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indi子さん

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休日出勤

17/05/15 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 indi子 閲覧数:919

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 電車の中に射し込む朝の光はさんさんと輝いていて、子どもの頃によく描いたニッコリ笑う太陽を思い出していた。
雲ひとつない青い空、今日は絶好の行楽日和だ。
 平日ならすし詰め状態の車内も、今日は片手で数えられる程度の乗客しかいない。いつもなら座ることすらできないのに、今日はスカスカのベンチシートにゆったりと腰をかけ、 隣の座席にビジネスバッグを置いてもまだ余裕があった。くたびれたバッグは酔っ払いのように俺にもたれかかってくる。
 ズズーッと目が覚めたときのような怠さを彷彿とさせる電車は、まるで這うように駅のホームに滑り込んで行った。次の停車駅は大きな乗り換え駅で、いつもならばこの近郊に向かう電車を待つホームには長蛇の列ができている。しかし、今日ばかりは地方に向かう電車のホームにその位置をずらしていた。パラパラと乗り込んでくる乗客の中には、憂鬱な顔のサラリーマンも、参考書を流し読みしている学生もいない。

なぜなら、今日はホリデーだからだ。

 斜め向かいには、これからハイキングに向かうのであろうおじさんとおばさんが座る。まるでガイドブックの表紙から飛び出してきたような赤いチェックのシャツ、歩きやすそうな靴。黒いリュックサックを背中から降ろし、まるで孫を抱っこするかのように膝の上に乗せた。年齢は、ちょうど上司と同じくらいだ。
 上司。その言葉のせいで、昨日の出来事を思い出してしまう。ひと晩過ぎてもなお、はらわたは煮えくり返り、苛立ちは増々募っていく。唇を強く噛むと、鉄の味が口の中に広がっていく。ほんの少しだけ、ふつふつと沸いた苛立ちが和らいでいったような気がした。
 電車は再び、ゆっくりと動き始める。
 電車がスピードに乗り始めた頃から、斜め向かいの二人の話し声はどんどん大きくなっていく。

 月曜日からの一週間、机の上に積まれていたいくつもの書類の山を片づけ、ようやっと終わりが見えた金曜日。大きく伸びをして休日に胸を膨らませた金曜日、刻々と終業時間が近づき、最後の処理に取り掛かった時、バサバサッと紙が重たそうにはためく音が、すぐ近くで聞こえてきた。

「これ、なるべく早くね」
「はい」

 有無を言わせぬその一言は、世界の終末を告げるラッパの音みたいに、リズムよく怒りと共にやって来た。もちろん、その仕事は終業時間までに終わるはずもなかった。
 少しでも早く終わらせて、次の休日こそゆっくり楽しむために、大変不本意だが、休みであるはずの土曜日に、本日出勤することを決めた。休日にも関わらず平日の時の様に朝早い電車に乗って会社に向かう。
 斜め前に座るジジィとババァはこの休日に浮かれている様子で、甲高い大きな声で話を続ける。やれ膝が痛いのだの、やれ近くの物が見えづらくなっただの。
 確かに、近くの物は全く見えていないのだろう。すぐ目の前に、こんなに苛立った様子で貧乏ゆすりをしている会社員がいることに気が付かないのだから。
 耳にイヤホンをさしこみ、ミュージックプレーヤーの音量を、鼓膜が耐え切れる大きさまで上げる。ジンジンと響くドラムの音が痛いが、楽しげで耳障りな喋り方を聞いているよりはずっとマシだった。
 会社は、こんな電車の中と打って変わって静かな物だろう。パソコンとプリンターのファンの音だけが響くフロアを想像すると、少し寒気がした。
 そうだ、どうせ一人しかいないのだから、いっそ音楽かラジオでも流しながらしごとでもしてみようか。折角の休日なのだから、少しでも楽しい日にしたってバチは当たらないだろう。
 電車は、ズズズッと気だるい体を引きずるようにゆっくりブレーキをかけて、目的の駅を停まる。立ち上がりドアに向かう。
 降りる人も乗る人も、まばらだ。いつも見かける淡い色のフレアスカートの似合う女の子は今日はいない。彼女も、きっと休みなのだろう、こんな天気のいい日は彼氏とデートでもするのだろうか。
 俺は肩を落としながら、会社に向かった。


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