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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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佐野さんはワーカーホリック

17/06/05 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:802

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 定時は22時、という名言を残す佐野さんにとって休日出勤など何でもないのであろう。
「ああ、その仕事は土曜日に終わらせるんで」
 とか平気な顔で言われて耳を疑ったものだ。
 念のため言っておくと、うちの会社は10時〜19時、土日祝日は休みである。ちなみにベンチャーなIT企業というやつで、スマフォアプリを作ったりしている。私は企画担当で、佐野さんはプログラマーさんである。
 先日、溜まりすぎた振り替え休日をどうにかしてとれ! と上司に怒られているのを見た。有休の残りが心もとない私には、うらやましい話である。
 早い話が、佐野さんは社畜なのだ。
「そんなに休日出勤ばっかりしてて、大丈夫ですか?」
「休みの日にすることが何もないからさ、退屈なんだよね」
 へらへらっと笑う。質問の答えになっていない。
 独身なのは知っているが、カノジョもいないのだろうなと思った。毎週のように会社に行っているカレシなんて嫌だ。
 私は週休五日でも足りないぐらいやりたいことがたくさんあるのに。多分、佐野さんは無趣味なのだろう。

 佐野さんの名誉のために付け加えておくと、佐野さんは決して仕事が出来ないわけでも、遅いわけでもない。むしろ、はやい。そして丁寧だ。
 細かいところにもよく気がついてくれて、こちらが思いつかないことを提案してくれる。無茶なお願いにも答えてくれるし、社長の気まぐれで変更になった仕様にすぐに対応してくれる。
 そんな風に優秀だから、逆に次から次へと新しい仕事を振られてしまうのだ。
「佐野さん、今いくつ案件抱えてるんですか?」
「んー?」
 可愛く小首を傾げられた。小さいおっさんなのに。さては本人も把握してないな。
 
 そんな佐野さんが、三週間の連休をとることになった。
 溜まりにたまった振り替え休日と、ただただ消えていく有給休暇をどうにかしろと、半ば強引にとらされることになったらしい。
「えー、どうしようかなぁ。会社来ようかなぁ」
 佐野さんはそんな寝言を言っていた。
 佐野さんは社畜というより、仕事中毒だ。どうやら好きでやっているらしい。私には信じられないことだが。
「来ないでくださいよ。旅行にでも行けばいいじゃないですか。海外とか」
「僕、パスポートないもん」
 そんなこんなで、連休前に仕事をさくっとキレイに片付けた上で、佐野さんは休みに入った。

 そして、一週間経たないうちに自殺を図ったという。
 住んでいるアパートの三階から飛び降りたそうだ。植え込みがクッションになり、命に別状はなかったが、大怪我をしたらしい。
 詳細は我々には伝えられなかったので、上長がしている話に必死に聞き耳を立て、同僚と持ち寄った結果だが。
「つまらないから、辛かった」
 佐野さんは、そう呟いているらしい。ちょっと精神も不安定になっているそうだ。
 ずっと仕事続きで過労気味だったのが、休んだことで初めてそれに気づいたんじゃないか。そんな話も出ているそうだ。うちの会社の勤務体型もちょっと疑われたらしい。何にもおきなかったけど。

 多分だけど、仕事中毒の佐野さんは、仕事が出来ないことで禁断症状に陥ったのだ。仕事が出来なくてつまらなくて、本当に何もすることがなくて、死ぬしかないと思ったのだろう。
 だとしたら、治療法は入院して安静に……ではなく、一刻も早く復職することではないだろうか。私はそう思うのだが、そんなことを口にしたら人でなし扱いされるので言わない。
 二ヶ月経つが、佐野さんはまだ戻ってこない。抜けた穴は大きくて、私は最近残業と休日出勤がデフォルトになっている。つらい。
 そして、まだそれを「つらい」と思えるから大丈夫だろうな、と思っている。


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