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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

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娘の誕生日

17/05/16 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:3件 笹岡 拓也 閲覧数:1256

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金曜日の夕方、私は部長に話しかけられる。
「明日急だけどこの仕事やってもらえないかね?」
私は明日大事な用があったが、断ることができず休日出勤することになった。
家に帰るといつも通り妻が出迎えてくれるが、少しソワソワしている様子が伺える。
「あなた?明日ちゃんと空けてるわよね?」
私はしぶしぶ首を横に振り
「申し訳ない。急に仕事が入ったんだ」
と伝える。すると妻は呆れた顔しながら
「翔子の誕生日なのよ?みんなで出かけようって話だったじゃない」
と言ってきたが、こればかりは仕方ない。私は休日出勤になってしまったのだ。
「ちゃんと翔子に言っといてよね」
妻の淡々とした言い方に事の重大さを少し感じ始める。娘の10歳の誕生日は一生に一度しかやって来ない。
私は娘に明日のことを伝えると
「分かった」
と一言で返されてしまう。妻と同じく呆れていたのか?それとも10歳になった娘は父に祝われることに興味がなくなったのか?それは分からなかった。それでも文句ひとつ言わない娘に私は少しホッとした気持ちになった。
次の日、私は予定通り休日にも関わらず会社に向かった。部長から託された仕事は思っていた以上に厄介な内容で定時に帰れるかも分からないほどだった。
仕事をしていると昨日の娘の表情がちらつく。そういえばあんな表情をする娘を見たのは初めてかもしれない。生まれた時からずっと見てきたつもりだったが、もう私の知らない一面も持つようになったんだな。
娘が産声を上げてからあっと言う間に10年が経ったんだ。初めて立った日、初めて喋った日、初めて歯が生えた時のことや七五三に運動会、お遊戯会...と全ての思い出がまだ昨日のことのようだった。
娘のことを考えていたこともあって、定時が過ぎても仕事は残っていた。もう娘に「誕生日おめでとう」は伝えられなそうだ。
結局私は終電に乗っていた。せっかくの休日、しかも娘の誕生日が消え去った。電車の窓に映った私の顔は疲れきっていて見れたものではなかった。
「ただいま」
私が家に着いた時、もう家に灯りは点いていなかった。妻も娘も寝てしまったようだ。時計の針を見るととっくに娘の誕生日は過ぎ去っていた。
一人虚しくリビングで晩御飯の支度をしようとした時、テーブルには一通の手紙が置いてあった。その手紙はしっかり封筒に入っていて、宛先のところには【パパへ】と書かれていた。そして差出人のところには【翔子より】と書かれていた。

パパへ
お仕事お疲れ様でした。
本当は今日一緒に過ごせたら嬉しかったけど、お仕事だから仕方ないね!
私は今日で10歳になりました。毎日楽しく過ごすことが出来てるのもパパやママのおかげだと思ってるよ。
そして私が10歳になったということは、パパもパパ10周年だね!
本当におめでとう!パパはいつも私のことを考えてくれてるし、いけないことはちゃんと叱ってくれる。私が困ってるとすぐに助けてくれる優しいパパ。本当に私の自慢のパパです。
これからもずっとよろしくね!
翔子より

私は娘から貰った手紙を読み終えた時、大粒の涙がたくさん零れた。私はこの幸せを噛みしめるように何度も手紙を読み返した。
次の日、妻と娘が赤く腫れ上がった私の目を見てケラケラと笑うとも知らずに。


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このストーリーに関するコメント

17/05/19 のりのりこ

よくある家族の状況を書いている中で自然と親子の愛情が表現されていて良かった。素敵な物語でした。

17/06/22 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
パパを気づかい、パパを祝う……素晴らしい娘さんですね。見習いたくとも、私にはもうおりませんが、心の片隅でずっと感謝を忘れないようにしなくては……と強く思いました。
素敵な作品、有り難う御座いました。

17/07/02 光石七

拝読しました。
親子の情愛を素直に書かれていて、好感が持てました。
素敵な娘さん、素敵な家族ですね。
心がほっこりするお話をありがとうございます!

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