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宮下 倖さん

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セイギ女子の明日

17/05/22 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:642

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「みんなをいじめたらあたしが許さないから!」
 腰に両手をあててぐっと胸を反らすと、目の前にかたまっていた男子たちがおもしろくなさそうに頬を膨らませた。睨みつけるとぶつぶつ言いながらランドセルを背負って教室を出て行く。
「杏子ありがとう! やっぱり頼りになる〜」
「正義のヒーローみたい!」
 周りの女子がわっと沸いた。あたしの肩よりも小さな女の子たちが一心に見上げてくる。
 あたしは背も高くて声も大きい。だから小さくてかわいい女子を、意地悪でがさつな男子から守るのがあたしの使命で、それが正義だと思っている。
 しばらくきゃあきゃあと騒いでいた女子たちが散っていくと後ろから名前を呼ばれた。
 弘樹だ。女子並みに声が高いからすぐわかる。体も男子の中ではいちばん小柄だ。
「杏子、やりすぎんなよ」
「なにが?」
「なにがっておまえ……」
 首だけで振り向いたあたしを弘樹が心配そうに見上げてくる。
 気遣われることなんて何もない。あたしは大きい、強い。だから小さな女子を守る。
 それがあたしの正義なんだから。


「つき合わないって言ってるんだからもう諦めなよ」
 クラスの女子がすっぽりとあたしの背中に隠れている。目の前には口をへの字にした男子があたしを睨みつけていた。
「なんでおまえが口挟むんだよ!」
「この子の気もちを代弁してんのよ。しつこいと嫌われるよ」
 嫌われるの一言が効いたのか、男子は悔しそうに唇を噛んで放課後の教室から出て行った。
 小学生の頃はいじめるしか能がなかったくせに中学生になったら自分勝手な「好き」を押しつけてくる。今はそういうのからも女子を守らなくちゃいけない。
「ありがとう杏子。ひとりじゃ言えなくて……」
「いいよ。気にしないで」
「杏子はかっこいいな。きっぱり言いたいこと言えるし、背も高くて……杏子が男の子だったらよかったのに」
 そうだね。あたし、男だったらよかったよね。女らしいところなんてひとつもないし。
 曖昧に笑って彼女を見送る。教室にはあたしひとりになった。開いていた窓から風が吹き込んできて短い襟足を撫でていく。昨日、少し切りすぎたかもしれない。
「杏子」
 足音と共に聞こえたのは弘樹の声だ。声変わり真っ最中で少し掠れている。
「あんまりやりすぎんなよ。おまえさ……」
「放っといて。弘樹には関係ないし」
 あたしは弘樹を遮って背を向けた。男子があたしを陰でどう言ってるかなんて知ってる。
 女とは思われていないし鬱陶しがられていることもわかる。
 だけど、あたしにはあたしの正義がある。


「ぶっちゃけウザいよね」
「そうそう。もう子どもじゃないんだからさ。杏子のヒーロー気取りはもうたくさん」
 聞きたくないことほど耳に飛び込んでくるのはどうしてだろう。
 帰り際、女子たちのこんな会話を聞くことになるなんて思わなかった。
 女の子らしくないあたしを認めてもらうためには、自分より小さくてかわいい存在を守るのがいちばんだと思った。女の子扱いされなくたって、正義のヒーローでいられれば充分だった。
 あたしの正義は完璧で、高校でもそれでいいんだと思ってた。だけど……。
 駅前を俯きがちに歩く。すれ違いざまぶつかった肩に顔を上げると、他校の制服を着た男子数人がにやにやとあたしを見ていた。
「いってえ! 折れちゃったかも! ねえ、お詫びしてよ」
「一緒に遊んでくれたらお詫びになるよ〜」
「ちょ……っ」
 腕を掴まれる。とっさに振りほどこうと身を捩ったけれどびくともしない。ざわっと鳥肌が立った。
「うっわ、かわいい〜。こわいの? ん?」
 腕を強く引かれて思わず目をつぶる。そこに低い声が降ってきた。
「悪いね。そいつ返してもらえる? 俺の連れなんで」
 弘樹の、声……?
「なんだよ、男連れかよ〜」
 あたしの腕は呆気なく放され、他校生たちは興醒めしたように歩き去っていった。
「大丈夫か杏子」
「……べつに助けてくれなくたってあたしひとりで何とかできたし」
 ほっとした反動で口を衝いた強がりに弘樹が噛みついた。
「あのな、おまえは女の子なんだよ! 守ってもらう側だろ?」
 とっさに弘樹を見た。いや、見上げた。
 あたしより小さかった弘樹はもういない。背も大きくて声も低い、男の人だ。
「だって……守るのがあたしの正義だもん。ずっとそうだったもん。弘樹になんてわかんないよ」
「わかるよ。俺も好きな女を守るのが自分の正義だから」
「へえ……弘樹って好きな子いるんだ」
「うわ、この流れでナニその鈍感!」
 意味がわからずあたしは首を傾げる。弘樹が手をやわらかく掴んで引いた。
「まあいいや。明日な明日!」
 夕暮れの街、弘樹の長い影に短い自分の影がくっつくのを、あたしは「明日って何だろう」と思いながらぼんやりと眺めていた。


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