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綾瀬和也さん

北海道の競走馬生産・育成牧場で働く綾瀬和也です。地元は栃木です。宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢 ダービー馬生産
座右の銘 目標がその日その日を支配する

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クリスマスと有馬記念

12/12/01 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:0件 綾瀬和也 閲覧数:2594

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「また外れたよー」
 泣きそうな顔で、八島秀喜が言う。その隣で、つまらなそうな顔をする上田愛香。
『もう…今日は何の日か知ってるの?』
 愛香が椅子に座りながら、頬杖を突く。
「次のレースこそ勝負だ。」
 秀喜が意気込みながら、競馬新聞を開く。その様子を見ながら愛香はため息をつく。
『クリスマスなんだよ。それなのに中山競馬場って…』
 12月24日、日曜日。競馬ファンにとってはクリスマスイブ以前に、一年総決算の有馬記念。朝から中山競馬場に来ている、秀喜と愛香。ここまで7レースを行い、秀喜の的中馬券はゼロ。愛香はその様子をただ眺めているだけ。付き合い始めて2年、競馬ファンの秀喜に、何度か連れてこられた競馬場。
「私、何だかよくわからないないし。何が面白いの?」
 愛香がもう何回も言った言葉。それでも一緒に来るには理由がある。もちろん秀喜のことが好きなのもあるけど、たまに綺麗な毛づやの馬を見ると、少しときめいたり、最後の直線で場内が一体化する盛り上がりも、見ていると面白かったりする。しかし、馬券を買う事はなかった。ギャンブルはもともと好きじゃない。パチンコ店にも入った事がない。「クリスマス、行きたい所があるんだけど…」
 秀喜にそう言われたときに、嫌な予感はもちろんした。その日が有馬記念があるというのは、愛香も事前に調べていた。どうせ言っても無駄だ、いつも通りにお馬さんを眺めていようと覚悟を決めた。
 有馬記念の発走の時間が近づいてきた。秀喜は、前のレースをそっちのけで競馬新聞の有馬記念の馬柱とにらめっこしながら、赤ペンをしきりに走らせている。今日、何回目のため息だろう。また愛香がため息をついた。その様子を見て、秀喜が新聞から目を離して、愛香に声をかけた。
「ねぇ、どの馬が勝つと思う?」
 興味がないのを知っているのに、何で聞いてきたのだろう。素直に愛香が思う。
「4番と5番。」
 自分の誕生日、4月5日にかけて言ってみた愛香。どんな反応するかなと思ったら、
「うーん…そう来るかぁ…」
 と、また深く考え始める秀喜。あきれた表情を浮かべた愛香は、その場を離れて、パドックの方へ足を進めた。お馬さんが近くで見れるパドックは、愛香が唯一と言っていいほど、競馬場で好きな場所。さすがに有馬記念の日。たくさんのお客で埋まっている。ちなみに秀喜は、パドックはほとんど見ない。
「馬を見ても、ああ馬だな、としか思わない。俺はあくまでデータ重視なんだ。」
 と、言っていた。ちょうど有馬記念に出走する馬が入場してきたところ。16頭の馬が揃った。1頭気になる馬を見つけた。ゼッケン6番の馬。綺麗な栗毛の馬体。太陽の光に照らされて、1頭だけ光り輝いているように見えた。
「うわぁ、綺麗。」
 思わずつぶやいた愛香。馬名を見る。愛香はあっと声をあげた。さらにその後ろを歩く7番の馬の場名を見て、さらに声をあげる。パドックを抜け出し、秀喜がいたところへ。秀喜は、相変わらず競馬新聞とにらめっこ。
「ねぇ、6番の馬と7番の馬ってどう?」
 意気揚々と愛香が聞いてきたので、少し戸惑う秀喜。
「えっと、この2頭はちょっと買えないなぁ。」
 頭をぽりぽり掻きながら言う秀喜。
「100円でもいいから買おうよ。あの…何だっけ。一着と二着の組み合わせで。」
「馬連の事かい?」
「そう、それ。」
 馬連だが、馬単だかわからないけど、とにかく何でも良かった。その2頭の組み合わせの馬券をどうしても買いたかったのだ。秀喜は首をかしげながら、競馬新聞を見つめていたが、秀喜も何かに気がついたように、あっと声をあげた。
「だったら、馬単で7−6で買った方がいいな。」
 微笑みを浮かべながら秀喜が言う。
「え、何で?」
 愛香が戸惑う。秀喜は笑みを浮かべたまま、
「そうしないと、上手くいかないんだよ。」
「よくわからないんだけど…じゃあ、わたしお金出すから買ってきてよ。」
 そう言い秀喜に100円を渡す愛香。秀喜は素直に受け取り、馬券売り場へ走った。

「はぁ…なんであそこで飛んでくるんだよ。」
 浮かない表情で歩くの秀喜。大波乱の結果となった有馬記念。穴党の人にはいいクリスマスプレゼントになっただろう。そんな中、愛香は少し嬉しそうに歩く。手には、100円で買った馬単の外れ馬券。
「あのさ、一つ疑問。」
 愛香が秀喜に聞く。
「何で馬連じゃなくて、馬単にしたの?」
「だって、馬連だと俺の方が後になるから。」
 秀喜が笑みを浮かべる。
「エイトアイランドとラヴフレイバーの組み合わせにしたかったから。直訳すると八島愛香じゃん。」
「え、それって…」
「…うん。」
「でもね…パドックではずっと私のお尻を追いかけてたよ。」
 そう言いペロッと舌を出した愛香。秀喜が苦笑いをした。

 メリークリスマス 
 


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