1. トップページ
  2. エリート正義漢

比些志さん

ペーソスとおかしみの中にハッとさせられるなにごとかをさり気なく書いていきたいと思います。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

エリート正義漢

17/05/08 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:454

この作品を評価する

青天白日社は独自に開発したソーシャルメディアを武器に世界平和と再生可能環境の実現を理想に掲げる新興のベンチャー企業である。その社風は同社の社是が「正義」という一条のみに集約されていることからも明らかなとおり、社員のだれもが自分たちこそ正義そのものであると信じて疑わない様子であり、それゆえに自信と情熱にあふれていた。

その青天白日社の入社面談の会場にひときわ希望に燃える一人の紅顔の青年がいた。

青年は面接官である人事課長と主任に相対していた。そしてひととおりのやりとりが終わったところで、主任がこう言った。
「では最後に、質問があれば、なんなりと」
「では、その胸につけているバッチですがそれはいつも着用しなければならないのでしょうか?」
「これは当社の社章である青天白日 バッチです。これを胸につけることで、いついかなる時も正義の名のもとに立ち振舞うことが求められるとともに、当社とステークホルダーの利益のために自らの信念を貫き通すことが認められます。よって出社する時はだれもが着用しなければなりません」
「では同僚同士で言い争う場合、どうなるのでしょう?」
「同僚同士のディスカッションは社内でも奨励されています」
「でもどちらも正義だと言い張れば、どちらも譲らず、いつまでたっても議論は平行線になると思いますが」
「その時は上司が間に入ります」
「では上司と意見があわなければ、どうするのでしょう」
人事主任は辟易する様子を微塵も見せることなく淡々と答えた。
「それはありません。上司の意見に反発するような人間は当社にいません。もちろん上司が 間違っていれば、当然ただすべきですが、当社の上司は、みな清廉恪勤、熟慮断行のエリートですから、いかなる場合も上司のアドバイスを素直に聞き入れることが、解決の一番の近道だとおもいます」
「そうですか…でも、そうかなあ」
青年は納得していない様子だったが、面接の終了時間が来たので強制的に会話は打ち切られた。

青年が部屋から出て行った後、主任が課長に話しかけた。
「課長、どうでしょう?あの青年。たしかに学歴や成績、正義指数、いずれも非の打ち所がないように思いますが……まさに選りすぐりの正義漢とでもいったところでしょうか」
「いやいや、君、ああいうほんものエリート正義漢は、扱いづらくて我が社の社風にはあわないね。今回は残念ながらご遠慮頂くことにしようよ」
「承知致しました。その通りにいたします」

青年は残念ながら青天白日社に入社せず、外資の投資会社に入った。

しかし、それから三年後、青年は青天白日社のビルの最上階の社長室にいた。

悲願である青天白日社の買収に成功した青年社長は、窓から皇居を睥睨しながら、この三年間の労苦を思い返し、しみじみと感慨にふけった。

……正義は結局、力だ。正義面した奴に限ってむしろ権威や権力に積極的に媚びようとする。おまけにそういう奴は、馬鹿がつくぐらいに真面目でなんの疑問もはさむことなく上司の言うことに素直に従う。組織にとって、こういう人間たちがもっとも扱いやすい。まさに正義さまさまだ。

そこへ人事部長が揉み手をしながら入ってきた。青年が青天白日社長を買収をした際に課長から部長に引き立てられた男である。いまでは社長の右腕となっていた。

「どうかね人事部長、今年の新入社員は?」
「おかげさまで社長の理想に共鳴した多くの優秀な若者がエントリーしております」
「そうかね、採用はすべて君に任すよ」
「ありがとうございます。きっとご期待に添えるよう、選りすぐりの正義漢、を多数採用いたします」
二人は目の奥にそれぞれ狡猾さを湛えながら、声をあわせて大声で笑った。了


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品