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若早称平さん

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レジャーシートは二度舞う

17/05/08 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:623

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 新緑を揺らす風がそのついでとばかりにナツキ達のレジャーシートをふわりと浮き上がらせる。飛んでいってしまわないようにマコトが慌てて膝で押さえ込み、そのまま四隅に石を置いた。その仕草がツボに入り、ナツキが吹き出す。
 レジャーシートの縁には色もデザインも同じで大きさだけが違うスタンスミスが二足並んでいた。示し合わせたわけではなく、服の趣味が似ているのか持ち物がお揃いになることがしばしばあった。この日も細部に違いはあれど二人とも白いシャツにブラックジーンズという似通った服装をしていた。

 就職してから忙しかった二人は連休中にようやく一日だけ休みが合った。天気が良いし、公園でピクニックをしようとナツキが言い出し、ドンキでビールとつまみとレジャーシートを買い、正午過ぎには乾杯に至った。
「随分切ったね、ボクより短くなったんじゃない?」
 二本目のビールを開けながら、話題はバッサリと切ったナツキの髪のことになった。
「今どき失恋で髪を切るなんて珍しいって美容師さんにも言われた」
 ナツキは自分の髪を触りながら苦笑する。学生の頃から付き合っていたナツキの元彼とマコトは一度だけ会ったことがある。彫りが深く髭の良く似合う年上の人でとても誠実そうな印象を受けたのだが、話によるとその時からずっと二股をかけていたらしい。
「まあ仕方ないよね、早く次の人探すわ」
 ナツキはうつ伏せに寝転がり、シートの外に咲いていたタンポポを指で弄っていた。マコトがそれを眺めていると、
「マコトも寝転がってみなよ、気持ちいいよ」
 と、頬杖をつきながらナツキが手招きをした。つまみを端に寄せて恐る恐るナツキの隣に寝そべると、確かにふかふかした芝生と春の穏やかな陽射しに包み込まれるようで、目をつぶるとすぐに眠ってしまいそうな心地良さだった。遠くではしゃぐ子供達の声も子守唄のように聞こえる。
「なんかさ、幸せだよね」と、呟くように言うナツキはすでに目を閉じていた。
「昼間からお酒飲んで、ひなたぼっこして、最高の休日の過ごし方じゃない? 安上がりすぎるかな?」
「そんなことないよ。ボクもこの時間が永遠に続けば良いと思ってる」
 息がかかりそうなくらい近くにナツキの顔があった。目を開けたらナツキは驚くだろうか? うるさくなっていく心臓の鼓動をナツキに聞かれないようにマコトは自分の胸を抑える。そうして、緊張で声が裏返ってしまわないように二度咳払いをした。
「ねえナツキ。さっきの話なんだけどさ」
「ん?」
 ナツキは夢でも見ているかのように目をつぶったまま返事をした。その気持ち良さそうな、幸せそうな表情を見てマコトの決心が揺らぎそうになる。
 言いかけて黙るマコトを不思議に思ったナツキが目を開けた。二人の視線が交わる。
「その……次の人って、ボクじゃダメかな? ずっとナツキのことが好きでした。……友達としてじゃなくて」
 うん、と言ったナツキの顔からはイエスかノーか読み取れなくて、マコトはもう一度「どうかな?」と尋ねる。
「ごめん」とナツキが微笑む。いつからかマコトの気持ちに気付いていたナツキは、いつかこんな日が来るのではないかと思っていた。
「マコトのことは友達としか思えない。ごめんね」
 一陣の風が吹き、ほとんど空っぽだったビールの缶が倒れる。マコトが素早く起こしたので中身がこぼれることはなかった。起き上がりそのまま残りを飲み干した。
「やっぱりボクが女だから?」
 見上げたナツキも起き上がって正座になり、こくりと頷いた。
「ごめんね、やっぱり男の人が好きなの」
「そんなに謝らないでよ。ダメだろうなっていうのは分かってたんだから」
 言葉とは裏腹にマコトの声は震えていて、それを誤摩化そうと新しい缶を開けて一気に飲んだ。むせて咳き込むマコトを見てナツキが笑う。その笑顔で気まずくならずに今まで通りの関係を続けていけそうな気がして、マコトは胸を撫で下ろした。

「ナツキも飲みなよ」
 話題を変えようとビールを開けてナツキに渡す。「ありがとう」と言って受け取るナツキの腰元にボールが転がってきた。振り返るとキャッチボールをしていたのかグローブを付けた少年達がナツキに頭を下げていた。ナツキは立ち上がって手の中でボールを転がすと見事なフォームで少年へ投げた。ボールは鋭い軌道でグローブへ吸い込まれ、小気味良い音が聞こえた。
「さすが元高校球児だね。坊主頭の頃を思い出したよ」
 マコトが冷やかすように拍手をする。
「やめてよ、恥ずかしい」
 ナツキは照れながらも、自分の髭を触りそうになったのに気付き手を止める。早くこの癖を直さなくてはと思った。二股をしていた最低な元彼からうつった癖なのだから。
 強い風が吹きレジャーシートが捲れる。それを膝で抑えるマコトを見て「また見れた」とナツキが笑った。


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このストーリーに関するコメント

17/05/08 まー

“「やっぱりボクが女だから?」”
思わず二度見しました(笑)。
どんでん+どんでん返しのショートショートはやっぱり面白いですね。

17/05/08 若早称平

まーさんコメントありがとうございます!
今回は最近総評でよく言われてる登場人物の性別、年齢がよく分からないのが多いという事への理由なき反抗心で書いてみました(笑)
上手くできたようで良かったです(笑)

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