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真早さん

ブロマンスやロマンシスが書きたい。 何気ない日常や、日常の中の非日常を書くのが好きです。 http://ienagaworks.php.xdomain.jp/

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やすむひ

17/05/09 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:4件 真早 閲覧数:868

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「おはよう。飯はまだか」
 朝起きると、飼い猫のリーが椅子に座って声をかけてきた。雑種のオス、体の毛は黒くて鼻のまわりと足先の毛だけが白い猫だ。
 リーの座り方は、今まで一度も見せたことのないスコ座りだったが、やたらと背筋が伸びていて、猫のくせに猫背ではなかった。
「腹へった」
 リーが口を動かし、先ほどと同じ低いオヤジの声が出てきた。リーは七歳になるから、人間で換算したら四十過ぎの立派なオッサンだ。
 これは頬をつねるまでもなく、夢に間違いないな、と飼い主の啓は確信した。今日は土曜だし、目が覚めるまで付き合ってみようと考える。
「待ってろ、今カリカリ出すから」
 妙に楽しくてニヤニヤしながら啓は答え、リーの餌がしまってある戸棚に向かう。
「カリカリだと? そんな、猫の餌などいらん。今日、俺は猫を休んでいるのだ。お前と同じものを食わせなさい」
 前足でテーブルを叩き、リーは威嚇する顔で言ってきた。
「えー……、俺は朝は食わないしなぁ。カップラーメンくらいしかないよ」
「それで構わない」
「えー!? 麺だぞ? 猫が啜れるか?」
「猫は休み!」
「ああ、そうね」
 これは夢だと思い直し、それでも一応啓はカップラーメンのかやくからは乾燥ネギを除いて、お湯を注いで用意する。蓋の隙間から漏れる湯気に、リーは鼻を動かしていた。
「箸」
「はいはい」
 人使いが荒いのはいつものこと、啓はリーに言われるがままだ。猫は休みでも主人と下僕の関係は変わらないらしい。
 箸を手渡すと、リーはどうやっているのか、器用に前足で持ってラーメンを食べ始めた。猫舌ではないようだ。
「うむ、美味い」
 ご満悦の表情で頷いた後、あっという間に麺はリーの口に吸い込まれていった。スープまで全部飲み干し、口の周りは舐めずにティッシュで拭いていた。
「さて、次は歯磨きだな」
「はいよ」
 もうリーが何を言っても、二本足で立って歩いても啓は驚きはしなかった。
「シャワーを浴びる」
「はい」
「トイレ」
「はい」
「暇だ」
「猫じゃらし……痛い!」
 啓が出したのはリーのお気に入りで、片付けておかないといつまでも遊びたがる猫じゃらしだったが、手を叩かれて落とされてしまった。さすが、爪は立てていなかった。
「テレビとか、DVDを見せなさい。お前がいつも過ごしてるように」
「はいよ……。ねこ歩きでいい?」
「構わない」
 ご所望とあって、土日に見るべく録り溜めた番組を啓も一緒に見ることにする。猫の時の――今も姿は猫だが――リーもお気に入りの番組だ。
 それからリーは、猫は休みと言うことで、昼寝もほとんどせず――休みなのに休んでいない不思議――、啓とほぼ同じことをして一日を過ごしたのだった。
 日が暮れ、夕食も終わり、歯も磨き、風呂も入ってふたりは布団に潜った。一緒に、大きなあくびをする。
「はー、もう休みも終わりか。お前は明日も仕事が休みでいいな」
「はっは。そうだな。お前は休みが少ないな」
「ブラックだからな」
「黒い毛だけに?」
「やかましいわ。白毛でもそうそう休めんからな」
「はっはっは」
 何となく名残惜しい感じがして、リーが眠るまで話をし、啓も――夢の中だが――眠りについた。
 翌朝、リーの猫パンチに起こされた啓は、枕元のスマホを見て頭を抱えた。カレンダーは日曜の日付を表示していたからだ。スマホのバグかと思ってテレビやパソコンをつけてみても、やはり今日は日曜だった。
 平日もそんなに忙しかった訳ではないのに、丸一日よく眠っていられたな、だとか、リーは大丈夫なのかとか、リーの鳴き声にさえ気づかなかったのかだとか、あれこれ頭に巡っていく。しかし何はともあれとりあえず、高い声でニャアニャア鳴くリーの飯が先だとカリカリを用意して、リーの前に置いた。待ってましたとばかりにリーは勢いよく食べ始める。
「俺も一日飲まず食わずだったみたいだし、何か食おう」
 不思議とそれほど空腹感はなかったが、啓はカップラーメンでも食べようとシンク下の収納を覗く。しかし目的の物はなく、代わりに空の容器がゴミ箱に捨ててあった。
「あれ? 俺、食べたっけ?」
 まったく記憶に残ってないが、昨日の土曜は起きて活動したのだろうか。啓はしきりに首を捻った。
「うーん……?」
 覚えていることと言えば、リーが猫を休んだ夢な訳だが。
「リー」
 カリカリを頬張るリーに啓は声をかけてみる。だが彼はうるさそうに耳を弾かせるだけだった。
「お前、昨日猫休んだか?」
 聞いてみても答える訳もなく、カリカリを噛み砕く音だけが響く。
「……ブラックかぁ」
 呟いて、啓はもう少しリーが猫を休む日を作っても良いかな、だとか、いつ休んでも良いようにカップラーメンでなく鶏のささみを常備しておこうかな、だとか、そんなことを思ったりした。


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このストーリーに関するコメント

17/05/09 クナリ

シャワーやトイレをどんな格好やしぐさで済ませたのか……とても登場人物が生き生きとした作品ですね。
愛する動物との、意志の疎通のできるひととき……憧れの世界観ですね!

17/05/09 真早

クナリさん
ありがとうございます!猫を演じることが猫の仕事だったら……と妄想して書いてみました。
シャワーやトイレは果たして一匹でできたのか(笑)
ペットと会話、できたら本当に楽しそうです。

17/06/17 むねすけ

読ませていただきました
猫が飼い猫を休む、という発想の種を楽しんで展開しているのが伝わってくるテンポのいい文章が気持ちよかったです
お前と同じものを食わせなさい、ここでクスッと笑えました

17/06/18 真早

むねすけさん
ありがとうございます!ギャグテイストで、ゆるゆる力を抜いて書きました。
笑っていただけたシーンがあって嬉しいです。面白く読んでいただけたなら幸いです。

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