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寒竹泉美さん

京都在住の小説家です。「月野さんのギター」(講談社)発売中です。 という自己紹介にも飽きたので、2冊目、早く出したいです。がんばります。

性別 女性
将来の夢 お金の心配をせずに暮らすこと。
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サンタクロース会議

12/11/30 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:3件 寒竹泉美 閲覧数:2794

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 今年のサンタクロース会議は、波乱に満ちた幕開けとなった。開催のあいさつが終わるやいなや、ひとりの若いサンタクロースが立ち上がり、議長が止めるのも振り切って、とうとうと演説し始めたからだ。
「僕はどうしてもこの場を借りて言いたいことがあります。みなさんがご存じのように、最近、僕たちは人間の子供から感謝の声を聞くことが少なくなった。その原因は明らかです。親たちが、手柄を横取りしているせいなのです。我々が苦労して選び、手に入れて、徹夜で運んだプレゼントを、自分たちが用意したと言うのです。中には、サンタクロースなんていないと、子供に嘘をつく親までいるのです。これを見過ごしていていいものでしょうか」
 誰も若いサンタクロースの言葉を笑わなかった。みんな同じことを感じていたからだ。会議場がしんと静まり返った。こんな深刻な議題が、サンタクロース会議で提出されるのは初めてのことだった。去年までの議題といえば、不満を言うトナカイのうまい扱い方、サンタクロースの服のクリーニングのコツ、その年のおもちゃの流行色、空を飛ぶときに押さえておきたいおすすめビューポイント、といったところで、毎年、居眠りする者が後をたたない平和な会議だったのだ。
「サンタクロースが、そんなせこいこと言うんじゃないよ」
 酔ったような赤い顔の中年サンタが、どら声を張り上げた。
「俺たちは子供たちが喜べばそれでいいんだ。贈り主がサンタだろうが、親だろうが、大した問題じゃない。な、みんな、そうだろう?」
 拍手が沸き起こり、そうだそうだ、と無責任な野次があがった。陽気な彼らは、緊迫した空気に長時間耐えられない。そのとき、円形になっている会議場の中心で、この中でもっとも長くサンタをやっていて、みなから長老と呼ばれている男が、すくりと立ち上がった。
「確かに、贈り主が誰かということは本質的な問題ではない」長老の声は、やせた体に似合わず太かった。「問題はもっと深刻だ。サンタクロースを信じる子供がいなくなれば、我々の存在は消滅する」
 長老の発言は、会議場を恐怖に陥れた。
「消滅する? そんな馬鹿な。俺たちはちゃんと存在している。ほら、手も二本あるし、ひげだってこうやって引っ張れる」
 赤い顔のサンタが、声の震えを抑えながら、精一杯おどけてみせる。
「お望みなら、人間たちの前に現れてやってもいいんだぜ?」
 笑えないジョークだった。人間に姿を見られたサンタクロースは、小鳥になって死んでしまう。人間たちは、みすぼらしい小鳥の死骸を目にして、不快そうに眉をひそめるかもしれない。が、それも一瞬だ。猫のいたずらとして処理され、すぐに忘れてしまうだろう。
「ストライキだ」
 誰かが言い、何人かが賛同して立ち上がった。
「プレゼントをあげているのは親たちじゃない。我々の存在を証明してやろう」
「そうすれば、子供たちもサンタクロースの存在を信じるだろう」
「……だが、俺たちがストライキをしたら、子供たちはどうなるんだ?」
 サンタクロースたちは再び、押し黙った。イブの夜にあんなに楽しみにして眠りについたのに、クリスマスの朝、どこを探してもプレゼントはない。
「ありえない」
 ひとりのサンタが悲痛な叫び声をあげた。それは、全員の意見を代弁していた。
「そうだ。そんなことはありえない。子供たちが悲しい顔をするクリスマスの朝なんて、サンタクロースの名にかけて、絶対に訪れさせてはいけない」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
 その問いに答える声はなかった。サンタクロースたちはみんな、しょんぼりして座りこんだ。
「ひとつ、提案がある。夢の国の魔女に頼んでみようと思うんだが」
 長老が鷹揚に言った。会議場がざわついた。サンタのほとんどが、夢の国をつかさどる魔女の姿を見たことがなかったからだ。ただ、うわさでは、光り輝く月のように美しい美女だと聞いている。
「彼女に頼んで、大人たちに夢を見せるんだ。我々を信じていた子供の頃を思い出すような夢をね」
「でも、夢くらいで、大人が我々の存在を信じるでしょうか」
 最初に発言した若いサンタが不安そうに顔をしかめた。人間の大人は非常に疑り深いのだ。
「信じないかもしれない。だが、少なくとも信じていたことを思い出すだろう。子供じゃなかった人間はいないのだから」
 どこからともなく拍手が沸き起こった。ほっとした顔で、サンタたちは立ち上がる。
「本日はここまで」
 議長が慌てて発言したが、サンタクロースたちはもう聞いていなかった。これからどこに遊びにいくか、顔を突き合わせて相談している。この年に一回の出張は、口うるさいトナカイから離れられ、サンタが羽根を伸ばせる唯一のチャンスなのだ。書記はペンの先をなめ、「長老と魔女の熱愛疑惑?」と書いて下線で強調すると、議事録を静かに閉じた。


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このストーリーに関するコメント

12/12/01 neo

すごく面白いお話しでした.サンタの世界と悩みが感じられました.僕も書きたいなと思えるようになりました.

12/12/01 neo

すごく面白いお話しでした.サンタの世界と悩みが感じられました.僕も書きたいなと思えるようになりました.

12/12/01 寒竹泉美

neoさん:嬉しいコメントありがとうございました!neoさんの作品も楽しみにしています!

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