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日向 葵さん

「ひなた あおい」と申します。 小説を書きます。 よろしくどうぞ。 twitter@aoi_himata_21

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ショート・ミステリー

17/05/08 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:765

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それでは推理を始めよう。
杜若菖蒲(かきつばた あやめ)はそう言った。
猫を捜索中、悲鳴が聞こえた他所様の家に何の躊躇もなく突撃した彼女は意気揚々とそう言った。現実の私立探偵というのは小説のように殺人事件に遭遇したり、警察から協力を依頼されたりはしない。それ故に今の彼女はこの状況に歓喜に踊り狂わんばかりの心境なのだろう。僕は半ば呆れながらも、尻拭いをするために彼女に付いていかない訳にはいかなかった。
「まずは状況を整理しよう飾君」
彼女は偉そうにそんなことを言うが、僕はお茶会中だったマダム達に謝辞を述べるので精一杯だった。まったく、人の気苦労も知らないで何を言っているのか。とりあえず、斎藤という女性に警察へ連絡するよう指示しておいた。
「お茶会中に亡くなったようですね。見たところ中毒死かと」
「ふむ」
彼女は額に人差し指を押し当てて、いかにも推理していますと言わんばかりのポーズをとる。
不肖わたくし掉尾飾(ちょうび かざり)がマダム達に聞いた話を説明すると、お茶会に参加していたのは斎藤、田中、伊藤、そして亡くなった木下。豪勢にショートケーキホールを切り分けて、紅茶を楽しんでいたところ突然木下が苦しみだし、泡を吹いて倒れたと言う。
「君たちはいつもこんな会を開いているのかい?」
彼女は落ち着いた風に問うてはいるが、不謹慎にも口元が僅かに緩んでいる。
「いえ…。私達は今日初めてお会いしました。知り合いは伊藤さんだけです…」
田中、斎藤は口をそろえてそう言った。どうやら田中、木下、斎藤の三人はそれぞれ伊藤の知り合いではあるが、会うのは今日が初めてということらしい。
「ケーキを切り分けたのは?」
「田中さんです…」
「お茶を淹れたのは?」
「斎藤さんです…」
彼女の問いに伊藤が淡々とそう告げる。否定する者はいないので恐らく事実だろう。僕は彼女の指示で家中を探したが毒物のようなものは見当たらなかったし、マダム達の持ち物も同様だった。調べ終えると、指示もなかったので僕は何となくテーブル上の食べかけのショートケーキと紅茶を眺めていた。
段々と眠くなってきた頃、彼女はようやく口を開いた。
「犯人は斎藤さん、あなただ!」
いきなり大声を出すので、僕もマダムたちも思わず体をビクつかせてしまった。
「あなたは木下さんのティーカップに毒を入れたんだ!特定の人物に毒を盛るのは難しい、紅茶を入れる時に毒物を混入させたんだろう」
「違う!私じゃない!」
「菖蒲さん、斎藤さんじゃないですよ。斎藤さんは毒を持っていなかったし、そもそも亡くなった木下さんは紅茶に手を付けていません」
彼女はテーブルの上に目を落とし、木下が座っていた位置のティーカップを見る。木下はショートケーキにしか手を付けていなかった。彼女は顔を紅潮させて、再び叫んだ。
「じゃあ、田中さんだ!きっとケーキを切り分けるときに毒を…」
「だから、田中さんも毒を持ってませんってば」
僕は食い気味に彼女の推理を否定した。まったく、彼女は一体、長い間何を考えていただろうか。
「ケーキを買ってきたのは誰ですか?」
「伊藤さんです…」
そこで僕はようやく気付いた。この殺人の真実が。
「菖蒲さん、毒はケーキに混入していた筈です。後はいつ毒を仕込んだのかが問題ですね…」
すっかり、しょげこんでいる彼女の耳元で僕は囁くようにそう言った。彼女は横目でテーブルに並んだケーキを眺める。すると、彼女は何かを思い付いたのか表情がぱあっと明るくなり、再び口元が弛緩した。
「ふふ。犯人は伊藤さんですね?」
落ち着いた口調で、犯人を追い詰めるように彼女は声を漏らした。
「どうして私が?いったいどうやったって言うの?毒は持っていないのよ?」
明らかに手ごたえの違う返答に彼女も確信を得たのか、得意げに自身の推理を話し始めた。
「毒を仕込んだのはケーキを購入した時です。それなら持っていた毒は処分できる」
「でも、切り分けたのは田中さんよ?買った時に毒を仕込んだのなら、木下さんのケーキにだけ毒を盛ることは出来ないわ」
確かにその通りだ。しかし、菖蒲は余裕の表情を崩さない。
「苺にだけ毒を盛ったのよ。ショートケーキの上に乗ったね」
伊藤の表情が強張った。
「あなたは知っていたのよ。木下さんがショートケーキを食べる時、苺を最初に食べる事を。そして、他の人たちは苺を最後に食べる事も。ここに居る全員と知り合いのあなたなら知っていても不思議じゃない。ホールケーキの苺を調べればきっと全ての苺から毒が検出されるわ」
「そんな…」
伊藤は膝から崩れ落ちた。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。現場を滅茶苦茶にしたことを警察に謝らなければならないと考えると、苦痛で仕方なかったが、杜若菖蒲の満足そうな表情を見ると常々僕は甘いなと思ってしまうのである。


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