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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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猫はなんでも知っている

17/06/19 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 miccho 閲覧数:741

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 僕はなんでも知っている。

 シンジくんが生まれた日、お母さんになったばかりのサチエさんは、同じくお父さんになったばかりのヒロシさんをひどくなじった。どうして出産の立会いに間に合わなかったの、と。
 人の良いヒロシさんは「やあ、なんとも。すまない」と終始申し訳無さそうな顔をしていた。

 僕は知っている。ヒロシさんは本当は心配で心配で、その前の晩、一睡もできなかったことを。それでも明け方、ついに眠ってしまって、目を覚ました時にはもうシンジくんは生まれていたのだということを。

 シンジくんが生まれてから、サチエさんは少し痩せた。心配するヒロシさんに対してサチエさんは「二の腕の贅肉が落ちてよかったわ」なんておどけてた。

 僕は知っている。決して裕福ではない暮らしの中で、ヒロシさんとシンジくんにはちゃんとご飯を食べさせようと、サチエさんが自分のご飯の量を減らしているのだということを。

 シンジくんが三歳の頃、ヒロシさんは腰の具合が悪くなった。「どうやら僕も年かな」なんて言いながら笑ってた。

 僕は知っている。ヒロシさんが、お馬さんごっこが大好きなシンジくんを楽しませたくて、無理をしているのだということを。そしてその痛みも、シンジくんの笑顔を見ると、すぐに吹き飛んでしまうのだということを。

 シンジくんが五歳の頃、サチエさんはシンジくんをひどく叱った。シンジくんが、勝手に台所で火を使ったのだ。それこそ火が出るほど叱った。シンジくんはただ泣きじゃくっていて、その理由は言わなかった。

 僕は知っている。シンジくんが、毎日家事をがんばるお母さんを助けてあげたくて、シチューを作ってあげようとしたのだということを。

 シンジくんが小学校に入学すると、ヒロシさんは大好きなビールをあまり飲まなくなった。「健康診断の結果が気になっちゃってねぇ」そう言ってヒロシさんは照れたようにちょっぴり薄くなった頭を掻いた。

 僕は知っている。ヒロシさんがビールを控えるようになったのは、シンジくんが少年野球のチームに入りたいと言い出してからだと。シンジくんには好きなことをさせてあげたいと、ヒロシさんがこっそりお金を節約しているのだということを。

 シンジくんが小学校二年生のとき、クラスメイトと喧嘩して、相手の子に怪我をさせてしまった。担任の先生に呼ばれたサチエさんはただおろおろするばかりで、ひたすら相手の少年の母親に頭を下げていた。

 僕は知っている。シンジくんが喧嘩した理由は、サチエさんの悪口を言われたからだということを。普段は温厚なシンジくんが、烈火の如く怒って相手に飛びかかったのだということを。

 僕は知っている。ヒロシさんが、会社でどんなに上司に叱られても、家では愚痴一つこぼさないことを。
 僕は知っている。サチエさんが毎日、仏壇の前で手を合わせて、ヒロシさんとシンジくんの無事を祈っていることを。
 僕は知っている。シンジくんが野球の試合で負けた日、家族を心配させたくなくて、家に帰らず、近所の公園で泣きじゃくっていたことを。

 僕は知っている。この三人家族は、思いやりに溢れているんだということを。

 僕は知っている。この家族が、世界一のご主人様であるということを。

***

 年老いたミケは三人家族に看取られながら、安らかな眠りについた。
「手厚く葬ってあげよう。ここまで我が家が仲良く暮らせたのは、ミケのおかげな気がするんだよ」
 誰ともなしにそう言うと、三人は顔を見合わせ、優しく頷いた。


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