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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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勇者の資格

17/05/21 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:647

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 ーー世界は常に雨雲で覆われてるかの如く、影に満ちていた。

 だけどそんな闇の世界とも今日でおさらばだ。
 あと少しで僕たちは大魔王をーー。

「村のなかで戦うのはやめてくれ!! 今年は稲が豊作だっていうのに、これでは全部焼き払われてしまう」
 先ほどまで僕たちは、大魔王の城のなかで戦っていた。
 魔法使いの放った炎弾が大魔王に直撃し、ようやく奴を倒したかと思いきや。大魔王はローブを脱ぎ捨てると、飛行形態へと変身し、城を飛び出した。

 そして、奴を追い詰めた先がこの村だったというわけでーー。

「せっかく赤ん坊が泣き止んだのに、これじゃあまた起きちゃうじゃない」
「これから友達と遊ぶんで、そこでゴチャゴチャされると迷惑っす」
「大魔王、ぱねぇ。全裸じゃん」

 奴を倒せばこの世界に平穏をもたらすことができるというのに、皆が口にするのは……予想外のブーイング。

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。もう少々お待ちを!!」
 勇者は常に謙虚で、民のことを一番に考えなくてはならない。それが僕の目指す勇者であり、僕の信じる正義だ。

「さっきから大魔王の奴、ダメージ与えてもめっちゃ回復してるじゃん。絶対まだまだかかるやつじゃん!」
 一人の若き女性が大魔王を指差し、半笑いで言った。
「おい! こっちは必死に……」
 戦士が女性に詰め寄ろうとするのを、僕は制止する。
「どうしても耐久戦になってしまうものなんです。もう少しの辛抱を」
 盗賊がすかさず紳士的な対応を見せた。そうだ、怒る相手を間違ってはいけない。
「ていうか、勇者のパーティーに“泥棒”がいるってどうなんですか?」
 今度は若い男性が、ぽつり洩らした。
「いえ、俺はモンスターからゴールドやアイテムを奪うのであって、決して……」
「はっ? どうだか。私の下着無くなったの、あんたの仕業なんじゃないの!?」
 盗賊の反論に反応した魔法使いが悪態をつく。
「何だと! 誰がお前の下着なんか盗むかよ!!」
「そういえば、おいらのパンツも1枚無くなってたことあったな」
 おいおい、戦士よ。こんな時に冗談言うのはよしてくれ。

「勇者よ! くたばるがよい!!」
 まずい、ラスボス戦なのを忘れるところだった。
 大魔王の右手から強烈な閃光弾が放たれる。
 僕は咄嗟に盾を構え、その強力な技から身を守ったーーと思いきや、その跳ね返した閃光弾があらぬ方向へと飛んでいき、住居の屋根を吹き飛ばした。

「村長さんの家がっ!!」
「すみません、すみません!」
 どうしてこうなったんだ。そもそも何で僕たちは世界平和のために血と汗と涙を流しながら戦っているというのに、好き放題言われなきゃならないのだ。

「おい、勇者! あとで弁償だかんな」
「魔法使いちゃーん! こっちに手、振ってー!!」
「てか、まだ終わらんのー?」

 ーー僕はいよいよ限界だった。
「こっちが黙ってりゃ好き放題言いやがって!! こっちは命かけて戦ってんだっつーの!! てか、マジで何なの、この世界。何回話しかけても同じことしか言わない民がいたり、先を急ぎたいのに、ここは通さねぇぜってドヤ顔で邪魔してくる門番がいたり、いくら家のなかの壺割って引き出し開けて金やアイテム獲っても怒んなかったり。もうわけわかんねーわ!!」
 とうとう僕の堪忍袋の緒が切れた。静まり返る群衆。さすがに言い過ぎたかなと、僕はすぐに後悔した。

 すると一人の民が口を開く。
「あなた勇者の資格無いですね」
「また駄目かぁ」
「んじゃ、やっちゃいますか」
 それぞれの民が、鍬や鎌、スコップを持ち出し、大魔王を取り囲む。

「ちょっと、あなたたち何を!」
 僕の問いは、すぐに大魔王の悲鳴に掻き消される。彼らは大魔王を農機具を使い、えげつないまでに袋叩きにし、あっさりぶっ倒した。

「冒険の最初に、王様に言われませんでしたか? 勇者というものは、民のためにその身を、命を投げ出せる者にしかなれない。全身を駆け巡る血流が、正義の信念を帯びている者しか務まらないのだ、と」
「えぇ、言われましたとも! だから僕はこうして、今までどんな理不尽な状況でも口答えせずにーー」
 僕は必死で反論するも、もう手遅れのようだった。
「最後の最後で爆発しちゃったんですね。いやー、試したわけじゃないんですよ?」
「これでは勇者失格ですね」
「残念残念」
 民たちは言いたいことだけ言ってのけると、各々自分の家へと戻って行った。

「嘘だろ……」僕は今にも零れ落ちそうな涙を乾かすため、空へと顔を向けた。何だか周囲を覆う影がより一層濃くなっている気がした。「え?」

 僕たちを頭上から押し潰さんとする巨大な石の塊が降ってくるけど、僕たちはその「GAME OVER」と書かれた文字を見ることができない。


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