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Sakuraiさん

心に残るお話や面白い話を書くのが好きです。 小説が苦手な人でも読めるような読みやすさを心がけています。 Twitter:@melou_ox

性別 男性
将来の夢 小説家
座右の銘 世界を変えようとする前に自分を変えよ

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休日の使い方

17/05/09 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 Sakurai 閲覧数:613

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 私は寂しい人間だろうか。
 休日の昼間に一人で家にこもってチャットサイトでチャットに勤しむ私を見たら、誰もが私を寂しいやつだと笑うかもしれない。
 しかし、そんなカラカラと向けられる憐みがあるなら、私はそれをまるでステージの上で大歓声を浴びるピエロの如く嬉々として受け止めよう。

 チャットサイトとは一昔前に流行った、顔も名前も知らない誰かと気軽にチャットができる場所だ。
 私は時々ここに赴いては、ワンクリックでチャットを始める。

 チャットは数分で終わるものが多い、けれど時には話が弾み三時間以上続くこともある。
 そして長時間のチャットの最後はいつもお互いにありきたりな別れの言葉を述べ、たったワンクリック。
 それでおそらくもう二度と出会うことはない。

 当然その関係を寂しいと思うこともある。けれど、だからこそここは素晴らしいと思える。
 もう一度出会いたいと願っても、それは叶わぬ願いなのだ。
 一期一会……一つ一つの出会いを大切にしたいと思わせてくれる。

 そして私は今日も人差し指でチャットを始める。

 チャット相手は20歳の女性だった。彼女は体が弱いらしくいつも家に引きこもりがちだという。
 こういう自分と正反対の人とのチャットは、普段では得られないようなものが得られることが多い。
 そんなことを期待して私は作業をこなすかのようにただただチャットを打ちこんでいく。

 しかし彼女は体が弱いということ以外に自分のことを話したがらなかった。
 無理に話してもらうのは好きではなかったので、とりあえず自分の話をすることにした。

 会社で上司にこき使われた話。
 定食屋でオムライスを頼んだら何故かカレーライスが運ばれてきた話。
  
 私の話はどれも他愛もない話だった。
 聞いても一円の価値もない。「それで?」と言われたら何も言い返すことができない。
 まるで私という存在を体現しているような実につまらない話だった。
 けれどそんな私の無意味な言葉の羅列とは対照的に、彼女は顔文字を交えながら楽しそうな反応を見せた。

 そして、”羨ましいなぁ”という一言が私の視界に飛び込んだ。
 私は何も羨ましがられるような話をしたつもりはない。

 しかし、幾らチャットだからといってその彼女の言葉の意味が分からないほど私は鈍感ではなかった。
 私は彼女にそんなにも体の具合が悪いのか尋ねた。

 すると彼女は少し渋ったあと、自分がもうあまり長くないことを打ち明けてくれた。
 私はその言葉に少しばかり憤りを感じずにはいられなかった。
 残り少ない人生なら誰か大切な人と過ごすべきだ。こんなチャットサイトなんかを使ってる場合じゃない。
 私は唇を噛みしめながらキーボードに指を走らせた。

 そんな私の言葉に彼女は『私もそう思います笑』なんてことを言い出した。
 私はその言葉を聞いてひどく自分の言葉を恥じた。
 死と直面している人に私はなんて浅はかな発言をしてしまったのだろう――

 私にも大切と呼べる人がいなかった。
 だからもし私が仮に彼女と同じ状況だったらきっと同じことをしていたと思う。
 自分のことを最期に誰かに知っていてほしい。誰かの記憶に残りたい。そう願ってしまうだろう。

 私は自分の名前を教えると、次に彼女の情報を聞いた。
 個人情報を聞くのは当然マナー違反だ。
 しかし彼女は親切にも名前と入院している病院を教えてくれた。
 それは私の住んでいる都内の病院だった。

 私は暗い部屋をあとにした。

 何故こんなことをしたのか自分でもわからない。
 彼女に会ってどうするのかも考えていない。
 しかし会わなければ一生後悔する。それだけは確かに分かっていた。

 私は花言葉もわからない花を携えて、彼女の名前が書かれた部屋の扉の前に立っていた。
 ゆっくり息を吐くと静かに扉を開ける。

 彼女は私の顔を見るなり驚くわけでもなく、ただ優しく微笑んだ。
 その笑顔はどこまでも弱々しく儚げで、そしてとても綺麗だった。

 それから私と彼女は毎日のように陽の差しこむ病室で話をした。
 くだらない話を飽きるまでした。病室なのに二人して笑いあった。

 しかしそんな日々は長くは続かず、彼女はそれから一か月も経たないうちにこの世を去った。
 彼女は私がよく持ってきていたガーベラという花が好きだと言っていたが、私はもう見たくもなかった。

 とある休日、土砂降りの雨の中私は見慣れた名前が掘られた墓の前で傘も差さずにポツリと立っていた。

 もし私が死んだら私のことは忘れてね
 そうポツリと零した彼女の笑顔が今も頭から離れないでいた。

 私はあの病室と同じように彼女に向かって、彼女の好きな面白い話を始める。

 今だけでいい、こんな私を笑ってほしい。


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