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輝緋さん

生き方が分からなくなった大学生。 人と会うことはとても好きだが、孤独であることもそれ以上に愛している。

性別 男性
将来の夢 まともに生きる。もしくは作家。
座右の銘 営為こそが大切である。

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休日のない少女

17/05/29 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 輝緋 閲覧数:886

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 久しぶりに日付を確認してみると、どうやら今日は、土曜日のようです。
 外の世界では今頃、多くの人々が、休日の暖かく穏やかな空気に包まれながら、思い思いのひとときを過ごして平日の疲れを癒やしていることでしょうが、私の部屋の中にあるのは、空虚なものばかりです。灰色の時間だけが、ずるずると流れていきます。
 私が学校へ行かなくなってから、どれほどの月日が経ってしまったでしょうか。最後に登校した日のことも、私はとうに忘れてしまった気がします。
 そんな私の日常は、毎日が休日のようなものです。そう聞くと、皆様は羨ましがるでしょう。でもよく考えてみてください。毎日が休日だとすると、私にとって、平日というものはなくなってしまいます。しかしそうすると、全部が休日になってしまい、休日という言葉の意味はなくなってしまいます。平日があるからこそ、休日は存在し得るのです。
 私のように、日々を無為に消費している人間にとって、平日や休日などないのです。それどころか、今日、昨日、明日という言葉も、私にとっては意味を持たないものです。
 そう考えてみると、休日があるということは、たまには休んでいいよ、と言われるくらいには、平日と呼ばれる日々に、何かを頑張っているということです。私のような人間には、そういう人たちが、とても眩しいのです。キラキラしています。本心を言うと、妬ましいほどです。嘘じゃないですよ?あなたがたの多くが嫌っている平日というものは、私のような人間には、ものすごく輝いて見えるのです。
 休日があるということは素敵なことです。まっとうに生きているのだということの証明書のようなものなのです。外の世界の人々が、あれほど休日を尊ぶことには、彼らが思っている以上に、深くて重要な意味があると、私には思われます。
 実のところ、私はこれから死んでしまおうと思っていました。うつ伏せになったら首が絞まるよう、ドアノブに適当な長さのビニール紐の輪っかを引っ掛けて、多めの睡眠薬を服用して、あとはお分かりですね。多分、これで簡単に死ぬことができると思います。
 しかしどうも、輪っかを作るところまでは良かったのですが、その次の行動に、どうしても進むことができません。睡眠薬を飲むことには慣れていますし、実は、多めに飲んでみたこともあります。睡眠薬は、飲んでしまうと本当に気づかない間に眠ってしまいます。だからひとたび飲んでしまえば、とうとう決断しなければなりません。ところが、2錠ほど飲み込んだところで、怖くなってしまいました。死ぬときは苦しいのだろうか。死んだあと、どうなってしまうのか。そういう発想に怯えてしまって、錠剤が手のひらから、ぽろぽろ零れ落ちてしまいました。
 目の前では、蓋の空いた瓶がパソコンのディスプレイの淡い光に照らされています。結局、小心者の私は、なかなか踏ん切りがつけられず、こうして愚にもつかない空想に耽っている次第であります。
 ところで、うだうだとネットの海を徘徊していると、とあるサイトに行き着きました。そこでは月に数回お題が提示され、それに因んだ2000字ほどの短編を書いて投稿し、その中からコンテスト形式で入賞者が選出されるとのことです。入賞作品を読んでみると、なるほど、どれも短いのに、読み応えのあるものばかりです。
 そろそろ皆様もお気づきかもしれませんが、私が休日についてあれこれ考えていたのは、今回のテーマが「休日」とあったからです。なんだかみんな楽しそうなので、私もひとつ、書いてみようかな、なんて思ってしまったのです。
 しかしいざやってみると、創作というものは難しいものですね。たった二千字の小説を書くにしても、まず何を書けばいいのか、というところから躓いてしまいます。とはいえ、私の好き勝手な空想を文字にして、形にしていくという作業は、得も言われぬ面白さがあります。いつぶりに握ったか分からないペンが、嘘のように走っていって、真っ白だった紙が、たくさんのアイデアで埋め尽くされていくのです。そしてそこに描かれているのは、この澱んだ精神の私から生み出されたものとは思えない、色彩豊かでぬくもりに溢れた、優しい世界なのです。
 と、このままの勢いで小説を完成させたいところだったのですが、事を始めるタイミングが非常に悪かったです。目がごろごろして、瞼が重たくなってきました。そう、睡眠薬が効き始めてしまったのです。今日のところは、ここまでのようです。少し心残りがありますが、明日また、続きを書けばいいのです。
 もしかしたら、私の書いた小説を、どこかの誰かが読んでくれるかもしれない。そんなことを考えると、不思議と胸がざわついてきます。
 しかし睡眠薬は、私から容赦なく意識を刈りとってしまいます。重い瞼でゆっくり瞬きしたと思ったら、もう朝になっていました。


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