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熊野ゆやさん

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満足するまで

17/05/14 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 熊野ゆや 閲覧数:819

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 土曜日のキャンパスは猫が集会をしてるくらい閑散としていた。図書館は開いているし、食堂も営業していた。午前中なら講義もある。それなのに、社会に出る前の学生たちが居場所を求めて校内施設に入り浸る、なんていう雰囲気はなかった。都心まで電車一本で出られる場所でありながら、駅からバスで自然豊かな地域へ向かった場所にキャンパスはあった。わざわざ誰も土曜日まで大学へ通おうと思わなかった。
 当時は忙しかったと記憶している。主に単位取得のため。打ち込むものを探していたけれど、これといって良い出会いもなかったので、仕方なく単位取得を目標としていたのだろう。
 午前中にしか講義のない土曜日まで大学へ通っていた理由は思い出せない。猫が集会していたのは覚えている。当時のことを思い出そうとしても、登場人物の名前さえ思い出せない。
 毎日顔を合わせる女の子がいて、ある日に声をかけて、電話番号を聞いて、電話をかけた。でもその女の子は土曜日の登場人物ではなかったから、猫が集会をしている話をしたら「そんなわけない」と笑っていた。
 何か大切なことを忘れている気がする。猫のように集まる仲間がいたような。そんなわけないと笑われる、不思議な活動をしていたような。

 私に付与されたバッジは伝書鳩を象ったもので、彼に付与されたバッジは矢文を象ったもの。通信関連の職種には配属先が二カ所あって、私は彼とは別の部署で働くことになった。
 バッジには通信機能があって、それは携帯電話が普及する前からの伝統で、今では必要もないはずなのに、廃止されずに残っていた。通信機能は同じバッジでしか使えない。私と彼は専ら携帯電話で通信していた。
 通信に関して専門分野は分かれていて、伝書鳩は友好的な通信を得意とし、矢文は攻撃的な通信を得意とした。
 専門家たちにしてみれば携帯電話による通信など筒抜けの会話であることが判明した。互いに手の内を見せ合わぬよう、バッジが存在していることも。
 私と彼は通信しなくなった。規則違反ではなかったものの、互いに知らせてはいけない情報を持っていた。伝書鳩と矢文は相反する存在だった。
 
 矢文や伝書鳩より上位の「猫」と呼ばれる存在がある。彼らは様々な場所で見たもの聞いたものから情報を集めた。どんな場所でも違和感なく潜り込めた。
 表向きの猫は組織に所属しているわけではなく、個人が行動していることになっている。それゆえ彼らは捕らえられ所属を問われても白状しない。絶対に情報を奪われないよう訓練されている。
 仕事柄、猫は伝書鳩や矢文との関わりも深く、優秀な者が選抜されて猫に所属するとの噂もあるが定かではない。どの程度の人員で構成され、活動規模がどの程度かも分からない。
 
 彼は次の仕事が終わったら長い休暇を取るとのこと。猫の噂話で聞いた。
 既に私の右肩には伝書鳩を象った刺青が刻まれていた。それを消す方法も知っていた。
 どうして教えてくれるの、と聞けば猫は答える。仲間だからだよ。犬に比べて無表情とされる我々の表情だけで多くの情報を読み取れる。
 猫のネットワークは善意で成り立ってるんだ。恩を着せておけば、協力関係を築きやすい。
 君たちは好きなようにすればいい。もう二度と戻りたくなければ、そうしなさい。
 矢文や伝書鳩の連中は考え方が古くて困っていてね、君たちを逃がすことで、奴らにも良い薬になるさ。
 やけに親切な猫を信用していたわけではない。うまい話には裏があるもの。何を企んでいるのか質問した。
 どうせ誤魔化してもお見通しだろうし、計画が狂うこともないから伝えよう。我々は君たちが上手く行かないと考えている。君は猫の仕事をやっていく才能がある。でも恋愛の才能はなかった。そうは言っても反発するだろう。だから君の好きなようにさせようと思っている。気が済むまで仕事から離れて、気が済んだら連絡をしなさい。いつでも君を受け入れる準備は整えている。
 そんな不機嫌そうにしないでくれ。君たちが上手く行ったらそれはそれで嬉しいと思うし、むしろ我々の計画を狂わせてほしいとさえ思う。気ままに暮らしていると思われがちな我々も、予想通りにしかならない現実に退屈しているんだ。
 どちらにしても君には期待している。よろしく頼むよ。
 
 長い休暇を終えた私は猫の仕事を始めた。
 ある男を始末するよう頼まれた。科学技術の発展により記憶を消すだけの方法が取られた。猫のくせに人道的だった。男は私を見て動揺した。同様に私も男に関する記憶を消されていたのだろう。
 消された記憶のことを考えても悲しくはなかった。記憶は消えても清々しかった。
 目覚めると内容を忘れていて、気分の良さだけが残っている夢のような。
 そんな夢が見れるように、次の休日はどう過ごそうか考えている。


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