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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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一番人気

12/11/26 コンテスト(テーマ):第二十回 時空モノガタリ文学賞【 お正月 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2727

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 サブは窓のそとの、張りついたように動かない星々をながめた。
 じっさいには彼のいる宇宙都市は時速数万キロの速度で惑星のように円運動しているのだが、広大無辺な宇宙のまえには、そんな数字はゼロにもひとしかった。
「サブ、なにぼんやりしてるの。もうじき新年があけようとしているのよ」
 やわらかな声とともに、背後から母親がちかづいてきた。その横には、妹のモモがたっている。
「わあ、なんだ、それ?」
 サブは妹の奇矯ないでたちをみて、目をまるめた。
 モモはくくっと含み笑いをもらしながら、ピンク地に赤や水色の花柄がちりばめられた着物姿をこれみよがしに、その場でしなかやに回転してみせた。
「これ、着物よ。どう、きれいでしょう」
 母親もつられて笑いながら、
「モモちゃんは、お正月の装いをしているのよ」
 背後でカランコロンと音がして、ふりむいたサブの目に、下駄ばきに羽織袴姿の父親がとびこんできた。
「やっぱり正月は、和服が一番だな」
 室内に、なにやら殷々とした響きがつたわってきた。
「除夜の鐘が鳴ってるわ。さあサブ、お正月の缶をあけて」
 いわれてサブは、さっきから手にしていた缶詰に目をおとした。
 ラベルには、『たのしい日本のお正月』と筆字でかかれている。
 缶詰といってももちろんそれは、太古に存在した缶の蓋を開ける式のものでなく、ふたの中央のスィッチをおすと同時に、ある種のバーチャル世界が出現するというものだった。
「ほら、カウントダウンをはじめたわよ」
 モモが部屋のすみにおかれたテレビをみていった。
 なるほど画面では、新年を迎える人々が大きな声で数字を口にしている。
「11、10、9、8―――」
 それをきいているとサブも、次第に神妙な気持になってきた。
 今年がいままさに終わろうとしている。新しい年はもうそこまできており、まもなくみなに祝福されながら幕をあけるのだ。
「5、4、3、2、1―――ゼロ!」
 缶詰からさまざまな色の光がほとばしりでて、からみあい、まじりあいながらしだいにそれは、部屋じゅうにひろがりはじめた。
 まっさきに壁際に、昆布、橙、干し柿で飾られた鏡餅があらわれた。部屋中央にはいつのまにか炬燵がおかれ、炬燵のうえにはおせち料理がならび、みんなの雑煮がお椀のなかで湯気をたてていた。
「サブ、あれをごらん」
 母親にうながされて彼は、窓のそとに目をやった。
 と、さっきまで果てしない暗黒と、星のほかにはなにもなかったところにいま、うっすら雪のつもった庭がひろがっている。
 数人の子供たちがわずかな雪をかきあつめて、声をはずませながら投げあっている姿が垣根越しにながめられた。
 晴れ渡った空には、高々と凧があがり、地面では女の子たちの羽根をつく乾いた音がひびきわたった。
「これが日本の正月の光景なんだ」
 サブはいますぐかれらのところにとんでいっていっしょに、雪合戦をしたり、空高くどこまでも凧をあげてみたくなった。
 だが、いま自分がみているものはすべて、超3D合成による架空の世界だということを忘れてはいけない。
 消費期間がすぎれば、窓に映し出された雪も凧も子供たちも、そして室内に出現したすべての正月のアイテムも、きれいに消えてなくなるのだ。
 それがわかっていてもサブは、遠い過去に行われた日本の正月の風習がたとえ一時でも味わえたことがうれしかった。
 広大無辺な宇宙空間のただなかで、そよとも風の吹かない密封された都市内で長期間暮らし続けることの砂をかむような索漠感が、これによってすこしは癒されるというものだ。
「父さん、母さん、モモ、あけましておめでとう」
 サブは急に真顔になると、三人にむかって、新年のあいさつをした。
 三人もまた、態度をあらためて、
 「おめでとう」とこたえた。
 その声がおわるかおらないうちに、まず母親がふっと消えた。そのあとを追うように父親が姿を消し、最後にモモがその場から消滅した。最後に彼女がみせた愛嬌たっぷりの笑顔だけが、だれもいなくなった室内にたたずむサブの目に、いつまでも消えずに残っていた。
 三人はいなくなった。
 サブは、テーブルに置いていたもう一個の缶詰の消費期間が終了したことをしった。
 ラベルには、『あなたの家族』と表示されていた。
 宇宙都市の住民は全員、万能細胞から誕生した人間のため、親兄弟のつながりはいっさいない。『あなたの家族』の缶詰が一番人気で、都市内でもひっぱりだこという事実は、おそらくそのような事情からきているのではないだろうか。


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このストーリーに関するコメント

13/01/17 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

時空賞、受賞おめでとうございます。悲しいですね、お正月がこんな風になってしまうのでしょうか。そんな時代になっても、いえそんな時代だからこそ、家族という繋がりを人類は求めるものなのでしょう。

缶詰という設定、面白いですね。もしかして、有り得るかもしれませんね。劣化しないでしょうから、でも開缶してしまったら消費期限がきてしまう、――凄くうまい作ですね。楽しませていただきました。

13/01/17 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。

すでに現代でも、お正月の風景は滅びつつありますが、大晦日の夜、除夜の響く下を、寺社仏閣に出かけると、結構大勢の人々が集まっていて、とんとを焚いたり、お神酒をふるまわれたりして、行く年くる年をみなで祝う姿がみられます。
寅さん映画の中だけではない正月―――宇宙時代になっても、残したい風習のひとつですね。

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