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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

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連絡船の幽霊さん

17/07/13 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 あずみの白馬 閲覧数:1548

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 北海道と本州を分け隔て、何処か寂しさが漂う、津軽海峡。かつて青函連絡船が函館と青森を結んでいた。

 私、松嶋美咲は、高校に通う傍ら、東京にある実家のお寺で巫女をしている。亡くなった方の供養と、霊を成仏させるのが仕事だ。
 今日は、檀家さんから除霊の御礼にと旅行券を頂いたので、せっかくなら遠くへと思い、初夏のさわやかな風がほほをなでる、函館までひとり旅に来ていた。

 旅行に備えてたくさんの資料をかき集め、青函トンネル建設のドキュメンタリー番組まで片っ端からタブレットに詰め込んでいた。

 ところが函館駅に着くと、近くにある元青函連絡船、現在は博物館の「摩周丸」に、人ならざるものの気配を感じた。仕事を忘れて楽しむつもりだったが、こういうのは放っておけない。
 
 気配のする方へ近づいてみると、白いワンピースを着た、お姉さん風の幽霊がいる。成仏させなければと思い、話かけてみることにした。
「どちらへおいでですか?」
「え? 東京までです」
「この船は、どこへも行きませんよ。東京へ行くなら新幹線に乗らないと」
「? シンカンセンって何ですか?」

 新幹線を知らないということは50年以上前の霊。時間が経てば経つほど成仏は難しくなる。後悔したが後戻りはできない。幸い、邪悪な存在になっていないようなので、もう亡くなったと言うことを教えてあげると、意外にすんなりと受け入れてくれ、ここにいる経緯を話し始めた。

「東京に住んでる婚約者に逢いに、連絡船に乗ったんです。けど、10時間ぐらい待たされて、やっと出航したと思ったら、港を出たところで止まって、風がどんどん強くなって、船が倒れて……、気がつくと、駅に戻ってました。それから何度も船に乗っても、また駅に戻ってしまうんです」

 話から推測すると、彼女が巻き込まれたのは洞爺丸沈没事故。1954年、もう50年以上前の出来事だ。私は先行きがますます不安になり、家に連絡しようかと思った。しかしやれるだけやってみようと思い直し、話を続けると、自分のことを話しだしてくれた。

「私は中崎ユミ、25歳です。婚約者はササキヨシロウさん、私と同い年で、東京の建設会社に勤めています……」
 その名前を聞いた時に私は、心当たりを感じた。
 タブレットを取り出し、青函トンネル建設ドキュメント番組を再生すると、浅黒く日焼けした建設作業員がインタビューに答えていた。
「ユミさん、ササキさんってもしかしてこの人?」
「あ、うん!」
 やった! 手がかりを得た私は早速テレビ局に電話をする。高校の新聞部の取材を装うと、佐々木さんの家に連絡を取ってくれ、彼は幸いにも函館市蛍町に住んでいると教えてくれた。ユミさんを連れて早速そこに行くことにした。

「ユミさ……あれ? いない」

 もしかして……!? 私は地図アプリを頼りに、蛍町に急ぐ。

 ……、そこには、悲壮感が漂ったユミさんの姿がそこにあった。
 窓から家の中を見ると、芳郎さんと思しき男性と奥さんと思しき女性が談笑している。
「あなただけ、幸せになって……、許せない」
 50年も経てば当然のはずだが、ユミさんの時間はあの時に止まっている。次の瞬間、彼女は家に入ろうとした。
「何する気なの?」
 様子がおかしいと思った私はすぐに彼女を止めようとした。しかし彼女は止まらない。
「芳郎さんと一緒にあの世に行くわ!」
 邪な空気が周りを支配する。実家に助けを求める余裕は無い。これはまずいことになってしまった。

 しかしその時、私の視界に写真立てに入った古い写真が見えた。そこにはユミさんと思しき人物が写っている。
「ユミさん、あれを見て!」
「あれって……私?」
 それを見たユミさんは徐々に落ち着きを取り戻し始めた。そして、
「お姉ちゃん……?」
 奥様をよく見ると、ユミさんにどことなく似ていた。
「芳郎さん、私のことを忘れたわけじゃないんだ。嬉しい。ありがとう」
 その言葉を最後に、ユミさんの霊体が光り、消えて行った。

 私は、芳郎さん夫婦に彼女のことを聞いてみた。
「ユミを洞爺丸事故で亡くしてしまってね、青函トンネルがあれば、死ぬことは無かったと思ったから、絶対完成させるって頑張ったもんさ」
 苦労を思わせるシワが刻まれた顔を見せながら、彼はしみじみと語った。
「自慢の妹だったし、幸せを掴む直前だったから、私も悲しかったよ。だから、トンネルができた時は嬉しかったね」
 奥様が思い出すように続ける。彼女が次の人生で幸せを掴めることを願って、そっと手を合わせた。

――洞爺丸事故をきっかけに、青函トンネルを作らなければならないという機運が高まり、事故から34年後の1988年に完成した。

 現在、寂寥感を過去のものにするかのように、新幹線が颯爽と津軽海峡を走り抜けている。


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このストーリーに関するコメント

17/07/16 文月めぐ

『連絡船の幽霊さん』拝読いたしました。
幽霊が出てくる不思議な世界観を舞台としていても、きちんと史実に基づいて書かれているところが素晴らしいです。
最後の一文がさわやかでした。

17/07/21 あずみの白馬

> 文月めぐさん
ありがとうございます。
私は史実に基づいた不思議な世界を作るのが好きなので、評価いただいたことを嬉しく思います。

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