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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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生滅流転 (しょうめつるてん)

12/11/22 コンテスト(テーマ):【 兄弟姉妹 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:3465

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「どうしたんだ?」
 悦蔵は、何かに怯えて、うずくまる紗菜に訊いた。妹は「うーうん、兄さん」とだけ答え、あとは泣きじゃくる。
 悦蔵はそんな紗菜が震わす肩越しに目撃したのだ、天にも昇る火柱を。
 炎は村の庄屋でごうごうと燃え盛っている。悦蔵は総毛立ち、めまいを覚えるほどだった。しかし妹が無性に哀れに思われ、力を込めて抱き締めた。

 悦蔵は紗菜を問い詰めなかった。なぜなら紗菜が火をつけたことは、その涙の濃さからして明々白々たる事実だった。まるで夜叉にもなってしまった妹、その気持ちが痛いほどわかる。そして兄として、ここに至ってしまった以上、覚悟を決めた言葉を絞り出す。
「紗菜、ここから逃げよう、今すぐに」
「うん」と紗菜は小さく頷き、涙で濡れた手で悦蔵にしがみつく。

 悦蔵は十四歳、紗菜は十二歳、なかなか利発な兄妹だ。しかし、よくここまで生き延びてこられたものだ。
 母と三人で細々と村の外れで暮らしていた。母は雪のように色が白く、綺麗だった。二人はそれが幼なながらにも自慢だった。そして貧しくとも幸せだった。
 だが、あれは三年前のことだった。母は祭りの後の宴席に呼び出され、庄屋へと出掛けて行った。そして村の男たちにいたぶられたのだ。
 逃げる母を追い掛け、獣のように襲いかかった荒くれ者たち。それを庄屋の旦那の庄助は不気味な笑みで眺めていた。そして最後に、母は庄助に弄ばれ、絞め殺された。
 こんな一部始終を見てしまった悦蔵と紗菜、まだ年端もいかない子供だった。だが母を守れなかったことが悔しい。そして、それは憎しみに変わり、日ごと恨みが骨髄に染み渡って行った。
 だから悦蔵は理解できた。紗菜がここにきて、母の無念と、そして自分たちの怨嗟を晴らすために屋敷に火をかけたのだと。

 万が一のことを考え、「何か困ったことがあったら、山寺に行きなさい」と、母はいつも二人に言って聞かせていた。
 悦蔵には迷いはなかった。その教え通りに紗菜の手を取り、三日三晩寝ずに野を駆けた。そして山を登り、今にも朽ち落ちそうな寺へと辿り着いた。
 門を叩くと、天狗のような坊主が現れた。二人が助けを求め駆け込んできたことに別段驚く風でもなかった。
「わしは生滅流転(しょうめつるてん)という坊主じゃ。世の恨み辛みは絶えぬもの。それが運命だと思い、ここでしばらく精進せよ」
 坊主はこんな小難しいことを告げ、二人に夜露が凌げる小さな小屋を与えてくれた。それでも悦蔵と紗菜は嬉しかった。なぜならここでなんとか二人で力合わせて生きて行くことができるからだ。

 そして兄妹にとって穏やかな三年の年月が流れた。悦蔵は十七歳、背はスラリと高く、なかなかのいい男になった。坊主、生滅流転の影響なのだろうか仏門に入りたいと思っている。そして紗菜は、きっと母親譲りなのだろう、抜けるような白い肌を持つ美しい十五歳の娘へと成長した。
 そんなある日のことだった。四、五人の野卑な男たちが寺を訪ねてきた。
「やっと突き止めたぞ。お前たちが火をつけたのだろう。村へ連れ戻して、八つ裂きの刑にしてやる」
 こう怒鳴り散らし、ならず者たちは有無も言わせずに悦蔵と紗菜の手を取った。そして連れ出そうとする。それを遠くから見ていた坊主、生滅流転は前へと進み出てきた。そして言い放ったのだ。
「ちょっと待たれぃ! 火を放ったのは……このわしじゃ!」
 これは奇妙なことだと思ったのか、「何をほざくか、この生臭坊主! おまえには火をつける理由がないだろ!」と、いかにも親分風な男が声を荒げる。生滅流転はこれに仁王立ちとなり、鬼の形相で浴びせたのだ。
「庄助は、同じ空の下では生かせておけないわしの不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だ。ようく心得よ、火を放ったのは……わしの妹の仇討ちじゃ!」
 こうして生滅流転は不逞の輩に連れて行かれ、二度と寺に戻ってくることはなかった。こんな事態の後、悦蔵は寺を引き継いだ。そしてしばらくして、紗菜は嫁いで行った。

 それから幾星霜の時が流れただろうか、初雪が降り、山が白く化粧した寒い朝のことだった。歳の頃は十四、五歳だろうか、少年と少女が必死の形相で寺へと駆け込んできた。
 山寺の僧・悦蔵は二人が多くを語らなくともすべてが手に取るようにわかる。まるで昔の自分たちを見てるようだ。そして込み上げてくる愛おしい気持ちを抑え、かって聞いたことがある言葉で静かに伝える。
「わしは生滅流転という坊主じゃ。世の恨み辛みは絶えぬもの。それが運命だと思い、ここでしばらく精進せよ」
 しかし、悦蔵はそれだけの言葉だけでは終わることはできなかった。さらに言い添えるのだった。

「お前たちが、これからの生涯幸せに生きて行けるよう、わしがその流転を変えてやろう。母と愛しい妹、紗菜のためにも」


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このストーリーに関するコメント

12/11/22 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

すべてのできごとは流転していくものなのかもしれませんね。
住職の心はこんな風にして継がれていくのでしょう。
読み応えのあるお話でした。

12/11/22 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

何んと力強い話なんでしょう。
哀しい運命に彷徨う子供たちを救う生滅流転という坊主になって、
不幸な彼らを幸せにしてあげてください。

心打つ兄弟の物語に感動でした。

12/11/23 草愛やし美

鮎風 遊さん、拝読しました。そして、感動しました。

兄妹の無念さは、いかほどだったでしょう、もうそれを思うだけで、断腸の思いになります。

生滅流転、生きるも滅びるも、流れていくもの、いい言葉ですね。人生をそんな風に流れていくものなのでしょうね、つまらないことに、しがみついて生きている自分に言い聞かせました。

12/11/26 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

そうですね、流れているんですよね。

運命という川が。

12/11/26 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございます。

いつか流れが変わる時が来ます。

12/11/26 鮎風 遊

草藍さん

大きな流れの中で世代は変わっていく。
しかし同じことが起こってしまう。

だが、いつか変わるでしょう、運命という流れは。

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