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糸井翼さん

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鬼の話

17/05/12 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 糸井翼 閲覧数:533

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ひっそりとした森の奥に、鬼たちの小さな学校があった。彼らの歴史の授業が行われている。
「鬼は正しい生き物でした。」
先生は悲しげな顔で言った。たった二人しかいない生徒のほうをじっと見た。
「鬼はその強靭な体と偉大な知識で自然と共存共栄し、この世界の形を作り上げた。山も海も、我々の偉大な先祖が作り上げたのです。」
「知ってます。先生」
生徒の一人は声を上げた。
「鬼はすごい。知ってますよ。」
もう一人も叫んだ。
「そうですね。自然は栄え、鬼も栄えました。でも、我々は今、全滅の危機にいます。悲しいですが、鬼はこの島にいるものだけになってしまったと言われています。」
「悪いやつらのせいだ」
「そう。我々の作った自然を荒らし、森を切り、海を汚した。あのいまいましい連中は素晴らしい自然を壊しています。それだけじゃない。今、こうして我々の命を狙っているのです。欲望を満たし、自分たちが支配者となるために。」
生徒たちは低い声でうなった。
「悪のしもべめ。でもなぜなんですか。こんなにすごい、正義の鬼が、どうして勝てないんですか。そんなやつら、ひとひねりできないんですか。」
「やつらはひきょうです。自然に逆らい、壊してきたやつらですからね。でも、」
先生は力強く生徒たちを見た。
「正義は必ず勝つ。これは昔からの決まりです。私たちが繁栄して来れたのも、私たちが正しい道を歩んできたからです。やつらはいずれ滅びるでしょう。これは間違いありません。」
「そうだ、そうだ!」
生徒たちは叫んだ。力を入れすぎたあまり、雷が鳴り響いてしまった。
「こら、むやみに力を放ってはいけません。」
「はーい」
そのとき、校長先生が駆け込んできた。生徒たちはその恐ろしい顔にぎょっとした。自分たちも鬼とはいえ、大人の怒った顔は本当に恐ろしいのだ。雷のことで怒られると思い、涙目になった。だが、違った。
「避難してください。人間が、動物たちを連れて乗り込んできたんだ」
生徒たちを連れ出して、先生は外に出た。外では、刀を持って奇妙な格好をした男が、犬や猿など動物を操って鬼たちに襲いかかっていた。鬼の怒った顔も恐ろしいが、刀で切りかかるその男の顔は狂気に満ちた表情としか言いようがなかった。次々と罪のない鬼たちをなぎ倒し、わずかに笑みも見えた。
「我こそは桃太郎である。鬼たちを成敗したぞ。」
何か男が自信たっぷりに叫んでいるのが聞こえた。悪夢のような侵略劇が続いていた。

しばらくして、壊滅した島の洞穴から三人の鬼が出てきた。先生と二人の生徒が辛うじて難を逃れていたのだ。彼らは声を上げることすらできなかった。外は地獄のような状態だった。森や家は焼かれてしまって何も残っていない。大人の鬼たちは殺され、財産も奪われているようだった。
「私たちの信じていた正義はなんだったのか」
先生は涙ながらにつぶやいた。
彼らはふるさとを失い、ひそかに陸を目指し、船で島を出た。そして静かに山の中へもぐりこんでいったと言われている。

侍の桃太郎は、鬼が島の鬼退治に成功し、意気揚々と自分の住む集落に帰った。
「おお、桃太郎!無事じゃったかあ。やつらは退治したかえ」
「ええ。やりましたよ」
育ての親であるおじいさんとおばあさんは涙ながらに家に迎えた。
彼は自分の力を試す絶好の機会となったことに深く満足していた。さらに、みんながその存在におびえていた鬼たちを退治したことで、正義の英雄として集落で迎えられた。
「正義は勝つのです。いつの時代も正義が勝って歴史を作ってきたんだ、はっはっは」
この出来事が、人間の世界では後世まで正義の英雄の物語として語り継がれることとなった。


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