1. トップページ
  2. 旅の写実

ケイジロウさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

旅の写実

17/07/12 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:514

この作品を評価する

 眠くなったら寝袋にくるまり、腹が減ったらおにぎりをかじって、喉が渇いたら水を飲み、寂しくなったら花を見て、星を見ながら架空の人物との論戦をブツブツと繰り広げる。そして、朝が来たらまた靴ひもを結び、痛い足を引きずるようにして歩き出す。
 そこにたどり着いたところで何もないことなど知っている。
 「彷徨」って単語を用いれば僕の歩くという行為が社会になんとなく受け入れられそうで、なんとなく箔が付き、精神的にギリギリのところにいる若者の支持をなんとなく得られそうな気もするが、そんなのすべて幻である。「彷徨」はただの「彷徨」でしかない。
 
 人は歩く。
 目的地はあるがそれは本当の目的地ではない。
 では、なぜ歩くのか?
 そんな安っぽい質問の答えを準備することになんの意味もない。
 
 自分の部屋を出ると名前で呼ばれる。家を出ると苗字で呼ばれる。町を出ると○○町民になり、県をでると△△県民になる。日本を出ると日本人になる。アジアを出るとアジア人になる。地球を出ると地球人になる。
 しかし、あなたはどこにいてもあなたでしかないのだ。
 そこだけは絶対に譲ってはいけないのだ。
 そこに平均など存在しない。

 ありったけの力で叫ぶのが怖かったら、叫ばなければいい。
 その石ころに無理やり意味を見出す必要はない。
 水がうまければゴクゴク飲めばいい。
 相対主義者を意識したら、あなたも相対主義者。

 冷たい風がぶつかってきたら、「そんなもんか、お前は!」と挑発しよう。
 雨に濡れても心配することはない。
 雷にビビる自分を責めることはない。
 ただ、果てしなく伸びるその山道は、一歩一歩喰らいつくしかない。

 その人を信用するな。騙されるから。
 その人を信用しろ。優しさに触れられるから。
 『遠い日の歌』なんて歌うんじゃない。
 涙が出てくるから。

「いたんっすよ、それが。小さな頭陀袋一つで歩いてる人。しかも素足で。草むらに寝ころがってた。蚊とかさ、蛇とかさ、でっかいナメクジとかさ、ヒアリとかさ、怖くないのか、って訊いてみたくなったんだけど、なんかそんな質問がすごく俗っぽく感じちゃってさ、その人の極限の血走った眼球を見てると。その人は、ただ歩いてて、歩けなくなったらその場に倒れこみ気絶したかのように眠り、運よく(?)目を開けることが出来たら、また歩き始める。終わりは、文字通り終わりなんだよな。誰にも周知されない終わりなんだよな。オレは、何というのかな、究極の旅を見せつけられたような気がしたんだ。オレはさ、結局、ディズニーランドのスプラッシュマウンテンに乗ってただけ。顔面に当たってくる風を『旅の風』とか呼んだりしてね……(中略)」

「オレも昔はデッドロックだったんだぜ、へへへ」
「マジで!?想像できない……」
「イケイケの旅人さ。極端な貧乏旅行に美を感じっちゃったりしてね、へへへ」
「今は役所にいるさわやかな青年にしか見えないな」
「へへへ」

「『本当にやりたいことではなかった』とか『他にやりたいことが見つかった』というのを退職理由としてよく聞きますね。ただこれらは理由になってないとわたくしは思うのです。働くということを勘違いして定義しているとしか思えません。好きなことだけやっていればいいというのではありません。何といってもお金をいただいているのですから……(中略)」

「いくつも職を転々としているようですが、どうしてですか?」
「あ、ちょっと、旅行の方が……」
「世界へ、ですか?」
「あ、はい……」
「では、ここも半年や一年でやめていく可能性があるということですか?」
「あっ……、はい……」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン