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浦田かずさん

writer, affiliate,photographer AMA, and traveler. とInstagramでは自己紹介しています。

性別 男性
将来の夢 作家デビューすること
座右の銘 日々是写楽 (写真を撮らない日も一瞬一瞬を目に残しておきたいと思って日々暮らしています)

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東寺の神隠し

17/07/05 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 浦田かず 閲覧数:831

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 ゴルフ観戦の帰り、最寄りの近鉄京都線寺田駅から京都行きに乗った。写真が趣味の私は電車に揺られながら、これからどこに行って写真を撮ろうかとスマホで検索した。名古屋からの日帰り旅行なので、遠方まで足を延ばすことはできなかった。京都駅近くの観光名所で検索すると、京都駅の一つ手前の駅、東寺駅に五重塔で有名な東寺があることがわかった。五重塔へ行くのは、小学校の修学旅行以来になるので、二十年近く前になるかと、とても懐かしい思いに浸った。
 西に五分も歩くと、南大門に至った。写真の基本の構図である日の丸構図や対角線構図を頭の中に描きながら塀の外から五重塔を撮影した。
 南大門前の東寺と書かれた提灯を撮っていた時のこと。突然、見知らぬ欧米系の外国人から「すみません」と声をかけられた。彼は自分が持っているカメラを差し出してきた。写真を撮ってほしいのかとすぐにわかり、二枚ほど撮った。
 門を入ると東側には鳥居と社があり、その奥に五重塔を見ることができた。いい構図だとカメラを向けたが、さすがにお参りが先だと思いなおし、財布にあった小銭を『少なくてごめんなさい』と心の中で謝り、賽銭箱に入れた。
 お参りを済ませた後は、いろいろな構図で絞り値を変えながら、五重塔と鳥居を入れた写真を十数枚撮った。
 近くの小さな喫茶店で、店に染み付いたタバコの臭いに包まれながら、コーヒーを飲みつつ、デジカメのディスプレイを見ながら完全な失敗作を削除していった。更にスマホにWi-Fiで画像を飛ばし、少し大きくなった画像を見ながら、いい写真だけに絞り込んでいった。すると一枚の写真の中に映り込んだ一人の少年を見つけ、修学旅行の後、突然消えた俊之君という少年がいたことを思い出した。すごく頭のいい、ひょろ長いイメージの少年だった。
 なぜか彼のことが気になった。夕暮れになった五重塔がどう写るかも気になった。そこでもう一度、東寺へと足を進めた。
 五時を過ぎると、陽も傾き、空もほんのり赤くなり、光の加減も変わっていた。小一時間前と同じ構図で写真を撮りはじめた。
すると後ろから「和弘君、お久しぶり」と誰かが声をかけてきた。振り向くと、まだ若いと思おぼしき僧侶が立っていた。
「失礼ですが、どなた様でしょうか?」と私が尋ねると、「俊之ですよ。俊之」と髪を剃り上げた僧侶が答えた。
「あの俊之君かい? 修学旅行のあと消えてしまったけど、どうしていたのかい?」と、神隠しにあったと思っていた俊之君が、大人の姿で現れたことに狼狽したが、どうにかこうにかこわばった笑みを浮かべ声にした。
 「私は、修学旅行のすぐ後、父母を説得して、寺での修行の道を選んだのですよ」との俊之君の言葉に、そうだったのかと納得することができた。しかし「和弘君こそ、修学旅行の時消えてしまったけど、あれからどうしていたのかい?」の一言に絶句した。
「バスに乗って点呼を取ったら、和弘君だけいなくて大騒ぎでしたよ」
「……」
「その後、この東寺では夜な夜な子供の幽霊が鳥居の周りに出るという噂になっていますよ」
「……」
「冗談ですよ。冗談。そんなに驚かれるとは思いませんでした。ご無礼いたしました。記念に一緒に写真でも撮りましょう」と言って俊之君は嬉しそうに笑った。そして近くにいた人にお願いして、二人の記念写真を撮ってもらった。
 
帰りの新幹線の中で画像再生すると、そこに俊之君が写っていなかった。私の左肩には誰かの手が写っていた。
 
数日後、消えたはずの俊之君から手紙が届いた。私は恐る恐る封を開け手紙を読んだ。
──先日はありがとうございました。シャッターが切られる瞬間に、あなたの左肩に右手を置いて、しゃがみ込みました。驚かれましたか? 写真を撮ってくれたのは私の知り合いです。失礼しました。ではまたお会いしましょう。現世で──


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このストーリーに関するコメント

17/08/15 きみざね

【東寺の神隠し】読ませていただきました。
実際に行かれて書かれたものですね。情景が浮かびます。
実際にありそうで、なさそうで、そんなところが面白いストーリー展開だと思いました。
オチがあり、素敵なエンドでした。

17/08/16 浦田かず

きみざね様
コメントありがとうございます。前半は実際の光景を思い浮かべて書かさせていただきました。
終わりは、少し怖い形にするか、今回のような終わり方にするか、迷ったのですが、後者を選びました。正解はわかりません…
ショートショートを書いていきたいと思っていますので、ブラックユーモアのある終わり方をしたいとは思っています。

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