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つつい つつさん

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選ばれた人

17/05/20 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:902

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 ハイキングコースを歩き始めて一時間半くらい経つ。少し日差しはきつかったが、時折吹く風が心地良かった。私は近くの小学校に通う恵麻ちゃんと美月ちゃんと話しながら歩いた。恵麻ちゃんは最近ファッションに夢中らしく、よれよれのジャージを着た私を見て「涼香ちゃん、いくらハイキングって言っても、もうちょっとカワイイの着ないと駄目だよ」と呆れられた。そんな恵麻ちゃんは動きやすいけど可愛らしいファッションで、とてもキュートだった。私は二三才だけど、ほとんど洋服や化粧に興味が無かった。でも、子供達の相手をするなら、ちょっとは勉強しないといけないのかもしれないって思うようになった。子供達だって一緒に過ごすなら、ダサいお姉さんより素敵なお姉さんの方がいいだろうなって反省した。
 私は短大に入学した頃から学童保育に通う子供や障がいを持つ子供と遊ぶボランティアに参加していた。短大の頃は毎週のように参加していたけれど、保育所で働くようになってからいろいろと忙しくなり月に一度くらいしか顔を出せなくなっていた。 
 子供達を学童保育所まで無事送り届け、ほっと一息ついているとベテランボランティアの久保さんから声を掛けられた。
「涼香ちゃん、来週は忙しいんだっけ」
「来週は保育所の行事があるんで」と、軽く頭を下げた。
「サッカーやる予定なんだけど、最近三好君来てくれなくてねぇ」と、久保さんは心配そうな顔で呟いた。
 三好さんは、私より五つ上の男性で、スポーツ万能で優しく子供達にも人気者で、このボランティアの中心的メンバーだった。介護の仕事をしながらも、時間を見つけては夜勤明けでもボランティアに参加してくれていた。だけど、ここ一ヶ月ほど、ほとんど姿を見せていないらしい。
「涼香ちゃん、一度会ってきてくれない。若い人同士の方が話せることもあるかもしれないし」
 私はそう言われて断ることも出来ず、とにかく一度三好さんと会うことになった。
 仕事帰りに三好さんと駅の傍の喫茶店で待ち合わせた。本を読みながら一時間くらい待っていると、三好さんが現れた。
「ごめん、ごめん。なかなか仕事が終わらなくて」
 三ヶ月くらいぶりに会う三好さんは、すごく疲れた顔をしていて、体調も良くないみたいだった。三好さんはすぐにコーヒーを頼むと、申し訳なさそうに笑った。
「どうせ、久保さんあたりに頼まれたんでしょ」
 私は、正直に「はい」と答えた。それから二時間くらい話し、三好さんから引き出した答えは私が想像していたものとは全く違った。たぶん恋人が出来たとか、仕事が忙しくて時間が取れなくなったとか、そんな理由だと思っていたけど、三好さんの悩みは、私なんかが簡単に答えを出せる問題ではなかった。
 三好さんは数年前にわいせつ目的で女児を誘拐し殺害した事件の裁判員として裁判に参加したそうだ。そして、その裁判を通して三好さんが出した結論は死刑だったそうだ。三好さんは今でもその判断が間違っていたと思わないと、つらそうに話してくれた。
「私も間違っていると思えません」と擁護したけど、ただ悲しそうに三好さんは「ううん、間違っていたんだ」と言った。それは、確かにそうだった。その事件は最近高裁で死刑判決が破棄されて無期懲役に減刑され、ニュースにもなり話題となっていた。三好さんはうつむき加減で頭をかきむしりながら、「だから僕は、客観的に見ればその程度のことで人に死を宣告するひどい人間ってことだよ」と、呻くように呟くと、そのまま黙ってしまった。「誰もそんなこと思いません」と、私は三好さんに何回も訴えたけど、首を振るばかりだった。
 三好さんには信じられなかったのだろう。納得出来なかったのだろう。法律を守り、人をいたわり、真面目に地道に生きてきたものが悩み苦しんだ上で出した答えを、それを守るべき裁判所が違うと判断したのだ。裁判所や専門家は裁判員裁判はどう判断したかだけでなく、他にもたくさんの意義があるんだと言うだろう。だけど、突きつけられた現実は、そういうことだった。
「そんな人間にボランティアする資格なんて無いよ」と去っていった三好さんの苦しそうな顔と、子供達とサッカーや野球をして一緒になってはしゃいでいた三好さんの無邪気な笑顔が同時によぎって、胸が苦しくなった。痛くて、痛くて、心臓が押し潰されそうだった。
 明日、久保さんや他のボランティアスタッフとも話し合うことになるだろう。みんな三好さんの気持ちはわかってくれると思う。でも、私達はどうやって三好さんに「三好さんの判断は正しかった」と証明したらいいのだろう。その答えがすぐに見つかるとは思えなかった。だって答えはもう既に出ているのだから。


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