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kouさん

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ニブンノイチ

12/11/26 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:0件 kou 閲覧数:1940

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「それはこういう意味ですか。『お前は俺の女になれるのか』、と」義妹は兄が座っているソファーの両端に手を掛け顔をのぞきこむ。
「そこまで品のねえことはいってねえよ」兄は言い放ち、「ではどうなりたいのです」義妹は背を向けた。
「お前、俺のことを兄だと思ってねえだろ」
「当然です。血も繋がっていないのですから」義妹は振り向き目を細める。
「なあ。なんでもお前なんだよ。不合理だろ。今まで付き合った女とは真逆で、色気も胸もないのに、なんでこんなに気になんだよ。落ち着かないんだ」兄は頭を掻きむしる。
「睡眠不足ですよ。絶対に」義妹はしれっと言い、「そんなわけあるか」兄は強い口調で言う。
「とにかく。しばらく誰ともどうともなるな。俺に逆らうな。いいな?」
「では、すでに誰かとどうなっていた場合はどうしますか」義妹は唇に人差し指をあて、「まさか、彼氏がいるのか」兄は身を乗り出す。
「合理的に考えてそれはどうでしょう」義妹は口角を上げた。

 愛が運命を導くか、それとも運命が愛を導くか それは我らの人生が銘々ためさねばならない問題だ。

 僕は学校生活を淡々と過ごし、カナル型のイヤフォンを両耳に装着しiPodのクリックホールを回す。それは僕に限らず大半の高校生が行っていることであり、今では常識化されている一つの風景である。それは変えてもいいし、もちろん変えなくてもいい。そしていつも通り学校が終われば自宅兼喫茶店である『ニブンノイチ』にアルバイトという名の手伝いに帰る。店名の由来を父に尋ねた際には、『ほどほとに愛せ。長続きするとはそういうことだ』とのことだった。
「遅いですよ歩さん」
 唯一無二の常連であり、僕の彼女でもある愛美がカウンターに座っていた。
「愛美ちゃん早いね。なにか飲む?」僕は言い、「ブルーマウンテン」と遠慮なく彼女は言う。
 遠慮のなさは兄譲りだな、と僕は苦笑する。実際には愛美とは血の繋がりはないが、でも彼女は気づいてるのだろうか兄である舞人の気持ちを。だからか僕は周囲にも、ましてや舞人にも愛美と付き合っていることは言っていない。気ままで自分の思い通りにしないと気が済まない舞人だ、もし僕と愛美が付き合っていることが知れたら何をされるかわからない。それでも兄妹という立場でなく、もし二人の出会い方が違っていたら。と思うと僕の頭の中はあらゆる妄想と嫉妬というむず痒さが増殖する。そんな思いを抱えながらブルーマウンテンNo1の入った瓶を手に取り作業に取りかかる。

「ドリップにしたから美味しいと思う」僕は愛美の前にコースターを敷きカップを置く。
「合理的な香りですね」合理的かどうかは別として香りは他の豆とは圧倒的な差がある。店内に香ばしさが満ちていくのがわかった。思わず周囲を見渡してしまう。コーヒー好きには、このブルマンの甘い香りはたまらない。口の中に唾液が湧くのがわかる。
 愛美は一口、二口と啜り、色白の細い指を器用に使いカップをコースターに置く。「歩さん、冬が終わる前にキス、済ませましょうか」
 彼女の一言に、袋から瓶に移し替えていたコーヒー豆を僕は動揺からばらまく。ふふ、と笑い愛美がコーヒー豆を拾う。僕らは見つめ合う。そして、「私、怒っているんです」と愛美は八重歯をのぞかせた。

「いい身分ですね。バイトもせず夜遊びとは」義妹はソファに座りながら言い、「歩を誘って女子大生と合コンしてきたんだ。あいつも彼女の一人ぐらい作らねえと」と兄は言い隣りに座る。
「歩さんが、舞人の女友達と気が合うとは思いません」と義妹は言い、「なぜ?」と兄は問い水を飲む。
「いいですか。歩さんは順応性が高く悪くいえば主体性がない。どんな無茶苦茶な状況でも普通に行動できるが、自分で積極的に動いたり状況を変えようとは思わない。なので引っ張っていく女性でなければダメなんです。世の大半の女性は彼みたいなタイプには辟易してしまいます」
「まあな」と兄は天井を見上げ、「お前の歩像は、散々だな」と付け加えた。

「愛美ちゃん。だからあれは」
「言い訳は合理的ではないです。これは罰です」自転車の後ろに乗せた愛美が僕の首元をさすった。それがくすぐったくハンドル操作を誤り、僕らはマシュマロのような新雪の上に落ちた。
 僕の眼前に愛美の顔がふわっと現れる。「お互いファーストキスなんですから刺激的なシチュエーションがいいです」徐々に彼女の唇と甘い吐息が近づき目を閉じた。触れ、口の中に何かが侵入した。「歩さん、それが私の心の状態です。それに雪たちに見られてますし、キスはお預けです」僕の唇に触れ、口の中に入れられたものはコーヒー豆だった。どうやらあのとき拾ったものらしい。
 やれやれ、苦くも甘い、不合理なニブンノイチ。


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