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Fujikiさん

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週末に会えない女

17/06/04 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:785

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 あかりとは社会人になってから合コンで知り合った。二五歳、大卒、アンティークショップの店員。服装や話し方が落ち着いていて、一目で気に入った。
 合コンは目的が明確なぶん、友達同士から男女関係に発展する時のような気恥ずかしさがないし、互いの心の探り合いに延々と時間を費やす必要もない。あかりと連絡先を交換して後日メールを送ったらすぐに返信があり、あっという間に体を許す仲になった。ホテル代は僕が持ち、タクシー代は彼女が払ってくれた。次に会う約束もちゃんと取りつけた。大人になると恋愛ってこんなにも簡単になるのかと、ちょっと拍子抜けしたほどだ。愛の告白や付き合い始めた記念日といった恋愛ドラマの定番さえ僕たちにはなかった。
 何度か二人でデートするようになった頃、週末には僕と会わないとあかりは宣言した。考えてみれば、その宣言こそが二人が付き合っていることを認める初めての言葉だったと思う。
「フランスの大学院に留学しようと考えてて、土日はそのための勉強に当ててるの。語学教室にも通う本格的なやつ。大学時代と違って、自分で意識的に時間を割り当てないと外国語の勉強みたいなコツコツした作業の積み重ねはできないの。だから理解してもらえると嬉しいんだけど」
 正直なところ、平日にしか彼女と会えないというのは少し不満だった。僕は夕方まで仕事があるため、デートの場所がどうしても食事と映画のレイトショーとホテルに限られてしまう。僕の好きな釣りに誘えるのは年に数回の連休の時だけだ。でも僕は理解ある大人でありたいと思っていたので彼女の宣言を笑顔で受け止めた。
 あかりの週末は僕にとって決して見ることのできない月の裏側だった。会えないだけでなく、電話やメールにも応えてくれない。LINEでメッセージを送っても既読のまま月曜日まで返事が来ない。いくら何でも徹底的すぎる。本当にただの勉強だろうか、と疑念を抱くのは彼氏として当然だと僕は考えた。他に男がいるんじゃないか? そうでなくても何か僕に隠しておきたい秘密があるに違いない。
 でも平日に限って言えば、あかりは今まで付き合ってきた中でも最高の女性である。気遣いができて、僕が落ち込んだ時には優しい言葉をかけてくれる。食べ物や映画の趣味も合い、会話が途切れることもない。体の相性も申し分ない。せっかくのいい関係を気まずくするのが怖くて、週末のことについて直接問いただすのは気が引けた。妖精の言いつけに背いて何もかも台無しにする昔話の主人公みたいに、疑いの言葉を口にした途端に二人の間にある美しいものを永遠に失ってしまうかもしれないと僕は思った。
 ある土曜日の朝、僕はあかりの住むアパートの前に車を停めて彼女が出てくるのを待った。車は同僚と週末の間だけ交換したものだ。僕は野球帽を目深にかぶり、座席を倒して寝たふりを決め込んだ。
 あかりは十一時に家を出た。ハイヒールを履き、いつもより胸を張った歩き方をしている。肩から下げているのは普段は使わない南国風の染物のバッグだ。彼女はバスに乗って市街地まで行き、大通りに面したビルの二階にある語学教室に入った。受付で時間割を調べたところ、九十分の中級者コースに通っているらしい。
 あかりが授業を終えてビルから出てきた時、彼女は一人ではなく同年配の女性たちと一緒だった。講師らしき若くて背の高い外国人男性もいる。女性たちは周囲の目をまったく気にしていない様子だった。バス停に続く歩道を横に並んで歩き、楽しげに談笑している。あかりも大きく口を開けて笑っていた。あれほどきらきらした明るい笑顔を僕に見せてくれたことは一度もない。体の内側から目に見えない光を発しているかのようだった。平日とは別人のあかりがそこにいた。僕は浮気されたわけでもないのに裏切られたような気分になった。
 暗くなるのを待って僕は何の連絡もせずにあかりの部屋のドアを叩いた。仕事で辛いことがあったと嘘泣きをして部屋に上がり込み、押し倒すように彼女を抱いた。
 その年、僕はあかりに結婚をプロポーズした。思い切ってローンを組み、夫婦で暮らす一戸建ても購入した。夫の休日には妻も家にいて新婚生活を楽しむべきだと説得し、語学教室を辞めるように勧めた。彼女は新婚の間だけならという条件で納得してくれた。
 子供が産まれてからは、妻も留学だの外国語の勉強だのとは一切口にしなくなった。育児と家事で忙しくなったので、アンティークショップを辞めて現在は専業主婦である。毎日妻が家にいてくれて僕は幸福だった。
 妻は家族に対して優しく従順だったが、あの日の光が溢れるような笑顔になることは二度となかった。時おり、台所で夕食を作っている最中などに、彼女はフランス語の動詞の活用を独り言のように口ずさむことがある。当てつけのつもりだろうか。僕は聞こえないふりを続けている。


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