1. トップページ
  2. 宇宙人を捕獲せり

家永真早さん

ブロマンスやロマンシスが書きたい。 何気ない日常や、日常の中の非日常を書くのが好きです。 http://ienagaworks.php.xdomain.jp/

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

2

宇宙人を捕獲せり

17/06/19 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 家永真早 閲覧数:663

この作品を評価する

「昨日、宇宙人を捕獲した」
 未確認生命体UMA研究同好会会長、佑真先輩の一言で、部室内は俄かにざわめいた。と言っても、会員は佑真先輩と広田の二人しかいないが。
「今はどこに……?」
 唾を飲み込んでから、広田は問う。UMAなんていねーよ、と否定され続けた苦悩がやっと報われるのだと思った。
「家で母が見ている」
「ええっ!?」
「……そうするしかなかった。母は、もう洗脳されてしまっているかもしれない。いや、私ももしかしたら……」
 驚く広田に、先輩は口惜しそうに顔を歪めた。二人ともまだ高校生だ。何かあれば家族に頼らざるを得ない。巻き込むしかなかった無力さを感じているのだろう。
「……何かされたんですか?」
「いや、何もしないのだ。そこが怖いところだ。こちらの気づかぬうちに、確実に洗脳されていく」
 まだ肌寒い日が続く春先、沈黙する広田の手のひらに汗が滲んだ。先輩は鋭い眼差しを広田に向ける。
「だから広田、君も私の二の舞にならぬよう、奴等の特徴を伝えておく。街中で見かけても迂闊に近寄らないように」
「そんな、街中で遭遇します?」
「ああ。特に今の時期は多いようだ」
 宇宙人が地球の四季にどう関係あるのか広田にはよく分からないが、例えば地球人に化けた宇宙人の変身が解けやすいとかなのだろうかと想像した。
「まず、顔に対して目が大きい」
「あっ、はい!」
 広田は慌ててスマホのメモ帳を起動させる。撮っているはずの写真を見せないのは、写真ですら洗脳能力があるかもしれないと先輩は考えたからだろう。
「そして尖った耳、毛だらけの体、体長は……15センチくらいか」
 先輩は両手で長さを示して見せた。意外と小さいが、地球に比べて小さい惑星も多いのだから、そう考えると納得できる。
「体の長さ程もある尻尾、四つん這いの格好で、地に接する手足には毛の間に柔らかいような固いような肉が現れ、鋭い爪を持ち」
「……」
「濡れた鼻、顔からはみ出る程の長い髭、口の中には4本の長い牙とノコギリ状の歯」
「……」
「やすり状の長い舌、吸血する虫を纏い」
「……。……」
 メモを取りながら、この特徴に当てはまる生物を広田は知っている気がした。さすがにUMA以外には興味のない先輩と言えど、知らないはずはないだろう。地球上の生物を知らずしてUMAは分かるまい。
「鳴き声はミャー、あるいはニャー」
「先輩」
 さすがに物申したくなり、広田は挙手をする。
「皆まで言うな」
「いや、先輩」
「言うな」
「それは、猫ですよ……ね?」
 時が止まった。1、2、3、……10秒経って先輩は項垂れる。長い髪が机を撫でた。それから絞り出すようにただ一言。
「……ああ」
「……」
「だがな! あれが宇宙人でなくて何なのだ!」
 広田の小さなため息を聞き付けたのか、先輩は勢いよく立ち上がり捲し立てた。
「あんなものが、地球の生物であるはずがない。ネットの噂は確かだと思ったよ」
「……え……?」
 顛末を知り、がっかりした広田だが、ネットで冗談めかして言われている“猫宇宙人説”が本当かもしれないと聞いては、また興味が湧いてきた。先輩は広田の知らない、猫が宇宙人たる証拠を掴んだに違いない。
「まずはあの耳。我々の知る姿では、頭の上部に薄っぺらいものがついているが、奴は顔のやや横に、小さくて少し厚みのあるものが生えている」
「……」
「そしてあの無力さ! 覚束ない足取り、ボサボサの毛、しまえない爪! か細い鳴き声!」
「……仔猫、拾ったんですか」
「あどけない姿で我々の心を惑わし、命を長らえる罪深さ! お陰で一家寝不足だ!」
「それは、大変でしたね」
「だが勘違いするな。しばらく様子は見ていたんだ。だが寒い夜だ。掠れた声……思えばあれは洗脳音波だ」
「仔猫、助かって良かったですね」
 先輩は無言で頷く。
「しかしあのような恐ろしい生物が地球の物であると考えたくはない。本当に恐ろしい……、戦でも敵兵を退け 歴史を動かす力を持っていると聞く。ほとんど寝ているくせに、虫だらけのくせに……」
 そこまで言って、先輩は拳で机を叩いた。
「かわいい!!!!」
「……」
「罪深い……」
 机に手をつき、首を垂れた先輩の肩が震えている。何度も机を叩き、それから深呼吸を繰り返す。しばらく経ってから、気を取り直したように顔を上げた。
「だから君は気を付け……」
「それはもうダメかもしれません」
「え……?」
「うち、猫飼ってますから。4匹」
 苦笑する広田に、先輩は諦めたような顔で微笑んだ。
「……そうか。手遅れか」
「はい」
「良い動物病院知ってたら教えてくれ」
「はい」
「写真、見るか?」
「はい」
 猫が宇宙人であるか否かは謎のままだが、UMA研究同好会が実質“猫”研究同好会になる日は遠くないかもしれない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品