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mokugyoさん

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鉄板金髪しゃべりの逃走に無常な瞬間

12/04/06 コンテスト(テーマ):第二回 時空モノガタリ文学賞【 居酒屋 】 コメント:0件 mokugyo 閲覧数:2280

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 頭の悪い大学生の太郎君に、先輩の社会人、上面(うわつら)さんが居酒屋で偉そうに酒をおごってるよ。
「かんぱーい!いやあ、先輩!あっざーっす!いただきまーっす!」
「乾杯。まあ、飲めよ。社会人が年下におごるのは日本社会のセオリーだからな」
「先輩カッケー。今日は先輩の鉄板ネタ聞かせて下さいよ〜」
「おい、その前に頼んでいた鉄板焼来てるぞ!受け取れ!」
「あ、マジだ。はーい、いただきまっす!」
「おめえさ、あれよ、店員さんが『鉄板熱くなってるのでお気をつけ下さい』って何で言ってくれるんだと思う?」
「え?熱いから気をつけて、ってそのままの意味以外に何が?」
「バカ野郎!『持ってるこっちも超熱っちいから早くとって!お願い!』の意味がこめられてんだよ!お前、このチェーン店の居酒屋でバイトしたい、って言ってたよな。お前にゃ無理だ。酔っ払いの相手してゲロまみれの便所掃除しながら笑顔をふりまく超人的行為が、空気の読めないお前にできるのか?」
「へえーそうなんスかー。マジそりゃキツイっすわー」
「マジで客同士もめるのとか普通にあるからね?俺なんてね、小学校から二十年近く付き合いある友達と飲んでて、全然関係ない酔っ払いの兄ちゃんに絡まれたことあるからね?」
「へー、マジヤバいッスねー」
「俺と、出版で働いてるよくしゃべるしゃべり男と、料理人やってる板前男の三人でね、『THE三名様』のごとく、たまに会っては飲むわけよ。小中卒業してもなぜか続いてるダチなんだがね。まあその三人でいつもみたくこういうチェーン居酒屋で深夜に飲んでたわけよ。そしたらさ、店出てすぐのところで金髪の酔っ払い兄ちゃんが絡んできたわけよ。『最近どうッスか?』みたいなこと言ってて、しゃべり男が『はいはい、元気でね』みたいな適当な返事して、スタコラ先歩いてったのよ。そうしたら金髪兄ちゃんがね、気にふれたのか『は?なんスかそれ?おい逃げんなよ!』みたいなこと言って追いかけてくるわけよ。板前男がなだめてね、俺も影から隠れて見てたんだけど心配になって出て行って、社会人仕込みの作り笑顔で『まあまあ、すみません、あいつああゆう奴なんですよ』みたいなこと言ってその場はまあ何事もなくおさまったのよ」
「おさまったなら良かったじゃないッスか」
「いや、それがよ。半年ぐらい経ってまた同じ居酒屋で三人で飲んでたらさ、ばったりその時の金髪兄ちゃんと再会しちまったわけよ!世の中せまいな、っていう瞬間!そっから金髪にいちゃんのしゃべり男への説教タイム開始で!『この前、なんで自分一人だけ逃げたんスか?いや、酔ってて絡んだ俺も勿論悪かったんスけど友達置いて逃げるって、俺考えらんなくて』とか熱い説教がはじまったわけですよ。ふだんよくしゃべるしゃべり男は黙ってうつむいて、しばらくしたら『すみません、失礼』と言ったきりトイレに逃げてね。板前男が板前修業で身につけた笑顔で『まあまあこういう奴なんですよ!すみませんでした!』みたく笑顔でまとめてね、その場もまあ暴力にもならずおさまったんだけどね。いやあ妙に友情に熱い金髪兄ちゃんだった」
「そのしゃべり男の人は逃げちゃうのはヒドイッスね」
「そう思うだろ?でもそういう奴なんだよ。それで別に良いと思うし、それでダチじゃなくなるってことでもない。それはそれで俺らの中では笑い話で終わってるんだ。戦争の生き残りの人で、ひたすら逃げ回ってて生き延びた人が克明に当時のこと語ってくれたりするだろ。たぶん、あいつはそういう奴なんだ。俺らの前ではよくしゃべる男なんだけど、普段クラスではわりと隅にいる感じの奴で。世の中にはそういう奴がいていいんだよ、多分。居酒屋ではよく学生時代の思い出話になるけど、しゃべり男は妙に細かいこと覚えてるんだよ。中学時代の同級生とか同じクラスになってない奴でもフルネームで覚えてて、誰と誰が仲良かった、とか鮮明に覚えてるんだよな。俺や板前が忘れているようなことでもよく覚えてる。視点がちょっと違うというか、外から眺めてた人ならではの視点なんだよ。あいつ見てると、人の歴史は居酒屋の片隅でこうやって語り継がれていくものなのかな、とふと思うわけよ。現に今俺がしゃべり男のことを話してる。誰が結婚しようが離婚しようが死のうが生きようがどうでもいいが、ふと酒の席で垣間見る他人の人生はどこか無常なるものがあるよな」
「へえーよく分かんねーや。あ!やべ、今姿勢変えた瞬間手が当たって鉄板落とした!」
「おい、隣の人に鉄板当たってるじゃねーか!今、『熱っ!』て言ったぞ、おい!ああ、ほら睨んでる、こっち来るよ〜。絡まれる絡まれる…こういう時はどうするかもう分かるよな?」
「あっざーっす、先輩!」
(終)


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