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まーさん

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何もしなくていい日

17/05/08 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:1件 まー 閲覧数:729

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 その国の戒律はとても簡単で楽なものだった。
 ただ次の三つを守りさえすればよかったのだから。
  1.休息日は神が天地創造の際に設けたものなり。あなたはこれを忘れてはならない。
  2.休息日は夜明けから日没まで何もしてはいけない。
  3.休息日を軽んじてはならない。
 だがこの三つの戒律を基にして、この国ではいつからか休息日原理主義を掲げる武装勢力が台頭するようになっていた。“何もしてはいけない”の定義が異常なほど厳格になっていくのは自然なことだっただろう。

 小高い丘を中心に、見渡す限り石造りの家が連なっている。その一角の一軒家、この国で暮らすユーイとウーイという二人の姉妹はいつものように、戒律に背くことなく家の中でのんびりと過ごしていた。
「ねー、ウーイ。今日って本当に何もしちゃいけない日なのー?」
「何言ってるのお姉ちゃん。カレンダーに休息日って書いてあるでしょ。またこの前みたいにふらふらどこかに出かけたりしないでよ」
 床の上、姉妹はそろって脱力した様子で寝そべっている。燃えるように熱い天候のためか、休息日で何もすることが無いからか、理由はそのどちらでもあるだろう。
「ウーイぃ〜、アイス〜」
「日没までだめ。食べてるとこ見つかっちゃったらどうするの。お姉ちゃん殺されちゃうかもしれないんだよ。お父さんとお母さんだってそれで……」
 口ごもるウーイの表情は暗くなっていく。ユーイは申し訳なさそうに「ごめん、ウーイ……」と呟いた。
 と、家のドアが勢いよく開き、一人の少女が転がり込んできた。少しがさつなところがあるが、ユーイの大切な友人の一人だ。
「あ、リッツちゃん。遊びに来てくれたの? 嬉しい! 何して遊ぼっか」
「お姉ちゃん、休息日は遊ぶのもだめなんだってば。それより……どうしたんですか、リッツさん」
 これで退屈が紛れると期待したユーイとは違い、ウーイはリッツのただならぬ様子を察した。
 途端、リッツは二人の前で泣き始めた。嗚咽混じりに語り始める。
 リッツの話は、彼女が飼育していた子亀がついさっき川に逃げ出したというものだった。暑すぎて川の中で涼みたかったのかもしれない。それでもリッツは大切に子亀を育てていたため、慌てて川から引き上げようとした。ところが実際には、ただ川に流されていく子亀を見送ることしかできなかった。たまたま近くを偵察していた原理主義の男が、リッツの前に立ちはだかって何もさせてくれなかったのだ。
 話を聞き終わるや、ユーイは憤慨した様子で声を上げた。
「ひどい! せっかくリッツちゃんが大切に育てて大きくしてから食べようとしてたのに!」
「してないから! ……あーあ、今日が何でもしていい日だったらなぁ」
 そんなリッツの言葉に、ユーイは突如ハッとした表情を浮かべた。そして慌てて立ち上がると、ウーイとリッツの制止を振り切って外に飛び出した。
 炎天のなか、丘の頂上を目指しながらユーイは様々なことを考えた。
いままで深く考えることもせず戒律に従い続けていた。この国で生まれた以上、戒律全部が間違っているとは思わない。でも戒律以上に大切にすべきことがあるんじゃないか。
 そんな焦りにも似た感覚がユーイを突き動かしていく。
 そして頂上にたどり着くや、ユーイは声の限り叫んだ。
「“何もしちゃいけない日”じゃなくて、“何もしなくていい日”のほうが好きー!!」
 今の正直な気持ちを大声で遠くまで響かせたかった。ただそれだけ。しかし近くにいた原理主義の男は、やはり危険思想と判断したようだ。反射的に肩にかけていたライフルを構え、銃口をユーイへと向けていた。
 ユーイの声が遠くまでこだました後、すぐに一発の銃声が儚く響き渡った。

 とある休息日の朝、母親は生まれたばかりの自分の赤ちゃんのミルクを作っていた。赤ちゃんがお腹を空かせて泣いていたからだ。
 とある休息日の昼過ぎ、少年と飼い犬は一緒に野原を駆け回っていた。外は雲一つない青空で、こんな日は自分も犬も野原で遊んだほうが楽しいと思ったからだ。
 とある休息日の日没前、医者が忙しそうに患者を治療していた。原理主義グループの暴行や銃弾によって倒れた多くの老若男女が病院に運び込まれていたからだ。看護師の一人は頭を包帯で巻かれた少女に食事を用意していた。その周りでは少女の妹や友人が、彼女を心配そうに見守っている。
 看護師にゆっくり食べるようにと言われたそばから、少女は食事をかきこんでむせ返った。妹が慌てて水を差し出す。少女は瞬く間に水を飲み干して幸せそうな顔を浮かべた。ころころと変わる彼女の様子に、看護師、妹、友人は思わず吹きだした。
 朗らかな笑い声が病室に響き渡っていく。
 その解放感にあふれた空気は、あたかもこの国全体を包んでいくかのようだった――。

   了


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このストーリーに関するコメント

17/05/23 あずみの白馬

拝読させていただきました。
「しなくてもよい」と「してはならない」は全然違うものだと改めて感じました。
なかなかの良作だと思います。

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