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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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9000年前のラブコール

17/07/01 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:709

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 青目は、朝からずっと、日当たりのいい岩の上で、ねそべっていた。ねがえり以外、ほとんど動くことがなかったかれだが、さすがに空腹だけはどうしょうもなく、むっくりもたげたあたまを左右にめぐらした。
「だれか、おれの食べるものをとってきてくれないか」
 しかしその声も、やはりかれ同様、枝の上で、また草むらで、朝からねころんでいる周囲の連中の耳にははいらなかった。いや、届いてはいても、かれらもまた、だれかにじぶんの食べものをとってきてほしいと願っている横着ものばかりだった。
「ちぇ、しょうがないなあ」
 ぶつぶついいながら青目は、のっそりとたちあがった。するとかれの下から、数匹のネズミの子供がぞろぞろとはいだしてきて、眠そうな目で岩場の下におりはじめた。ほとんど一日中横になっている青目のからだはちいさなネズミたちにとってすみかにうってつけで、恐ろしい鷹やフクロウたちからもみつからずにすむ安全地帯だったのだ。
 青目には、行く当てがあった。
 それは、山里にすむ、奇妙な生き物のところだった。青目たちのような四足とはちがって、二本の足で歩き、集団生活をいとなみ、いつのころからかこのあたり一帯にすみつくようになっていた。
 青目が興味をおぼえたのは、かれらが、魚をつったり、獣をとらえたりするのに驚くほど巧みということだった。そのうえ、獲物を保存するすべもわきまえていて、そのつど獲物をとらえなければならない青目たちより、よほど効率がよかった。
 前に、食べものにありつけなかったとき青目は、この奇妙な生き物たちのそばまででかけていったことがあった。おおきな桶に、かれらの食べ残しとおぼしきものがすててあるのをみつけたかれは、樽に頭をつっこんで、夢中でむさぼりくった。
 ふとだれかの視線を感じて青目が顔をあげると、少しはなれたところから、二本足がじっとこちらをみつめているのがわかって、本能的な恐怖にかられてあわててその場からにげだした。
 いまでもあのときたべた、骨つきの魚の味ははっきり記憶に残っている。 もういちど、たべたい衝動に強くかられることはあっても、あのときじぶんをながめていた、生白い顔からのぞく、無表情なまなざしをおもうと、なかなか決心がつかなかった。
 青目は、いや、かれの仲間たちはそろいもそろって、なまけもので、ぐうたらで、他力本願の持主ばかりだったが、そのかわり、途方もない臆病者ときていた。それでも、いまみたいにひっきりなしに腹の虫が鳴りっぱなしのときは、足はしらずしらず山里むかって歩き出すのをどうすることもできなかった。
 草むらや茂みの下を、注意しいしい突き進んでゆくと、前方にかれらの住居がみえてきて、その裏側におかれた桶からはいまも、かれの腹をたまらなく刺激してやまない食べものの匂いが漂いながれてきた。
 青目が、ひときわ身をかがめて、桶にとびのろうとしたそのとき、いきなり背後から、ぶきみな唸り声がしたかとおもうと、やせて骨のうきでた犬が二匹、われがちに桶に跳躍するのがみえた。
 犬にとびつかれて桶は、横倒しになり、なかから残飯がこぼれでた。
 食べものを目の前にしながらも、青目はさすがにがつがつとあさりはじめた犬たちのまえに、でていくだけの勇気はもちあわせていなかった。
「こらー」
 いきなり二本足たちが飛び出してきて、ふりまわす棒で犬たちを追い払いはじめた。犬たちは悲鳴をあげながらにげだした。
 二本足たちの凄い剣幕に、そばからみていた青目はたじたじとなって、そっとその場から退散しようとした。
 その彼の耳に、グルグル………という、青目たち特有の、一種の愛情表現の喉音がきこえてきた。みると、二本足たちのまえにいる、青目の仲間の雌の、金目の姿がみえた。ふだんはめったにそんなことしないのに、なぜか彼女は愛嬌たっぷりに、これみよがしに腰をくねらせ、あだっぽい流し目をかれらにおくっている。そんな彼女の、これ以上ないというぐらい愛くるしいしぐさに、二本足たちもつい魅了されたふうに、手をさしのばした。するとその手を、なんどもなめまわしては、またグルグルと、喉をならす彼女だった。青目は、彼女が二本足たちからたんまり餌をもらうのをみて、これだとおもった。
 青目はその日からさっそく、金目にあやかって、二本足たちにかわいがられるような、愛嬌をその顔にうかべて、相手がさしのべる手をペロペロなめては、喉を嬉しそうに鳴らすようになった。みれば他の仲間たちもいちように、青目とおなじようなふるまいにでて、二本足たちの注目を浴びようと躍起になっていた。
 二本足の人間がこうして、まんまと怠け者の猫たちにたぶらかされ、餌をあたえていっしょに暮らすようになったのは、いまから約9000年前のことだという。


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