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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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日記お兄ちゃん

12/11/23 コンテスト(テーマ):【 兄弟姉妹 】 コメント:0件 クナリ 閲覧数:2004

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私が日記お兄ちゃんと出会ったのは、中学一年の時だった。
当時引っ込み思案だった私は、せめて楽しい妄想でもつづろうと思って日記帳を買った。
その夜、私は日記の最初のページに、読み返すのも恥ずかしいメルヘン炸裂な短編の物語を書いた。
内容は、電線の上を歩く能力を唐突に身に付けた私が、鳥と会話するという才能を発揮して、彼らと友達になるというもの。
それをいかにも、今日起こったことの体験談然として書きあげた。人に見られたら、顔から出た火で焼死するな、と思った。

翌朝、ベッドを降り、何の気なしに日記を開いた私は雷に打たれたような衝撃に襲われた。
昨夜の文章の下に、見知らぬ筆跡でこう書かれていた。
『面白い。こんなこと本当にあったらいいね!』
父か母が勝手に読んだのだ、と思った。大変腹が立った。
その日の夜、私は日記の次のページに新たな物語を書いた。
水中で呼吸が出来るようになった私が、乱暴者のシャチと友達になり、人間との仲を取り持つ、というものだった。
夜、私はベッドの中、一睡もせずに日記の入った引き出しをにらみつけていた。しかし誰も私の部屋に来ないまま、朝がやって来た。
目をこすりながら、一晩閉じられたままだった日記を開く。
私は今度は、マグマに突き落とされたような衝撃を受けた。
『君には、創作の才能があると思う!』
震える手で、私は
『あなたは誰ですか?』
と書いてから登校した。
その日は学校から帰って来て、真っ先に日記を開いた。
『僕は日記お兄ちゃん!この日記の中にだけ存在するお兄さんだ。よろしく!』

それから、私の描いた物語や日記に、日記お兄ちゃんが返信を書き入れる、という奇妙な習慣が始まった。日記といってもほとんどが日記お兄ちゃんとの会話で、時には相談などもした。
『いじめられかけているの。どうしたらいいと思う?』
『今のうちに、リーダー的な存在の子と仲良くなってしまいな!
媚びるんじゃないぞ、対等な関係を築くことに注意しろ!』
勇気を持って試してみると、案外うまくいった。
私は更に突っ込んだ相談をしてみた。
『両親が離婚しそうなの、どうしよう』
お母さんには私を産む前に、流産した子供がいたらしい。
その子を無事に産めなかった原因を今でもなすりつけ合って、両親はよくもめていた。
『大人ってのは、子供は自分で口にしたこと以外は何も考えていないと思っているのさ!
思った事を口に出してごらん、きっと今までより君を見てくれるようになる!
そうしたら、何かが変わるさ!』
私はまず母に、そして父に、これからも家族でいたいことを伝えた。言いながらつい、涙がこぼれた。
両親は驚いていたけど、私を抱きしめて、もう一度よく考えてみると言ってくれた。
日記お兄ちゃんはお礼を書きこむ私に、『友達や家族のことを楽しそうに書いてくれるようになってうれしい!』と返事をくれた。
日記お兄ちゃんは、私にとってはすっかり家族だった。
ある日、『私にとっては、自分ちは四人家族だよ』と書いたら、『今更だな、当然のことだぜ!』と返って来た。そのページには、うっすらとピンク色のインク染みのようなものが出来た。
もしや赤面したのかな、と思った。

別れの日は唐突に訪れた。
日記のページが、あと一枚しかないのだ。裏表で、二回分だ。
私は貴重な一回を使って、
『この日記が終わってしまったら、日記お兄ちゃんはどうなるの?』
と書いた。
『多分それまでだ。こうして話すことは出来なくなる!』
私は絶望的な気持ちで、 最後に何と書こうかを考えた。
さよならを言うのは、嫌だった。
子供の私には、両親のこともあり、家族という単位の結びつきへの憧れが強くあったので、その気持ちを正直に書くことにした。
『日記は終わっても、家族だからずっと一緒のはずでしょ。これからも、そばにいてね』
それ以上物々しい言葉を続けるのは、別れを告げるのと同じだと思った。
翌朝起きると、返事が書いてあった。
『もちろんだ。ずっと一緒さ!』
それから、その日記に新しい文字が書き加えられることはなかった。
寂しいとは思う。でも、その寂しさは絶望的なものではなかった。

それから何年かが過ぎた。
高校生になると、中学の頃とは違う混乱や苦痛と出会い、一人で泣いたこともあった。
こんな思いを、大人になっても続けていくのかと思うとぞっとした。
けれど、私の気が滅入りっ放しになったり、自暴自棄になることはなかった。
いつだって必ず私の味方をしてくれると確信できる、大切な肉親が、いつでも私のそばにいてくれているということが解っていたから。

表紙の擦り切れかけた日記は今でも、私の机の引き出しで、きっと呼吸をしている。
だから、いつかまた、あなたの言葉を聞きたい。

日記を書く習慣は、今でも続いている。



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