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つつい つつさん

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天涯孤独な恋の終わらせ方

17/05/04 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:962

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 仕事が終わり最寄り駅を降りると、駅前のパン屋さんまで急いで走った。あと10分くらいで閉まってしまう。パン屋に駆け込みショーウィンドウを覗くと、シンプルだけど美味しそうなケーキが並べられていた。優柔不断で心配症な僕は、ショートケーキ、チョコレートケーキ、フルーツタルト、シュークリームの4つを選んだ。二人しかいないんだけどナツコさんに好きなのを選んでもらえばいい。レジでお金を払っているとき、ナツコさんのお父さんもこんな気持ちだったのかなって、ふと思った。
 ナツコさんは僕より六つ上のチャーミングな大人の女の人だ。安い給料であくせく働く僕とは違って、自分でインテリア関係のショップを開き、順調に経営している。仕事関係で知り合ったときは、まさか自分がナツコさんみたいな素敵な人と付き合うとは思ってもみなかった。
 半年程前、一週間残業続きで遅くまで働いていた僕は、会社から駅まで電車でたった20分なのにウトウトして乗り過ごしそうになるほど疲れていた。体が重くてヨタヨタと歩く僕は、向こうからスタスタと歩いてきたナツコさんと目が合った。何回か仕事で顔を合わしていたから、ナツコさんは僕に気づいたみたいで軽く会釈してくれた。その時、僕はすぐにでも家に帰って休みたいはずなのに「飲みにでも行きませんか」と、思わず声をかけていた。言った僕も戸惑っていたけど、言われたナツコさんも目をまん丸にして驚いていた。でも、すぐに「いいよ」ってすいこまれそうな笑顔を返してくれた。
 付き合う前からわかっていたことだけど、付き合ってからさらに痛感したのは、ナツコさんは大人で、しっかりしていて、カッコ良くて、僕なんかにはもったいないってことだ。生きるために全然僕なんて必要としてないってことだ。ナツコさんはよく口癖で「私は天涯孤独だけど、一人で生きれるのよ」って言うけど、本当にそのとおりだった。
 ナツコさんが天涯孤独になったのは高校生の頃、お父さんが交通事故で亡くなってかららしい。そんなお父さんは一部上場の外資系の会社で朝から夜まで働き、普段はあまり顔を合わせなかったけど、ナツコさんの誕生日やひなまつり、クリスマスやテストで100点を取った日、とにかく何かあれば必ずケーキを買って帰ってきてくれたそうだ。それも、TVで話題の有名店や一流パティシエの店のものを買ってきてくれたらしい。本当は僕も近所のパン屋のケーキじゃなくて有名店のを買いに行きたかったけど、そんな時間も余裕もお金も無かった。それに、ケンカもしていた。いつものやつだけど。
 ナツコさんは最近よく言うことがある。この前の日曜日も言われた。
「ユウ君、私のこといらなくなったらすぐに捨てていいからね」
「なんで」って聞くと、「私なんておばさんだし、それに天涯孤独に慣れてるから」って、僕を許すように微笑む。そんなこと言われたら僕は、どうせ僕なんかナツコさんの何の役にも立ってませんよって思う。僕がいなくなっても、何にも困らないのはナツコさんの方でしょって言いたくなる。そう思って不機嫌になると、ナツコさんは「でも、ユウ君ならすぐに彼女出来るか。また、誰かナンパすればいいもんね」って意地悪を言う。付き合う時いきなり飲みに誘ったもんだから、僕が誰でも誘う男だと思っている。あんな風に声をかけたのはナツコさんが初めてだって言っても全く信じてくれない。だから毎週ナツコさんに会えるのは嬉しいけど、別れ際はうんざりだった。正直言って、もう嫌だった。耐えられなかった。さよなら言う度にあんな悲しくて、惨めな気分になるのは。
 夕食後に二人でケーキを食べた。僕がケーキの箱を開ける時、「こんな普通のでごめん」と言うと、ナツコさんは箱を覗き込み「なんで? すごく美味しそうだよ」って不思議そうに笑った。そして、「フフフーン、どれにしようかな」って鼻歌を歌いながら楽しそうにケーキを選んだ。結局、ナツコさんがショートケーキとフルーツタルトを、僕がチョコレートケーキとシュークリームを食べた。
 次の日、ナツコさんは明日の準備があるからって、まだ昼前だけど帰る支度をした。そして、用意が出来ると急に周りを、僕を、それから自分をも断ち切るようにそっと目を閉じた。そして、すぐに目を開けると、よそよそしくて寛容的な笑顔を僕に向けた。
「ユウ君、私のこと……」
 僕はナツコさんを遮った。
「ナツコさんは天涯孤独でいいかもしれないけど、僕は一緒じゃなきゃ嫌です。だから、僕と結婚してください」
 ナツコさんはあのときのように目をまん丸にして驚き、そして僕にしがみついて泣いた。しばらくして顔を上げると、まだ目からボロボロ涙をこぼしながら僕の目を見て、そしてまた、嬉しそうに泣いた。


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このストーリーに関するコメント

17/05/05 浅月庵

つつい つつ様

作品拝読致しました。
優柔不断で心配性な主人公が、
お互いの間で感じている格差を乗り越える。
これからは恋ではなく、二人の間に愛が育まれていくのでしょうか。
良い作品でした。

17/05/06 つつい つつ

浅月庵 様、感想ありがとうございます。
めったにストレートな恋愛ものは書かないので、なんか感想もらえてすごくドキドキして動揺してしまいました(笑)
これから愛を育んで家族仲良く暮らしてほしいなと思います。

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