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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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パスタの茹で方、猫の飼い方

17/06/25 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:2件 miccho 閲覧数:1421

時空モノガタリからの選評

妻の忘れ形見のミランダと「僕」との距離感が程よく、また亡き妻の魅力的なキャラクターと夫婦のいい関係が伝わってきて、サラリとした読後感が残りました。魅力的な作品だと思います。彼女の伝言や手紙のシーンが特にいいですね。猫の件について夫の選択権を残しつつも、彼の性格を見越し、世話の仕方を詳しく伝えるしっかり者の面と、残された者達を思いやる愛情深い彼女の魅力が、よく伝わるエピソードでした。大きなストーリー展開が起こらない作品では、やはり登場人物が魅力的かどうかというのは大きな比重を占めると思います。妻の死という辛い経験をしつつも、淡々と日常を過ごす「僕」の姿勢が素敵だと思いました。
 
時空モノガタリK

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 昼食はパスタにしよう。そう決めて鍋いっぱいにお湯を沸かし麺を茹でてみたものの、出来上がったパスタには違和感があった。どうにも柔らかすぎて、歯ごたえがない。
 妻の早紀がいつも作ってくれたパスタは、芯の部分は残っていて、きちんとアルデンテに仕上がっていた気がする。
「ゆで時間さえきちんと計ってあげれば、誰だってできるわよ」
 早紀にはそうやって笑われそうだ。
 うどんのようなパスタをすするリビングは、今はがらんとしている。

 ミャー
 ミランダが恨めしそうな目をしてこちらを睨んでいた。ご機嫌斜めのようだ。僕はミランダのご飯のことをすっかり忘れていたことに気がついた。
「悪い悪い」
 戸棚からキャットフードの缶を取り出して、器に移した。が、ミランダはぷい、とそっぽを向いた。
 僕はため息をついた。元々猫は好きではないのだ。爪とぎの音はうるさいし、毛玉の掃除も大変だ。最近はその毛玉も増えた気がするのだが、僕にはどうして良いのか分からない。早紀がどうしても飼いたいと、半ば押し切られる形で不承不承我が家に迎え入れたのだった。今となってはもう、ミランダを家に置いておく必要は無いのかもれしれない。
 器を下げようとすると、途端にミランダが駆け寄ってきた。やれやれ。僕はまた嘆息した。本当に気分屋なお姫様だ。
 ただ、キャットフードを少しずつ口に運ぶその姿は、人間の僕よりもはるかに上品に見えた。それは、レストランで平たい皿で提供されるライスを、いつも綺麗にフォークに乗せて食べていた早紀の姿と重なった。毎回箸を用意してもらう僕は「恥ずかしいからやめてよね」といつも叱られていたっけ。

 早紀は僕とは不釣り合いなほど、育ちも器量も良かった。
「一体どうして僕なんかと結婚してくれたんだい」
 ある日思い切って妻に聞いてみた。
「カッコつけてないところ。あと、いびきをかかないから」
 そう言って舌を出した、あの悪戯な笑顔の持ち主は、もういない。

「ちょっと頭痛がするから病院に行ってくるわ。夕食は適当に出前でも取ってね」
 早紀がそう言って家を出ていったのは、まだ梅雨が明けていない、六月のことだった。
 検査後、早紀はすぐに入院となった。それから二週間、次に家に帰ってきたときには、早紀はもう真っ白な骨になっていた。それは二人の男女が恋に落ちるときのように、あっという間の出来事だった。

 そうしてミランダと僕、自分の事を最も愛してくれた人を亡くした者達が、この狭いアパートに取り残された。

 ピンポーン。インターホンが鳴ったので、食事を中断して玄関のドアを開けた。
 そこには見覚えのある女性が立っていた。早紀の親友の、確か芹沢さんと言ったか。
「今日はミランダちゃんを引き取りにきました」
 芹沢さんはそう切り出した。
「あの、どういうことでしょうか」
 それがさも当然のことのように芹沢さんが話し始めたので、僕は慌てて聞き返した。
「生前の早紀に頼まれていたんです。『夫は猫が嫌いだから、私がいなくなったらミランダの顔なんてみたくないはずなの。だからお願い、もしその日が来たら、引き取ってあげてちょうだい』って」
 ああ、そういうことか。自分の病気のことで精一杯だったはずなのに。そんなことにまで気を回してくれていたのか。
 そして、その申し出自体は渡りに船のはずだった。ミランダときたら食事にはうるさいし、自由気ままだし、僕の手には到底負えそうにない。
 あれじゃまるで…。と、そこでふと思った。まるで、早紀じゃないか。
「あの、どうかしましたか」
 芹沢さんは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「あの、うちの猫なんですけど、やっぱり僕が飼いたいと思っていますが、ダメでしょうか。何ていうか、妻の忘れ形見というか、妻が大好きだった猫なので、側においておきたいというか」
 芹沢さんはそれには答えず、替わりにふふ、と微笑を浮かべた。
「はい、じゃあこちらを読んで下さいね」
 そう言って、封筒を一枚手渡した。
「『もし俺がミランダ引き取るって言ったら、これを渡してね』って言われていたんですよ」
 封筒の中を開くと、便箋には「ミランダの飼い方」と記されてた。
 身だしなみのチェック。病気かな?と思ったら。ミランダが食べれるもの、食べられないもの。などなど。びっしりと几帳面な字で埋め尽くされていた。それは確かに、早紀の字だった。
 結局、早紀の思惑通りだったわけか。

「改めて、これからよろしくな」
 その晩は、とびきり良いキャットフードでささやかな歓迎会を行った。でもミランダはそのご馳走を一瞥すると、くるり、とこちらに背中を向けて、毛づくろいを始めた。やっぱりこちらの思い通りにはなかなか動いてくれない。そんなところも、誰かさんにそっくりだった。

(了)


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このストーリーに関するコメント

17/08/14 光石七

拝読しました。
猫の自由気ままさ、気分屋のお姫さまっぷりの描写にリアリティがありました。
猫の姿に奥さんを重ね合わせ、主人公が一人と一匹の暮らしを再出発する流れも自然で、読後温かい気持ちになりました。
素敵なお話をありがとうございます!

17/08/21 miccho

光石七様

あたたかいコメントを頂きありがとうございます。
(作者の私より的確な分析な気がします笑。)

リアリティを出すのになかなか苦労しまして、執筆過程で猫の気持ちになるために
近所の猫を追いかけ回したりしましたが、完全に不審者だったと思います笑。
評価して頂いて大変恐縮です。

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