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W・アーム・スープレックスさん

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愛と平和のシンボル

17/07/23 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:779

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 かつてどんなSF小説も、またその種の映画にしても、異星人の地球来訪に、こんな光景を描いたものがあっただろうか。
 その異星人の知能の高さは、我々地球人をはるかに超越していることは、恒星間飛行を可能にした彼らの乗り物と、地球との交信に中国語を使用したことからみても明白だった。  
 22世紀の世界共通言語が中国語なのをかれらは知っていた。異星人はその中国語をりゅうちょうに駆使して、我が国の鳥取砂丘を宇宙船の着陸地点に選んだことを伝えてきた。さすがに、齟齬だらけの日中関係に考えがおよぶだけの時間はなかったとみえるが、恒星間旅行をすでに可能にしている連中にとってはそんな、国際間の軋轢などは砂粒よりもちっぽけなものだったにちがいない。
 そのときの光景はもちろんライブで、全世界にわたって放映されたから、赤子を抱き抱えて宇宙船からおりてきた10組の異星人のことを知らない人間はおそらくさがすほうが困難ではないだろうか。
 おどろいたことにその女性たちは、胸をはだけて堂々と赤子に、母乳をあたえていた。我々地球人たちがそれをみて、かれらにたいするいっさいの警戒心をとりはらったのはいうまでもなかった。
 油断するなかれ。それは我々の目をあざむくパフォーマンスだと警告を発する慎重派も少なくなかったが、それからも繰り返しテレビにうつしだされる、インタビューに応じるその母と、胸にだかれた赤ん坊の姿をみるにつれて、しだいにひとり、またひとりと、そこに愛と平和のシンボルをみてとるようになっていった。
 各国から代表にえらばれたインタビュアーのひとりアイ・高田は、自分もおなじ一児の母親だけに、会見室のテーブルにならんだ母子にさしだすマイクを持つ手にも、おもわず力がこもった。
 だがその寸前に、横にいた一人がアイをおしのけるようにしてマイクを、異星人たちにむけた。
「地球を訪問された目的を、きかせてもらえますか」
 彼女たちが、ケンタウリ星にある一惑星から飛来したことは、すでに交信で確認がとれていた。宇宙旅行のラストにちょっと地球にたちよった―――旅行の意味合いに多少のずれはあるもののおおむね、それが目的だとかれらは事前に告げていた。
 勉強不足ね、あなたと、隣のあつかましい同業者を横目でみやってからアイは、こんどこそ自分が一番伝えたかったコメントをなげかけた。
「本当にかわいらしいお子さんですね」
 アイにマイクをむけられた女性が、にこりと笑って、
「ありがとう。あなたも、きれいよ」
「私たちも正直、はるばる恒星間の彼方からこられた方が、まさか宇宙船から親子連れでおりてこられるとは、思ってもいませんでした。もちろん、そのことについて、異議を唱えているわけではありません。むしろ仲睦まじげな親子像に感動をおぼえたほどです」
 アイはそこで言葉をきると、女性の胸にしがみつくようにしながら母乳を吸いつづけている子供を、慈しみをこめてながめた。
「私たち地球人は、堂々と胸を張ってあなたたちを迎えられるほど、立派でも、賢明でもありません。地上は紛争に明け暮れ毎日、罪もない多くの人々が命をおとしています。あなた方はそんな私たちの目にはまさに女神にうつります。母の乳を無心でのむ赤子の姿に、心癒されないものがいるでしょうか」
 アイは、いまの自分の声が、全世界の人々の耳に届いているのを信じて、興奮にうわずりそうになるのを辛うじて抑えた。かれらの来訪がそんな、乱れた地上に一滴の潤いをもたらす役割をはたしてくれることをせつに願いながら。
 来訪者たちが地球に滞在した日にちは、わずかなものだった。その間10組の母と子は、ただインタビューに応じるだけで、ほかにはなにもしなかった。他の天体からきたからといって、ことさら侵略をしないといけないわけでもないし、これといった事件を仰々しくおこしてみせる義理もべつにないので、かれらはじつに淡々とした時間をすごした後、ふたたび帰路につくべくあっさりと、砂丘にとめてあった宇宙船のタラップをあがりはじめた。深夜だったが、見送りにかけつけた政府高官をふくむ大勢の関係者たちにむかって、さいごの一瞥をなげつける異星人親子の姿が地上からのライトにうかびあがるの仰ぎみたアイは、自宅で夫に見守られて眠る我が子を思いだして、思わず感激に涙ぐんだ。
 そんな彼女にも、タラップの上で交された母と子の会話までは、さすがにきこえなかったようだ。
「さあ、おまえ、また長い旅がはじまるよ」
「はい、ママ、わかりました。もうおなかいっぱいよ」
 地球にいる間ずっと、口から乳を与え続けていた母親は、子供の腹がようやくみたされたのをしって、抱えられた腕のなかで、ほっと安堵した。














 


































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