佳の好きな、しょっぱいやつ」


(了)


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