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KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
将来の夢
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埋蔵金を探しているって本当ですか

17/06/02 コンテスト(テーマ):第107回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:812

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「埋蔵金を探しているって本当ですか」
 塀の向こうから純子は体を乗り出して聞いた。隣の庭で老人が手押し車で運んできた土をおろして山にしている。老人は山の上に乗ってスコップの背で土を押し固めていた。
「誰に聞いたんだ。俺はただ庭に富士の山を作っているだけだ」
「夫が言っていたんですよ。家の裏の崖に穴を掘っているのは、埋蔵金を探しているからだって」
「なんだ。覗き見していたのか」
 老人はスコップをまっすぐに立てて持ち上げると、乱暴に土の山に突き刺した。
「たまたま二階から見えるんですよ。覗き見だなんて、そんなことするわけありません」
 ひと睨みした後、老人は空の手押し車を家の裏へと押していった。純子は丸まった背中が見えなくなるまで眺めていたが、洗濯物を干している途中であることを思い出して、慌てて物干し竿のある場所まで戻っていった。
 ここは街から離れた住宅街の端にあった。家の後ろは崖になっていて、崖の上を国道が通っている。
老人の家は古風な平屋建ての日本家屋で、もう何代も前から住んでいるようで隣に暮らす純子の新しい家とは対照的だった。
純子の家は築三年の二階建てで、ありふれてはいたが今風の住宅だった。夫と共に引っ越してきてからまだ一カ月しかたたない。前の家の持ち主が新築で建てて二年あまりで手放したものを中古で買ったものだった。
前の持ち主がなぜ建てたばかりの家を手放したのか。不動産屋はローンが払えないからと説明したが、越してみてどうも他の理由で手放したのではないかと近頃では思うようになっていた。
洗濯物を干し終わって二階にあがって窓から隣の裏庭を覗くと、ぽっかりと空いた穴から明かりが漏れていた。老人の姿は見えない。きっと穴の奥で作業をしているのだろう。
欠伸をしながら夫が二階にあがってくると、純子の背中をぽんと叩いた。
「飲み屋の親父が教えてくれたんだけど、隣の老人はもう三年以上穴を掘り続けているんだってさ」
「本当に埋蔵金探しているのかな。そんな夢みたいなことあるわけないのにね」
「変わり者みたいだから、あまり近づかないほうが良さそうだよ。奥さんがいるみたいだけど、もう一年くらい見ていないって飲み屋の親父は言っていたし、近所付き合いも避けているみたいだしな」
 ふうん、と純子は返事をしながらも老人のことを夫のように悪く言うことができなかった。
「本当に埋蔵金が出て来たらすごいよね。徳川の埋蔵金かな。豊臣の埋蔵金かな。それともどこかの豪商の埋蔵金かな」
「さあな、どうせ何も出てきやしないから。なんだっていいさ。この辺りじゃ、あの家のことを穴掘り屋敷って呼んでるそうだよ。ただ無駄に穴を掘ってるだけの家って意味だな」
「穴掘り屋敷ね」
 馬鹿にされて可哀そう、と純子は思いながら裏庭の穴からもれる光を眺めていた。
 休日返上の仕事に夫がでかけた後、純子は掃除やアイロンかけなどの家事を手早くすませると、冷蔵庫から蕎麦を取りだして隣の家に向かった。
 開けっ放しの木戸を入って、土の山の横を通り玄関戸の前に立つと呼び鈴を鳴らした。待っても出て来る様子がないので何度も鳴らしてみた。
 引き戸に手をかけてみると簡単に戸は開いた。
「こんにちは。いらっしゃいますか」
 中から反応はなく、声が響くだけだ。
「おい、なんの用だ」
 背中の声に振り返ると白い眉を吊り上げた老人が立っていた。
「まだ奥様には引っ越しのご挨拶をしていなかったので……それで」
 純子が持ってきた蕎麦を差し出すと、老人は迷いながらも受取った。
「どうせ興味半分で来たんだろう。まあ、いいけどな。妻は出てこないよ。体調がよくないんでな」
 純子は頭をさげて詫びたが、すぐに帰ろうとはしなかった。
「あの、私にも手伝わせてください。埋蔵金の発掘をしたいんです」
 老人は信じられないといった顔つきのまま固まった。
「本当に手伝いたいのか」
「本当の本当に手伝いたいです」
「あんた変わってるな」
 きっと断られるだろうと思って頼んでみたのだが、純子の予想に反して老人はあっさりと了承した。人嫌いの気難しい老人と思っていたが、それは間違った先入観にすぎなかったようだ。変わり者に変わり者と言われてしまったのが少し可笑しかった。
 穴のなかは意外に広かった。身長百五十センチの純子が立っても天井に頭がぶつからない。奥行きも四メートル以上はあり、両手を横にひろげても余裕があった。なによりも綺麗だった。ただ単に乱暴に掘っていたわけではなさそうだ。穴の中は明るい電球で照らされ、壁に凹凸はなかった。物置用の棚さえ掘って作られている。掘った土は端にまとめられていて、溜まったら手押し車に乗せて外に運び出すようにしているようだ。
 棚の上には土でできた器が並べられていた。数点あったが、どれも欠けていて完全な形のものはなかった。あるものは上だけが欠けていて、あるものは半分に割れていて、あるものは穴が空いてひび割れている。
「これってもしかして、縄文時代とか弥生時代とかの土器じゃないの」
 知識がないので自信がなかったが、以前博物館でみた土器によく似ていると思った。
「知らん。こんなの一文の値打もないだろうが、こんなものが出てきたんだ。お宝だって出てきそうだろ」
 老人にとっては無価値なのだろう。純子にとっても同じだが、インテリアとして家に飾っておいたらお洒落かもしれないと思った。
「いらないのなら一つもらっていいですか」
「好きなのを勝手にもっていきな」
 お礼を言うと、純子は一番大きくて傷のない土器を選んだ。縄目の文様がついていて、一見すると花瓶のような、漬物を入れる甕のような細長い器だった。玄関に飾ったら映えるだろうと、純子は思った。
 土器を持って帰り玄関の靴箱の上に置くと、汚れても良いようにジャージに着替えてから、再び裏庭の穴に向かった。
 鍬やノミや金槌、大小のスコップ、バケツなど穴を掘るために必要な道具は揃っていた。埋まっているお宝に傷をつけたらいけないから丁寧に掘るように言われたので、純子は小さなスコップを握って奥の壁を削っていった。地盤は思ったより固くはなかった。昔からあった洞窟を埋めたものを掘り起こしているような感覚であった。
 老人は手伝う人が現れて嬉しかったのかもしれない。ぶっきらぼうで近寄りがたい雰囲気を醸し出しながらも純子を避けようとせず、聞かないことも自分からいろいろと話してきた。
 老人が話したところによると、老人の父親が亡くなる前に裏庭の崖を掘っていくと埋蔵金が埋められているから、金が必要な時は掘りだすと良いと言われたそうだ。老人の父親はなんでも大げさに話す癖があったそうで、話半分に聞いて穴を掘ることもしなかったそうだが、奥さんが病気になり先進医療を受けさせるためにまとまった金が必要になり、藁にもすがる気持ちで穴を掘りはじめたという。年金暮らしで、子供もいない老夫婦には無理を言えるような相手がいなかったようだ。
 何の病気なのか聞きたかったが、さすがにそこまで踏み込むわけにはいかなかった。埋蔵金にしても具体的にそれが何なのかはっきりしなかったが、家で万延小判が一枚出てきたことから、もしかしたら埋蔵金も本当にあり千両箱でも隠されているのではないかと考ええるようになったそうだ。単純だな、と純子は思ったがそれを老人に言うことはしなかった。
「千両箱が出て来たら少しくらいなら分けてやらないこともないぞ。いいか、少しだけだぞ」
 穴を掘りながら冗談なのか本気なのかわからない感じで言う老人に、純子は愛想笑いを浮かべるだけだった。
 千両箱なんて出るわけがないと思っていたし、穴掘りの手伝いの報酬も期待していなかった。ただ気になることがあれば、放っておけない性質だったし、暇を持て余していたので暇つぶしにはちょうど良かった。
 夕方になって家に戻った純子は玄関に入るとすぐに気がついた。靴箱の上に置いていたはずの土器がなくなっていたのだ。玄関の外を確かめたがなかった。家にあがって廊下やリビングを確認したがない。トイレの前に夫の鞄が置いてある。トイレをノックしても返事はなく、二階に声をかけてみても反応がない。玄関に夫の靴はなかった。夫が土器を持ってどこかに出かけたに違いない。
 飲み屋にでも持っていったのだろうか。飲み屋の親父が土器に興味があるとも思えなかったが、純子には夫の帰りを待つしかなかった。
 夕飯を作り終えたころ夫は手ぶらで帰ってきた。純子が尋ねる前に土器を持って出かけていたことを話しだした。
「飲み屋の常連に市の埋蔵文化財センターの学芸員がいてさ、その人に見てもらったんだよ。穴掘り屋敷から出てきたんだろう。真新しい土がついていたから」
「勝手に持っていったら駄目でしょう。でもよくお隣からもらったってわかったわね」
「だって純子は一度興味をもったら、相手がどんな人だって当たっていくじゃないか。最近は穴掘り屋敷に興味津々だっただろう。きっとすぐに親しくなると思っていたんだ」
「それで土器はどうしちゃったの」
「預けてきた。少し調べてみたいって言うもんだからさ」
 すぐにでも返してくれるような口ぶりで夫が言うので、純子は気楽に考えてしまった。無くて困るようなものではないが、いただいた物を他人にあげるわけにはいかない。そのうち返してもらえばそれで良いかも。
 のんきに構えていたが、翌朝いつものように洗濯物を干していると隣が騒がしかった。急いで隣にいくと玄関の前で老人と作業着を着た男がもめている。お願いします、と丁寧に作業服の男は頭をさげていた。だめだ帰ってくれ、と老人は答えている。
 作業着の男は昨夜夫が言っていた市の埋蔵文化財センターの学芸員のようで、老人に穴のなかを見せてくれるように頼んでいるようだった。
崖は国有地なので勝手に穴をあけてはいけないだとか、文化財は国の宝なので調査させてほしいとか、遺跡を発見したら届け出る義務があるだとか口早に話している。
「ごめんなさい。夫が勝手に土器を渡してしまって……」
 純子が近くに寄って詫びると、老人はツッツと舌打ちをした。
「来な」と言うと、裏庭に向かって歩き出したので純子と学芸員は黙ってついていった。老人は穴を塞いでいた木戸をどけると顎で入るように指図した。学芸員はおどおどとしながら穴のなかに入っていったが、入った途端鶏のような悲鳴をあげた。
「すばらしいです。これはすごい。縄文後期の土器じゃないですか」
 その後もぶつぶつと呟く学芸員の背中を純子と老人は眺めていた。しきりに欠けた器を持ち上げたりひっくり返したりしている。
 純子は再度老人に謝ったが、老人はわざと聞こえないふりをしているように無反応だった。
「さっそく明日から本格的な調査に入りたいと思います。事務担当の者からの手続きに関する説明もさせていただきます。それまでこの穴のなかには立ち入り禁止でお願いします。いいですか、絶対になかの土器は触らないでください」
 学芸員は言いたいことを言い終わると「すごいぞ、すごい発見だぞ」と、呟きながら老人の返事も聞かず走って帰っていった。
「さあ、手伝ってくれ。穴を埋めるぞ」
 学芸員の姿が見えなくなるのを確認すると、老人は急かすように純子の肩をたたいた。
「いいんですか。そんなことしたら」
「いいんだ。俺が掘った穴だ。俺が埋めたって構わないだろう」
 役人に逆らってもろくな事にならないとは思ったが、埋められた穴を見たときの学芸員の反応を想像すると面白くもあった。
 庭の表から掘った土を手押し車に乗せて老人が運んできたのを純子が穴のなかに放り投げていった。単純で疲れる作業であったが、掘ることに比べると格段に早い。夕方にはあらかた埋め終わってしまった。ふたりがぐったりと疲れたのは言うまでもない。
 埋め終えたあと、どういうわけか家に誘われたのであがると、唐木の仏壇があり奥さんの遺影が飾られていた。写真は若い頃撮ったもののようで、純子と瓜二つだった。
「似てるだろう。声も背格好もそっくりなんだ。別に騙していたわけじゃないぞ。穴を掘り始めたころはまだ生きていたからな」
 純子が首を振ると、老人は遺影の下の観音扉を開けてぼろぼろになった汚れた箱を取り出した。
「出てきたんだよ。昨日あんたが帰った後、掘っていたらこいつが」
 蓋を開けるとそこには小判がびっしりと詰まっていた。おもちゃではない。本物だ。
「半分あげるよ。もっていきな。俺は半分もあれば妻の墓が建てられるだろうから。それで十分だ。それでな、よかったらだが、時々ここにお茶でも飲みに来ておくれ」
 純子は小判をもらうことは断ったが、ときどき老人の家に来ることには笑顔で同意した。老人は半分残念そうで半分嬉しそうだった。
 明日になれば学芸員との間で一悶着ありそうだ。だがそれは明日になってみればわかること。明日が待ち遠しかった。
純子は立ち上がると、夕飯のメニューを考えながら帰っていった。今日、夫は何時に帰ってくるだろうか。




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