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犬飼根古太さん

よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 どれだけ掛かっても作家になることです。
座右の銘 井の中の蛙 大海を知らず されど、空の深さを知る

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青い休日

17/05/13 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:2件 犬飼根古太 閲覧数:847

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 明日は祝日。平日という荒波だらけの大海原に、ぷかりと浮かんで見える緑の小島。そこにはありとあらゆる果実や豊富な魚介類などがたくさん手に入る夢のような島。
 寝て食べるもよし。ほんとに寝てしまうもよし。寝るの自由、座るの自由、歩くのだって走るのだって、なんだったら跳びはねるのだって自由だ。これこそ休日。まさに祝日。神に祝福されし日とでも呼びたくなる素晴らしき日。
 よし! ここは自堕落に、自由に、寝たいだけ寝て、食いたいだけ食って――……。

 いやいや待て待て自分よ。せっかくの祝日。祝日は年にたった十五回しかない奇跡。そう、まさに奇跡だ! そのうえ土曜と祝日が重なるという忌々しくも呪わしい事態が起きれば、振替休日などという洒落た現象は起きずに、ただ浪費するのみ。そう。仕事や学校などという乾ききった砂漠に存在するオアシスのごとき芳醇かつ甘美な休みが一つなくなってしまうのだ。
 広大な砂漠からオアシスが一つ消滅すれば、人生という名の世界を彷徨う旅人である私にとって重大な危機である。だからこそ砂漠を旅する旅人のように、休日には旅の垢を落とし、衣服の埃を払い、体をしっかりと清め、命を洗濯しなくてはならないのだ。
 よし! ならば明日という祝日をしっかりと過ごすために、きちんとしたタイムテーブルを作成し――……。

 いやいや待て待てそこな仕事人間よ! お前は馬鹿か! 時間割り通りに動くなど、学校か! 職場か! 午前十時と午後三時に十分休憩を挟む仕事場か! そんな仕事脳では、この降って湧いたような神の奇跡のような祝日を楽しむことなどゆめゆめ出来ぬと知れ! おぉ休日の神よ! お許し下さい! このような不信人な者にも是非とも素晴らしき休日を!
 よし! 良い休日を少しでも過ごせるように、これから神社にお参りに行こう。お百度参りだ。

 いやいや待て待ておかしな思考に陥っている阿呆男よ! そんな風に己が欲望だけをひたすら追い求めるから間違いを犯すのだ。もしオアシスに水があるというのなら、この世間という砂漠を渡る家族達と分け合うべきだ。荒波に浮かぶ緑の孤島が小さいというのであれば、自分一人が大の字になって場所を取るのではなく、互いにスペースを分け合うべきなのだ。
 よし! 明日は家族サービスの日にするぞ! ――いや、だが、しかし……――

     ■

「ねぇ、おかーさん」
「ん? なぁに?」
「どうして、パパっていっつも休日前になると難しい顔をしてるの? お仕事のこととかで悩んでるのかな?」
「たぶんそうじゃないかしら? ほら、パパって仕事人間でしょ? 同僚さん達が見えた時もそう言ってたわ。いつもきっちりタイムテーブルを作って行動する。五分だって無駄にしないって」
「へぇー。すごいね」
「お仕事をする時もよく考えて行動するんですって。『なぜ?』『どうして?』って何度も深く掘り下げていくことによって上達するんだ、ってくどいくらい言われたって言ってたわね」
「ところで、マナちゃんは平日と休日とどっちがいい?」
「どっちでもいっしょかなー? どっちでもママとパパに会えるし。……あ、けど休日は会えない友達が多いから平日の方がいいかなー?」
「そういえば去年の夏休みも、学校がなくて、大勢の友達と遊べないから暇だって言ってたもんね」
「うん! やっぱり平日の方が好きかな! あ、でもね――」
「ん?」
「パパがいてくれるから、休日の方がもっと好きかもー!」
「それを聞いたらパパも喜ぶわ」
「えへへー、そうかなー! じゃあ、言ってくるー!」

     ■

 私は疲労困憊していた。
 私のような愚か者には、豊かで幸福で健康で文化的な最低限度の休日を営む権利さえないのだ。そう、私は疲れ切った頭で悟った……。
 まず始めに己の欲望にのみひた走り、家族さえ顧みなかった鬼畜野郎には相応しい。
 所詮私が仕事をきっちりこなすのは、臆病な自尊心と尊大な羞恥心からなのだ。気づけば虎という畜生に落ちてしまっていた。
 いっそ休日も、仕事に精を出すように、家族サービスに誠心誠意励むことができれば少しはこの気持ちも和らぐのかもしれないが、そこまでの度量もない。
 ああ、ここは砂漠だ……。
 どこにオアシスがあるのだ…………。

     ■

「ねぇ、パパ」
「…………」
「パパ? ねぇ、ってばー」
「…………」

     ■

 鈴の転がるような天使のような声が聞こえる。
 いや。幻聴だろう。
 私のような不埒者のとんとんちきに、休日の神の使いともいえる、天使の声が聞こえるわけがないのだ。
 そう、自らをたしなめてもその声は止まない。むしろ大きくなるばかりだ。
 そして振り返った先には――……。

     ■

 私の休日は今、始まったのだ――。


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このストーリーに関するコメント

17/05/15 文月めぐ

はじめまして。文月めぐと申します。
物語拝読いたしました。
確かに休日って、何をするか迷うときがありますよね。
悩んでいる「パパ」の様子がテンポよく書かれていて面白かったです。

17/05/20 犬飼根古太

文月めぐさん、はじめまして。
休日に何をするか休日に悩むのは休日らしい気もします(笑)
テンポ良くと言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

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