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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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ジャーニー・イズ・ライフ

17/07/04 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:1件 miccho 閲覧数:757

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 ジャーニー・イズ・ライフ。旅こそ人生さ。
 遠くで汽笛の音が聞こえる。俺を呼んでいる。
 ジャーニー・イズ・ライフ。ジャーニー・イズ・マイ・ライフ

「それ、何ていう歌ですか?有名な歌、なんでしょうか」
 一通り歌い終わったらしいタイミングを見計らって、聞いてみた。
「良い歌じゃろうが。俺が作ったんじゃ」
 そう言いながら運転席のおじさんはガハハ、とつばを飛ばしながら豪快に笑った。
 道理で、メロディーは滅茶苦茶だ。それに英訳するならライフ・イズ・ア・ジャーニーではないか。これでは主述関係が逆だし、冠詞もない。しかし、この恩人に対して、その指摘は野暮というものだろう。僕は黙って頷いた。

 僕は勤務先から解雇されて、あてのない放浪の旅に出ていた。とは言え、旅をするのに必要な費用が潤沢にあるわけではなかったので、宿代を節約するために時々夜の公園なんかにもお世話になっていた。
 そんな若さに頼り切った無茶な旅程だったので、流石に途中で身体にがたがきてしまった。山口と広島の県境あたりの国道だったか、軽い脱水症状を起こしてうずくまっていたところ、このおじさんに声をかけてもらったのだ。
「兄ちゃん、泊まる所が無いなら、俺らも時々使う安い宿があるけぇ、案内しちゃるわ。丁度通り道じゃしのう」
 その言葉に甘えて、おじさんのトラックの助手席でしばらく世話になっているところだった。

「しかし兄ちゃんも、見かけによらずやることが大胆じゃのう」
 おじさんはこちらに無精髭だらけの顔をこちらに向けながら、またガハハ、と笑った。
「いえ、別に…。あの時は、身体が勝手に」

 あの時。思い出す度に、胸が締め付けられる。でも、後悔はしていない。したくない。
 職場の上司だった鏑木のやり方はいつも陰湿だった。ひとたび自分に火の粉が降りかかりそうになると、途端に立場の弱い者に責任転嫁する。
「おい、これ書いたの島元だよなぁ。てめぇなんてことしてくれたんだ」
 契約書の数字が一桁間違っていたことを、僕の同期の島元に問いただしていた。島元は鏑木の執拗な叱責で涙目になっていた。
 確かにいつもなら契約書の作成は島元の仕事だが、ことその契約書に関しては、手柄欲しさに鏑木が自ら作成していたはずだ。この男は、自分の都合の悪い記憶をいつも勝手に書き換える。
 島元だけじゃない。彼に煮え湯を飲まされた部下は何人もいた。我慢の限界だった。
 気づけば僕は鏑木の右頬に強烈な右ストレートをお見舞していた。
「ひゃ、ひゃん」
 と情けない悲鳴をあげて椅子から転げ落ちる鏑木を見て、溜飲を下げたのも束の間、取り返しのつかないことをしてしまったことに気がついた。案の定、翌日僕は解雇された。
 別にヒーローになりたかったわけではない。全ては自分の自己満足だ。ただ、島元を含めた職場の誰もが、最後まで僕と目を合わせようとしてくれなかったことは、少々堪えた。

「友達のために上司を殴ってクビになるたぁ、男じゃのう。石原裕次郎に高倉健じゃ。兄ちゃんももう少し面構えが良かったら、映画スターだったかものう」
 僕は何も応えられなかった。おじさんもそれからは無言のまま、ただハンドルを握っていた。
 
「のう、兄ちゃん」
 トラックがインターを降りて、市街地へと差し掛かった頃、おじさんが口を開いた。先ほどの豪快さとは打って変わって、落ち着いた声色だった。
「人生は旅だ、なんて昔の偉いモンは言ったらしいがのう。俺に言わせりゃまだまだ、何も分かっとらん。人生が旅なんじゃない、旅をすることこそが人生なんじゃ。おのれが正しいと思うことに向かって、自分でルートを決めて、ただひたすらに突き進むもんじゃ。障害物があったら、兄ちゃんの様にぶん殴ってでも進むのが男よ」
 おじさんの言う旅とは、随分豪快なもののようだだ。僕には…。僕には、そんな度胸があるだろうか。
「それに、面白いもんでのう、旅の途中にこそ、宝モンが転がっとるんじゃ。さあ、降りてみ。兄ちゃんはついとるぜ。あと五分遅かったらこげん綺麗には見えん」

 そこには、一面真っ赤な夕焼けが広がっていた。

「こりゃ明日も晴れるのう」
 そう言っておじさんは少し黄色くなった歯を覗かせた。
「兄ちゃん、あんたはその上司より、よっぽど人生のことが分かっとる。宿はその角じゃ。ボン・ボヤージュ」

 おじさんが去った後、夕日が眩しくて細めた目からは、涙が溢れて止まらなかった。
 ジャーニー・イズ・ライフ。旅こそ人生さ。
 頭で反芻したおじさん自作の歌は、相変わらずメロディーも歌詞も滅茶苦茶だった。でも、今はその不器用さが何よりも心地良かった。その歌に背中を押されるようにして、僕は夕日に向かって思いっきり叫んだ。
 僕の旅は、まだまだこれからだ。


(了)


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このストーリーに関するコメント

17/08/06 雪野 降太

拝読しました。
既に旅の途上でありながら、ここから始まる! と予感させる締めくくりに、じん、としました。
おじさんの言葉に某元サッカー選手の引退メッセージを思い出し、夕日のシーンとも相まって、懐かしさにほうっと息をつきたくなる気分になりました。

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