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榊真一さん

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残党と老虎と、、

17/07/12 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 榊真一 閲覧数:621

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深夜12時の西新宿。
私はビルの中で終わらない仕事を片付けていた。
とても処理できない仕事の量、それは日に日に増えていく。
私が働くこの会社では早期退職を希望した者たちが次々と抜けていき仕事の量は私の出来る範囲を超えていた。

立川にある実家にはここ最近は殆ど行けていない。
行けば両親に聞かれることは決まっている
「お前の働いている会社は大丈夫なのか、週刊誌で書かれている事は本当だろ」
実家に居る三毛猫の「ミー」ちゃんは元気にしているだろうか。
最初は彼女へのお土産にするつもりで「マタタビ」を育て始めたのだが、
その願いはなかなか達成できずベランダにあるプランターにはそこそこの量の葉を付けていた。

深夜の公園、私は何時ものように野良猫たちに余った葉っぱを与えていた。
そう言えば「マタタビ」には野良猫以外にも興味を持ったものが居る。
自称猫好きの老紳士だ。
「うちの猫は私に懐かなくてなあ、因みにその葉っぱは何か特別な物なのか」
その数日後、私は黒の大型セダンに乗せられて彼の猫と初めて会うのであった。
しかしこのマンションには表札も無く、調度品を見てみるとどうやら彼の別宅に違いない。
彼の猫は見るも美しいグレーの長い毛でおおわれた「サイベリアン」聞いてはいないが血統書付きのシベリア猫であろう。
名前までロシア風で「ナターリア」、恐らくではあるがクリスマスを示す単語だろう。
私は「ベージュのスウェット」を入れた量販店の袋にマタタビを忍び込ませた。
「いいですかお爺さん、猫が甘えたい時には全身を使って遊んであげれば良いんですよ」
ベージュのスウェットを渋々と着こんだ彼は何処からどう見てもお爺さんにしか見えない。
第一、私の事は根掘り葉掘り聞いて来るのに。自分の名前すら言わないのだ。
しかし彼にはその呼び名は癇に障るのであろう
「爺さんは止めてくれ、せめて綽名で呼んでくれないか。お前の綽名は「残党」で良いだろう」
近い将来、会社は倒産するか何処かに切り売りされる筈。
愛着の有った会社を最後まで見届けたい私を皮肉っているのか。
だったら私も皮肉を込めた綽名を付けたい。
財を成したと思われるその風貌と運転手付きの高級車、そしてこんなマンションを買い与えるような愛人も多分居る、しかしこの歳になって癒される者が猫だけだと知ったのか。
だったら。
彼から離れようとしないナターリア
私はその豊かなグレーの襟に向けて言葉を放った。
「ナターリアちゃん、このお爺さんは「ラオフー」って綽名だよ、今度からはそう呼んであげてね」
ラオフーとは中国語で年老いた虎との意味がある。
今の彼には一番お似合いの名前だと思った。


「ラオフー」は今日も来るのかな、毎晩此処で会社の愚痴をこぼす事も楽しくなってきていた。
私は近くにすり寄ってきた三毛猫と黒猫に葉っぱを少しずつ与えていた。
猫が大好きな「マタタビ」でも与えすぎはアルコール中毒のような症状を与える可能性がある
―もっと下さいー
そう言っているのだろうが、与える量はこの辺にしておくのが良いだろう。
そうしている内に一台の黒いセダンが公園の入り口辺りに静かに停まった。
私は逢えて見ないようにしているがあれは間違いなく「ラオフー」の車だ。
私と野良猫たちを見つけたのなら「ラオフー」は私の近くへ来るだろう。

しかし何時ものその光景は聞いたことの無いようなクラクションにて打ち消されてしまった。
驚いて隠れる猫達。
私は何も考えずにその運転席へと走って行った
「運転手さん、猫達に謝って下さい、彼らは警戒心が強いんですよ」
運転席のドアから降りてきたのは今までの運転手ではなくスレンダーな女性である。

長いウエーブの掛かった黒髪、光沢のあるグレーのスーツそして大きな黒い瞳。
私は直感で理解した、この人が「ラオフー」の愛人で「ナターリア」の飼い主である事を。
ピンクと思われるリップからは思いもよらない言葉が出てきた。
「残念ながら今の貴方には猫と遊んでいる時間は無いの、広浜電機の人事部長代理さん」
人事部の係長であった私だが、課長も部長も退職してしまった現在では仮の役職を与えられている。
「私が台湾に居る間、ナターリアの事でお世話になったから言うけど。貴方の会社は明後日に新しい経営陣がやってくるわ
所謂買収って奴ね」
「貴方は今でも残っている社員の中から精鋭をリストアップするの」

徹夜明けの朝。
沢山の報道陣に囲まれながらやって来た新経営陣。
中心には「ラオフー」の姿が見えた、彼は私を一瞥し軽く手を上げた。
その手には包帯が巻かれている。
隣に居た彼女は私に向けて爪を立てるような仕草をした。
彼の手の傷は本当に引っ掻かれただけなのだろうか。
でも今の私には朝日が差し込むこのロビーが眩しくて仕方が無い。


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