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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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自動販売機に閉じ込められた正義

17/05/04 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:8件 むねすけ 閲覧数:1874

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 弱きを助け、強気を挫く。刑事長、村田清、部下、塚本、新人刑事、吉川。三人の刑事たちは事件の犯人を逃がさない。村田はオールドスタイルのトレンチコートにハンチング。塚本はブランド物のスーツをタイトに着こなし、新人吉川はジーパンにUNIQLOのネルシャツをだらしなく着崩している。
 事件は未明。町一番の早起きがコケコッコにジャスト八分勝って目覚めるよりも、一時間前の出来事。
「ケチな痴漢で済ませちゃいけねぇよ、被害者の心の傷はバイカル湖より深いんだからな」
「んでも村さん、強姦未遂でもないんすよ、被害者女性のズボンずらして逃げただけでしょう」
「だからなんだ?」
「いえ、進行中の殺人のやまを優先する方がって思うんですが」
「吉川」
「はい」
「事件に重いも軽いもないんだ、刑に重い軽いはあってもな」
「はぁ」
 刑事長、村さんの捜査もオールドスタイル。現場百回。足を使った訊き込みと事情聴取。張り込みのお供に、缶コーヒーとあんぱん。村さん、あんぱんがたとえ白あんでも怒らないが、薄皮ミニあんぱんだと、ちょっと怒る。缶コーヒーはこだわりでUCCのロング缶。
「甘ったるくありませんか?」
「激辛な仕事選んじまったから、バランスとってんだよ」
「訊き込み行ってきました」
「あぁ、塚本。どうだった」 
「いや、アパートのおばさんに疑われちゃいました」
「なんだ」
「本当に警察の人?警察の方向から来ましたって例のアレじゃないのですって」
「あぁ、やりにくい時代になったもんだ。コピーの情報ばっかりの理論武装で、やれやれだな」
 三人の懸命な捜査で、犯人が特定される。
「間違いないんですね?」
「はい、あの男です。忘れないんです。私、覚えようと思ったものは。写真記憶ってやつ。特技なの」
「え、頭の中で写真を撮って記憶するってやつですか、スゲー」
「数字なら何桁までいけるの?」
「お前ら後にしろよ、それどこじゃないだろう。犯人、県知事じゃねーか」

「これだけ証拠がそろってて、被害者女性の証言もあるんですよ」
「村田、いいからここは引け」
「しかし局長」
「あの人にはこっちも色々と便宜をはかってもらってるんだ。わかるだろう」
 事件は揉み消される。県知事と似た背格好の無職の男が逮捕された。
 写真記憶が特技の被害者女性の口座には五百万の金が振り込まれ、女性は記憶を捨てる。
 無職の男は女性が被害届を取り下げたことで、放免となり、男の口座にも同額の金が振り込まれた。
「一千万で女のズボンずり下げて、立派な県知事もいたもんですね」
 新人の吉川は正義にまだ燃えている。
「正義なんて、もう何処にもないのかもしれないよ」
 空虚に虚空を見つめて塚本が呟く。
「どうなんかなぁ」
 刑事長村田は、決めかねている。

 話はここで終わらない。県知事、佐伯茂之は悪趣味を患って末期の症状を露悪にこぼす。
「現場を見たい?」
「村田、付き合ってやってくれ。すまない」
 県知事、佐伯と刑事長村田、塚本、新人吉川の四人は痴漢行為が行われた現場を訪れる。
「まったく恐ろしい事件だね。合法的な性欲処理の方法なら幾らもあろうにね」
 佐伯は何がしたいんだ?村田、塚本、吉川の三人に共通して浮かんだ疑念は、夜の風に消えていく。答えは風も知りはしない。
「村田刑事長、君はオールドスタイルなんだってね。張り込みにはあんぱんとUCC?ははは、実に昭和の刑事ドラマじゃないか。太陽に吠えろならあだ名は、UCCか。マカロニ、UCC、現場へ向かえ!ってね。ははは、私はデンカに似てると言われたことがあるよ。どれ、君に差し入れしてやろうじゃないか」
 佐伯がジャケットのポケットから小銭を握りだして向かった自動販売機。痴漢の一部始終をすべて見ていた自動販売機。正義が閉じ込められた、自動販売機。
 チャリン。チャリン。チャリン。
 百円玉一枚。十円玉が二枚。押されるUCCのロング缶。
 ゴトリと一本落とされた後、ピピピピピピピピ
 回転する電光、フラッシュする大当たり。夜に、正義がか細く吠える。
「お、ついてるな。当たりか。では、もう一本。君、塚本君と言ったっけ。君の分だ」
 ゴトリ。そして、
 ピピピピピピピ、チャリラリリリリーーーー
「おお、連続だぞ、こんなこともあるんだな」
 ゴトリ。ピピピピピ、チャリラリラリーーー

 繰り返される自動販売機の正義。真の犯人を見ていた自動販売機の正義。
 村田、塚本、吉川は、県知事佐伯がなんのために現場に現れたかを知る。
 震える拳を、三個重ねても、放てない正義は、自動販売機に閉じ込められたまま。
「どうしたんだ、この自動販売機は、壊れているのかな」

 
 


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このストーリーに関するコメント

17/05/05 真早

人間みんなが捨てた正義を、機械である自販機だけが持ち続けている皮肉。刑事たちの行き場のない怒りが表れてて心に染みました。

17/05/05 浅月庵

むねすけ様

作品拝読致しました。
一部始終を見ていた自動販売機の正義。
物言わぬ視点からの、せめてもの反抗が
心にきますね......。
面白かったです。

17/05/05 むねすけ

家永真早さん
コメントありがとうございました
心に正義が付随していると生きにくい、そんなやるせない思いを読み取って頂いて嬉しいです

17/05/05 むねすけ

浅月庵さん
コメントありがとうございます
自販機の一人語りでもっとコメディにしようかと迷ったんですが
ものを言わせなくて、成功だったと思えました
ありがとうございます

17/05/08 待井小雨

拝読させていただきました。
テンポの良い会話運びにむねすけさんの文章の魅力を感じました。
このテンポのままにコメディ調で進むのかな、と思い読み進めてみると、ラストの「自動販売機に閉じ込められた正義」の繰り返すぴぴぴぴぴ、の音に怒りと哀しさが込められているようで……。
むねすけさんの文章の明るさと、ラストのどこかやるせない感じのバランスが良かったと思います。

17/05/08 むねすけ

待井小雨さん
コメントありがとうございます
前半と後半に落差をつけてみようと、意識して書いたので
感じて頂けて嬉しいです

17/06/08 光石七

拝読しました。
前半はむねすけさん独特の軽妙なテンポの会話に楽しく読んでいましたが、後半になるとやりきれない怒りと哀しさが増していきました。
タイトル・ラストが秀逸ですね。
面白かったです!

17/06/08 むねすけ

光石七さん、コメントありがとうございます。
自分でもできずぎと思うぐらいに、今作はラストがばしっと決められた
と自惚れていましたので、ラストが秀逸と言っていただけて、とても嬉しいです

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