千野さん

絵や物語が好きです Twitter→@hirose_chino Tumblr→http://chinohirose.tumblr.com/

性別 女性
将来の夢
座右の銘 沈黙は金

投稿済みの作品

0

縮図

17/06/20 コンテスト(テーマ):第108回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 千野 閲覧数:540

この作品を評価する

 自分こそは王の伝令役だ、と主張するものたちがいる。

 だがしかし、彼らのなかに城の内部に足を踏み入れたことがあるものや、実際に城主と言葉を交わしたことがあるものなど皆無だ。それでも彼らは時たま次に起こる事象(城主の勅令)を予言することがあるので、熱心な信者を多く集めている。厳密にいうと、予言を行う彼らの方こそ「城」の信者そのものであるのだろう。

 彼らは世界に存在するあらゆるものからただひとつ、城主の意思を読みとることにのみ、与えられた機能を使うものたち。現れては消える蜃気楼のような存在を追い続け、やがては砂漠の砂に肌を焼かれて息絶える、愛しきものたちだ。

 この世界に本当の城と呼べるようなものはひとつしか存在しない。その時代の支配者たちによりこの地上に無数に建造された「城」と呼ばれるものは、全てその「唯一の城」の模造品である。名前のない王国は城を伴って、どこにでも顕現する。寝起きのぼやけた視界の真ん中に、未だ開かれたことのない本の頁のなかに、真昼のかげのなかに、それから絵画のおさめられた額の、硝子の板の表面に。それらは記録されずともそこにある、稀有な存在。無意識に刻まれた存在は、普遍以外の名前を持たない。

 私達はこの「場」で起こりうる事象がすべて城主の意志によるものなのだということだけを知っている。それだけの力を持っているということを、何故だかみなが知っている。しかし名前を持たない王国を統べるものが一体何であるのか、誰にもわからない。城主は――そんなものが実際に存在しているのならば、の話だが――民衆に何も伝えようとはしない。ただ坦々と実行する。ただ事物を動かす。泉を枯らし、村を滅ぼし、星を降らし、ひとを生かす。

 時に残酷に。時に慈悲深く。

 こう表現することもできるが、そこにあるのは意思のように見えるものであって、実際には広義の意思とは全く異なる性質を持つ何かだ。しかしながら、私達は自分たち自身がそれとは違う存在なのだという確証すら持っていない。そして、おそらくは永劫に持ち得ない。意思は、意思と呼べるようなものは、本当に在るのだろうか。

 今日もまた、身体を構成する細胞のひとつひとつ、その部屋の中から――その核の中から、電気の信号を借りた、城の呼び声を聴く。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン