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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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姉ちゃん帰る

17/06/03 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:965

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 休日で、姉ちゃんが帰ってくる。

 銀行破りの映画で見た覚えがあるだけの、ジェラルミンケース。それのもっともっとでっかいやつ。
「お待たせしました」
「お引き取りにサインを」

 母さんも父さんも、やな役は僕に押しつけてからに、二人して気楽にゴルフの打ちっぱなしに逃げた。
「わかっとんのかいな。親と姉弟じゃ、禁忌のラベルの貼りの強さに差があるってのに。姉ちゃんの裸なんぞ、見るだけ危険やっちゅうのに」
 どでかいジェラルミンケースが、匿名性の高い均一なるルックスの男たちによって、玄関に運び入れられる。他人さんが家に入ってきた瞬間の表情を見るのが僕は嫌いや。やって、なんか、ややん。このうち、変なにおいって思うことあるしな。
 中の一人、なんか眉間にしわ寄せよったな。
「サインを」
「はい」

「こっちは、一人やに、リビングまでお願いしたら、ひこずってくれたやろか」
 僕は一人でうちの奥まで運ぶのを諦めて、姉ちゃんが手紙でよこしていたパスをジェラルミンケースに取り付けられたデジタル錠に打ち込む。
 ピピピっとデジタルな音がうちの中を三枚におろすかのように鋭利に響いて、ケースが開く。ガチャリと、荘厳に。月桂冠を巻いた女神でも登場せんと釣り合いがとれんで、芸人さんばりにズッコケなあかんみたいな荘厳さ。
「ただいまぁ」
 やのに、素裸の姉ちゃんが、こってこての大阪弁で出てくる。ズルっと。こけてみるよ、一応ね。
「なんやの?」
「まぁ、おかえり」
「ただいまぁ」

「タカシだけ?」
「そう、父さんも母さんも逃げてん」
「まぁ、父さんは逃げてもええけど、なんでタカシと父さんで逃げへんねん」
「知らんわ」
「ちょっと、部屋行って服、着てくるな」
「あぁ」
「なんや、顔赤いで」
「しゃぁないやろ、一年ぶりの姉ちゃんでまっぱやねんから」
「ははぁ、まだチェリー?」
「やめや」
「なん、どっち?」
「僕かて、もう十九やし」
「ふっうん。母さんに赤飯炊いてもろたか?」
「あほか、ゆーてもせーへんわ」
「なんか、差別的でややね。どっちもおんなじ成長やのにね」
「はよ、服着てこいや。えーことゆーても値打ちない」
「照れるんか? うれうれ」
「やめれや」
「ツルツルやでぇ」

 姉ちゃんは無駄に無邪気にダンサブルなステップで二階の自分の部屋に消えた。
「ただいま」
「たーだいま戻りましたー、恥ずかしながら戻ってまいりましたー」
 このタイミングだ。絶対に父さん、母さん、近くの茶店にでもおったな。ほんで、向いの真田さんに連絡もろたな。
「おかえり」
 でも、えーわ。なんも、ゆーきにもならん。
「ピザ持ち帰りやと、二枚目ただやってー、買ってきたでー」
「タカシ、カナコまだか?」
 わかっとんのに、しらじらしい。
「部屋におるよ」
「カナコー、降りといでー、ピザピザ!」
 ともあれ、姉ちゃんを含めての一家団欒が始まる。それはえーことや。

「タカシ。コーラ注いでおくれ」 
「うん」
 僕は右手でコーラのボトルを持ったが、
「あかんあかん、コーラは左手」
と、姉に注意をうける。
「カナコ、いつまでおれるん?」
「一週間。有給扱いやでぇ」
「うらやましいなぁ」
「ああ!!」
「なに? でっかい声で」
「いや、そのうから始まる六文字の言葉、カンパニーでつこたら階層落ちやで」
「ほんまか」
「うらやましいって言っても平気なんて、うらやましいこって」
 姉ちゃんの所属するカンパニーは浮世離れしているとは聞くけど、あんまし、知りとないな。
「ところで、父さん頭、はげはげやん。髪の毛ぬけぬけタコラやん。みっともない」
「ちょ……」
 僕と母さんは絶句する。絶句で絶海の孤島と化す、姉ちゃんと父さん。
「姉ちゃん」
 僕はなんとか、孤島に船を漕ぎだすんや。助け船を。
「ちょっと言葉キツすぎるわ。やさしないなぁ」
「なん言っとるん。やさしいはやさしくない、やさしくないはやさしいって知らんか?」
 それを言うなら、
「汚いは綺麗、綺麗は汚い、ちゃうんか? 逆やったっけ?」
「そこどまりかいな。なんにでも応用が効くんで。ついてこいついてこい」
「まぁ、言えとるで、カナコのゆーてること。これで父さん、スッキリして頭丸められるで。タカシも母さんもやさしいて、気つこーてくれとる思っとったけどな、カナコの方がやさしい気もするな」

 姉ちゃんの休日中、驚かされっぱなしの一週間が続いて、僕はカンパニーの隔絶したルールの数々におののきながらも感心することもあったりして。姉ちゃんが戻る日は、やっぱりちょっと寂しくもあった。
「また来年なぁ」
 と、ジェラルミンケースにまっぱで姉ちゃん。ツルツルやと、どこで泡立てとるんやろ?
  
 
  
     


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